† 六の罪――第三の悪魔(参)
「筆頭執政官のいる、行政省……?」
政治はさっぱりな俺でも、内閣制度が廃止されてから日本の舵取りをしている機関ぐらいは答えられた。
「千代田区で茅原知盛と思わしき人物が目撃されたようです!」
飛び込んできた無線に、顔を見合わせる。
「やっぱ怪魔は囮だったかー。たのんだよ。所長にも応援を派遣するよう言ってみる」
曇ってもいなかった空が泣き出した。それどころではないのに、じっと三条が手の平を眺めている。
「この雨……」
「んだよ、雨ぐらいで気を取られてる場――え、赤……い……?」
ぞっとして多聞さんに目を移すと、彼は大海原の果てにいる何かを睨むように見つめていた。
「悪魔の現れる前兆だよ。血の洗礼、だったかな。たしか地獄大公――」
「夏でもないのに陽炎が……!」
続きを遮るようにして、口々に騒ぎ始める後方の兵士たち。多聞さんは溜息をつき、煙草を手に取る。
「行きな。もうすぐここは、地獄になる」
大穴と火災で変わり果てた路上。十数人の兵士が倒れ、苦悶の呻きを上げている。
(今ので全員やられたか――なんて腕だ……!)
辛うじて生き残った俺は、ビルの影に転がり込み、息を整えていた。行政省の屋上に、僅かな手勢と立つ茅原を発見し、先手を取ることに成功。開幕一斉射撃で茅原以外を全滅させたが、それからの数十秒は、誰一人として一撃も与えられなかった。
「って、うおァッ! ちょ、跳弾!? こっちの位置は見えねーハズ……やはり使い魔のサポートか」
何発かの銃弾が意思を持っているかのように、頬を掠めてゆく。
(……止んだ、のか……?)
再び訪れた静寂。まるで空気までもが彼の殺意の的になることを恐れ、息を潜めているようだった。
「――ッ!? いきなり風が……!」
歴史、声優が好きな方は気づかれたかもしれませんが、登場人物のネーミングには元ネタがあります。




