† はじまりの罪――常闇の渦中に(伍)
階段の手すりに悠然と立つ、全身黒装束の中性的な青年。
「あひぃい……ッ!」
面白おかしい光景ながら、その不気味なオーラが呼び起こすのは、笑いではなく本能的な恐怖であった。しかし、周囲の人々は素通りしている。いくら終電どきで疲れていようと、こうも神秘的で狂気じみた人物が行く手にいたら、気づかないはずがない。そう、これは見て見ぬふりではなく、あたかも、そこに誰もいないかのような――――
「えっと、すみません……ああ、いや――」
「だが、団結したらどうなるか? 目にものを見せてやりましょう」
あまりの浮世離れした耽美な立ち姿と美声に、不機嫌だったはずの彼は、威嚇することも逃げることもなく見入ってしまった。
(……怪魔は人格によって姿から強さまで変わる。貴方がたの憎しみの力、見せていただくとしますか)
吹き込む微風に揺らぐ、女性と見紛うばかりの滑らかな栗毛に、鴉色の外套。薄い双唇を歪ませ、謎めいた男は嗤った。
この世に神様なんていないかもしれないけど、悪魔はきっと存在する。人間というものは――こんなにも、過ちを犯してしまうのだから――――
ペットはトイプードルです。