† はじまりの罪――常闇の渦中に(参)
「あ、犯罪みっけ」
沈殿しているかのようで浮遊しているような呟きに、我が歩みは止められた。
「え、いや……まだ何もして――」
「じゃあ何かするつもりだった、と」
いつも気怠そうにボソボソと喋るが、声質は澄み渡っている柚ねえだけに、冷ややかなまなざしと相まって我が良心を揺さぶる。
「……弁護士を呼んでくれ」
「あたしよりおーちゃんの巨乳が見たいそうです、弁護士さん」
「先に帰っていいと言ったが、覗いてもいいとは言ってないよねー。さすがにおじさんもそりゃマズいと思うよ、犯罪だし」
喜多村多聞。いつの間に入ってきたのか、この大男まで白々しく肩をすぼめてみせる。
「だって見たいか見たくないかで言ったら見たいでしょ! 見る分にはタダだもんな。そう、脳内のフィルムに焼き付ける分には罪に問えねえ」
「いや現行犯はアウトだからね。ま、今のうちにリラックスしときな。明日は生天目筆頭執政官さまの護衛に直で行く。基地に帰れるのはまだまだ先だよ」
「あー、そうでしたね。ったく、そういうのやる奴らいるだろ…………」
「怪魔がこわいのかもー。んじゃ、あたし報告に戻るんで」
手短に伝えると、何事もなかったかのように柚ねえは立ち去った。
「久々の現場で堅苦しい任務とは僕もついてないなー。ま、顔を売っとくに越したことはないよ。ペンは剣より強し、コネはペンより強しってね」
「売れる顔にしとくためにも今日はもう寝ますわ」
何だろう、割と手早く済んだ任務だったのに、普段より疲れた気がしてならない。
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