百鬼夜行
この話は今日のテーマという企画で『百鬼夜行』というテーマで書いたものです。
※GREEにてひねもすのたり名義で掲載したものを加筆訂正してます。
※ブログ「日々是無計画」に掲載したものを加筆訂正してます。
その町には、奇妙な生き物と一寸変わった人々が住むという。誰はなしに、そこは妖町と呼ばれていた。
夢屋は枕を売っている。その枕で眠ると、決まった夢が見られるという代物だ。
ある日、夢屋に大工の伊之助がやって来た。
「おぅ、夢屋。怖ぁい夢を見る枕を作ってくんな。お化けがわんさか出るような枕が良いねぇ」
夢屋の主人・貘は長い鼻を揺らしながら、訊ねた。
「またなんで、怖い夢なんかわざわざ見たいんです?」
「俺が見るんじゃねぇよ。ごうつくばりの金貸しをとっちめてやりてぇのさ」
伊之助が言うには、同僚の大工が最近若い女房をもらったのだが、これがたいそうな別嬪。しかし、亭主の方が屋根から落ちて怪我をしてしまい、しばらく働けなくなってしまった。急場の凌ぎにと、金貸しに一両借りたら、十日後になって「十一両にして返せ、出来なきゃ女房を質草に持って行く」と、こうだ。
「そんなベラボウな話があるかい」
他人事ながら、我慢がならねぇ。と伊之助は言い、懐から十両を取り出した。
「だからこいつで怖ぁぁあい夢ぇ見る枕を作ってくんな」
夢屋はそういうことなら。と、『百鬼夜行の枕』を作った。
さて、十日もすると金貸しは伊之助の長屋にやって来た。伊之助が夢屋に払った十両は、わざと金貸しから借りたもの。金貸しは、百十両返せなければ、金目のものを質草にする、と伊之助に迫る。伊之助は、慌てたように枕を抱え、金目のものなど何もないと言う。しかし、伊之助の枕が、高価な本繻子で出来ているのを目敏く見つけた金貸しは、それを質草に取り上げた。
「持っていかねぇでくれ、そいつは贅沢な夢が見られる枕なんだ」
すがる伊之助を振り切って枕を手に入れた金貸しは、早速その枕で寝てみる。すると、夢か現か幻か、金貸しの枕元に次から次へと古今東西のあやかしが現れては、金貸しの舌を抜き、目をくり貫き、手足を引きちぎる。恐ろしさに目を覚ます。しかしあやかしはまた現れて悪さを繰り返す。また目を覚ます。
何度も恐ろしさに目を覚ます夢を見るうち、どれが現かわからなくなった金貸しは、ついに溜め池に飛び込んでしまった。
「おかげさんで借金はチャラ。あいつの女房も戻って来て万々歳だが……」
顛末を話す伊之助は、枕が思った以上に効果覿面だった事に身震いする。夢屋はしれっとしたものだ。
「だってうんと怖い夢じゃなきゃ、美味しくありませんよ」