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くもり

この話は今日のテーマという企画で『くもり』というテーマで書いたものです。


※GREEにてひねもすのたり名義で掲載したものを加筆訂正してます。

※ブログ「日々是無計画」に掲載したものを加筆訂正してます。

 その町には、奇妙な生き物と、一寸変わった人々が住むという。誰ともなく、そこは妖町(あやかしまち)と呼ばれていた。


 空を覆う灰色の雲は厚く立ちこめ、今にも泣き出しそうな様相を呈している。

「ひと雨来るかな」

 傘屋は店先に垂れ下がった暖簾をちょいと捲って、空を見上げた。

 足元で蛙が一声、ゲロっと鳴く。犬ほどもある大きな化け蛙である。

「まだもうちょっと。湿気が足りないね」

 蛙は偉そうに分析してみせる。傘屋は蛙を見下ろし、フンと鼻を鳴らした。

「そうかい。だが備えあれば憂いなしってもんだ」

 傘屋は店先の日傘を引っ込め、雨傘を並べ始める。蛇の目がギョロリと見上げた。

「いい具合に曇って来やがったな。俺たちの出番かい?」

 蛇の目に傘屋が頷き返す。

「せいぜい愛想良く売れてくんな」

 真ん丸い目を傘屋に向けたまま、蛇の目はギョラギョラと笑った。

「生憎、作った職人が愛想のねぇ頑固者だからな。俺たちも親に似たのよ」

 傘屋は苦い顔をし、蛇の目と蛙が一緒になってギョラギョラと笑い出した。



「蛙が鳴いてるな。雨が降るのか?」

 暖簾をくぐって、馴染みの顔が現れた。傘貼りの内職をしている、浪人の又三郎だ。傘貼りの腕は良いが、剣術はからっきしという男である。

「降るか降らねぇかは、お天道様に訊いてくんな」

 傘屋が不機嫌に言い返すので、又三郎は面食らって、蛙にどうしたのかと身振りで訊ねる。蛙は殆ど肩に埋まっている首を横にして、知らぬと答えた。

「月の触りか?」

 神妙な顔つきでそんなことを言う又三郎に、店の奥から笠が飛ぶ。

 傘屋に叩き出された又三郎の頭に、涙のような雨粒が一つ落ちた。

「女が機嫌悪いとすぐにそうゆうことを言う。だから怒られんのさ」

 蛙と蛇の目が、またまた揃ってギョラギョラと笑った。


妖町のシリーズにおける第1作目がこれでした。当時まだ傘屋に名前はなかった(笑)。

妖町の世界も、おみうと又三郎の関係もここから始まったんだなぁと今にしてしみじみ思います。


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