くるり
今回はちょっと怖いお話です。
今日のテーマという企画で『くるり』というお題で書いたものでした。
※GREEにてひねもすのたり名義で投稿したものを加筆訂正してます。
※ブログ「日々是無計画」に掲載したものを加筆訂正してます。
その町には、奇妙な生き物と、一寸変わった人々が住むという。誰ともなく、そこは妖町と呼ばれていた。
芝居小屋が並び立つ界隈の片隅に、見世物小屋がある。芝居見物のついでに覗くにはちょうど良い、さほど広くもない小屋ではあるが、中には処狭しと見世物がひしめき、客は何度もぐるりぐるりと蛇行しながら見物することになる。
見世物の中には、まるで生身の人間そっくりの生き人形があった。今は亡き、有名な生き人形師の作と伝えられ、艶かしいほどの肌の色も、客の胸の内まで覗き込みそうな瞳も、今にも動き出すのではないかと思わせるその仕草も、とても人形とは思えぬ出来に、客足は日に日に増すばかり。幾つかある生き人形の内、特に人気があるのが子供の人形で、これにはちょっとしたカラクリが施してあった。客が人形の前の床板を踏むと、無表情だった顔がくるりと反転し、笑顔に変わるのだ。
大人はこれを「良くできたカラクリだ」と、喜んだが、子供は気味悪がって泣き出すものが後を絶たなかった。
あまりにも泣き出す子供が続くので、見世物小屋の主はそれを気にしてカラクリの仕掛けを止め、人形の笑顔も漆喰で塗り固めてしまった。
ところが、その日から、夜な夜な子供のすすり泣きのような声が聞こえる、と、芝居小屋の役者連中が噂し始めた。忽ち町内に広まったその噂のせいか、うなぎのぼりだった客足がぱったり途絶えてしまう。その頃から、市中に子供だけがかかる熱病が流行り、かつて見世物小屋を訪れた子供たちも何人も病に倒れた。その内に、誰からともなく人形の呪いだと言うようになり、見世物小屋の主はとうとう祈祷師を呼んで、人形を供養と称して燃やしてしまう。
赤々と揺らめく炎に包まれた人形の顔は、まるで本物の人間のようで気味悪く、徐々に形を変えるその顔は、泣き顔のようだったという。
そうして一昼夜祷り続け、燃やし続けて出来上がった灰の山からは、手のひらほどの小さな髑髏が見つかった。