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傘屋の蛙(前編)

一話目で出せなかった傘屋に居つく蛙の話。

書き下ろしです。

 その町には、奇妙な生き物と、一寸変わった人々が住むという。誰ともなく、そこは妖町(あやかしまち)と呼ばれていた。



 傘屋の店先には蛙がいる。大きさは犬ほどもあろうかという化け蛙である。

「じゃぁ何かい? その新しいお侍さんってのは、そんなにいい男なのか?」

 店先の土間に、蛙らしくぺったりと腹をつけたまま、上がり框のところに転がっている蛇の目傘をぎょろりと見上げる。蛇の目の方でもその目を僅かに蛙に傾け、ぎょらぎょらと笑った。「人間の見た目のことなんぞ知らん」と、前置きして続ける。

「だが、俺たちを見ても、おみうの力を知っても動じないやつだった。あれは肝が太い」

 蛙と蛇の目はひとしきり、新しく傘張りの内職を請け負うことになった浪人の話題で盛り上がっていた。

「あたしも、ちょうど骨接ぎでお暇をいただいてなけりゃ、お会いして確かめたんですがねぇ」

 ふぅ、と嘆いたのは番頭の唐傘お化けである。大人の背丈ほどもあろうかという大きな傘の体に人間の手が二本と足が一本、目が一つと口が一つ付いた妖だ。ちょうど、その浪人が来る前日に傘の骨を一本折ってしまい、骨接ぎの為に修理に出されていたのだ。

「なんでぇ、番頭も肝心な時に役に立たねえな」

 と言う蛙を、唐傘は一つ目を半月型にして睨みつけた。

「そう言うお前さんこそどこに行ってたんですか」

「雨が降って来たからおいら嬉しくってなぁ!」

 蛙がぴょこぴょこと跳ねると、唐傘は呆れたとばかりに溜息を吐いた。

「それで何日も戻らなかったところをみると、盛りの時期でしたか」

 皮肉を込めた言い回しだったが、蛙は尚更嬉しそうに跳ねたものだ。

「よせやい、照れるじゃねぇか」



「ごめんよ」と、暖簾をくぐって顔を出した男は、唐傘と目が合って足を止め、次いで足下の蛙に目を丸くし、最後に蛇の目を見やって言った。

「お客さんかい?」

「よぉ、旦那」と、蛇の目がまたぎょらぎょらと笑い、唐傘が「いらっしゃいませ」と恭しく足を折り曲げ傘を傾けた。

「なんだい、お前さんも傘屋の身内か?」

 驚いたような顔をして店の中へと入って来たのは、冴えない浪人風の男であった。くたびれた着物を着て、月代(さかやき)も剃らず伸びた前髪はぼさぼさとしてだらしがない。背は高いがひょろりと痩せた体は、あまり頼りがいがあるようにも見えないが、色白の整った顔にはどことなく品があり、気さくで人の良さそうな雰囲気が漂っている。

「番頭をしております、唐傘でございます」

 身なりを見て客ではなかろうと判断しても、唐傘は慇懃さを失わずに応じた。

「そうかぃ。俺は又三郎ってんだ、よろしくな。頼まれてた傘を仕上げて持ってきたんだが」

 小脇に抱えた包みを見せる。

「そうでしたか。お侍さまが噂の……いえ、なに。今ちょうど貴方さまの話をしていたところでして」

「旦那が例の新しいお侍さんかい?」

 ぴょこぴょこと足下で跳ねる大きな蛙に目を丸くして、又三郎はしげしげと蛙を見た。

「お前さん、喋るのかい?」

「あったりめぇよ! おいらをそんじょそこらの蛙と一緒にしねぇでくんな!」

 更に威勢良く跳ねる蛙に、又三郎は感心したように、「へぇ」と漏らした。

「こりゃまた立派なガマだ」

「おいらはガマじゃねぇ!」

 憤然とする蛙はガマと呼ぶには確かに青く滑らかで、どちらかというと雨蛙を大きくしたような姿であった。

「ガマじゃなくても(あやかし)なのかぃ?」

 首を傾げる又三郎に、蛙は得意げに喉を膨らませて、語り出した。





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