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天に唾吐き、地を駆ける一陣の星  作者: 柾木刹那
第二部 動き出す影
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新・活動方針

 「――――という事なんですが、私達はこのままでいいのでしょうか?」


 草薙が訊ねると学園長はどうすべきか判断に迷っているようで、眉間にシワを寄せていた。

 自警団『ShootingStar(シューティングスター)』が発足されて丸一週間経った今日、草薙は学園長室を訪ねている。

 目的は昨日、雷牙に言われた現在の活動方針を変えるべきかどうかを相談するためだ。

 そして雷牙の言葉をそのまま伝えた結果、学園長の表情は困っているものに変わっている。

 しばらく二人の沈黙は続いたが、学園長はコーヒーを一口飲んでから口を開く。


「……そうですね。風見くんの言う事にも一理あります。確かにこのままでは別の人も襲われる可能性があるため、何とかしなければならないのは理解しているつもりです。しかし、だからと言って能力(メナス)が不明な相手に生徒を囮に使うというのは、皆さんを預かる立場としては首を縦に振る事は難しいですね」


 草薙は学園長の答えが予想通りだったため特に表情を変える事がなかった。

 今までならこの状態で反論すること無く従っていたのだが、真っ直ぐ学園長を見据えて言う。


「……学園長の立場を考えると確かにそうだと思います。しかし、見廻りを始めて一週間経ちますが正直言って、特に有益な情報も手に入っていません。それどころか一人の被害者を出してしまってます。功を焦っている訳ではありませんが、今のやり方だといつまでも後手に回ってしまいます。囮作戦を実行させてくださいとは言いません。せめて発見時にはこちらから交戦する許可をください」


 学園長は草薙の言い分に小さくため息をついて答える。


「……しょうがありませんね。生徒を守るため生徒に見廻りをして貰っている時点で矛盾している事ですし……これからは黒マントを発見した場合は自警団からの交戦を許可致します。ただし、相手が逃げるようであれば深追いはしない事と、危険であれば逃げる事を約束してください。それと囮の件ですが、今はまだ許可できませんので、くれぐれも早まらないようにお願いします」

「ありがとうございます。無理を言ってすみませんでした」


 草薙は食い下がっていたが内心では、許可は下りないものだと思っていた。

 そのため学園長の回答に驚きつつ、深々と頭を下げる。

 

「……我々の方でも一刻も早く正体を突き止めれるようにしたいと思いますので、くれぐれも命を優先してください」

「わかりました」


 草薙は再び頭を下げてから、学園長室を後にして『ShootingStar(シューティングスター)』の本部へと向かった。

 今頃本部には『SS(シューティングスター)』メンバー全員が集まっているはずだ。

 学園長室に寄る事は花京院に伝えて何の話しをしにいくのかも話しており、草薙が戻ってくるまでは巡廻に行かないように言ってある。

 草薙が本部のドアを開けると、予定通り七人が全員が揃っていた。


「みんな、お待たせ。これから少し今後の方針について話し合おうと思う」


 草薙は本部に入るなり本題に入ろうとして切り出すと、雷牙が真っ先に反応する。

 雷牙の口調は決して先輩に対して使う物としては褒められたものではないが、草薙は気にせずに答えた。


「昨日の今日でその話題を出すという事は、少しは期待していいのだろう?」

「満足のいく回答かはわからないが、昨日風見くんに言われた事を学園長に話してきた。そして囮は認められなかったが、黒マントを見つけた場合こちらから仕掛ける許可は貰ってきた」


 草薙の言葉に、雷牙を除く『SS(シューティングスター)』のメンバーは驚きを隠せないでいた。

 先に学園長に相談に行くことを聞いていた花京院ですら驚いているくらいである。


「少しはマシになったか。だが、そもそも遭遇出来なければ交戦することも不可能だが、そこはどうするつもりだ?」

「風見くんの言う通り、複数でいる場合はこれまで黒マントに襲われるというケースは無い。かといって、囮の許可は貰えていない。……一つだけ確認させて欲しい。みんなは黒マントをどうしたいと思う?」


 雷牙の提議した問題は、黒マントとの戦闘を主としているだろうと草薙は感じていた。

 しかし、元々この自警団『SS(シューティングスター)』は、黒マントと戦う事を目的としているわけでない。

 巡廻することによって黒マントの犯行が無くなれば良い、というスタイルで設立されたものだ。

 いくら戦闘許可を貰ってきたとはいえ、これまで通りに戦闘をなるべく回避するか、積極的に戦闘を行うかの意思確認は必要だと草薙は判断していた。

 

「黒マントはさっさと探し出して叩きのめしてしまえばいい。痛めつけてやればこの近所で襲おうとすることは無くなるだろう」


 雷牙は当然だと言わんばかりに答えるが、他の六人は思案中のようだった。

 その中で熊矢が一人で「むぅ……ぐむぅ……」と呟いており、明田がそれを真似て「むぅ~」と言っている。

 次に答えたのは峰岸だ。


「これまで通りで良いと思いますよ」


 その言葉を聞いて流歌がギロりと峰岸を睨む。 

 

「風見くんと似たようなものかな。せーじをあんな目に遭わせたんだし、少しくらい仕返ししてやらならいと気が済まない!」

 

 そう答えた流歌の目には、怒りや憎しみといった感情が篭もっているように見える。

 流歌から憎まれる理由は無いため、峰岸は肩を竦めていた。


「他の四人はどう?」


 一向に答えが出る気配がないため、草薙がまだ答えていない四人を促す。


「むぅ。……今まで通りでいいと思います」


 やっと考えがまとまったらしい熊矢が答え、残りは草薙を除くと明田、花京院、綾香の三人。

 その中で最初に言葉を発したのは綾香だった。


「私は探し出すんじゃなくて、巡廻中に遭遇したら戦闘して捕縛するのが良いかと思います」

 

 雷牙や流歌と違い、少し控えめだが交戦には賛成らしい。

 残りが三年生の二人となったところで、花京院が口を開く。


「個人的には黒マントの能力(メナス)が判明するまでは本格的な戦闘は避け、判ってから対処策を考えるほうが得策かなと思う」

「残りは妃路子だけだぞ」


 花京院は戦闘の拒否をしているわけでもないが、戦闘を推奨しているわけでもない。

 戦うなら戦うけど、事前に情報を集めたといったところである。

 とりあえず回答は貰ったため、草薙が言う通り残りは明田一人になった。


「えー。出来れば戦闘は避けたいかなーって思うんだよねー」


 明田が交戦を避ける意思表示をした所で、戦闘回避が三人、戦闘推奨が三人、どっちつかずが一人となっている。

 多数決で決めるということにはなっていないが、草薙の回答次第でどの方向にも転ぶ可能性が残った。

 七人は草薙をじっと見て、どういう答えを出すのか見守る体制に入る。


「……そんなに注目しなくてもいいんじゃない? 私は鈴崎さんと同じ意見ね。巡廻中に遭遇した場合はこちらから仕掛ける。……これで全員出揃って交戦四人、現状維持三人、どっちでも可が一人」

「おいおい、その言い方は心外だな。少しでも皆の安全を考えた上での回答なんだぞ」


 花京院が頬を掻きながら草薙の言い方に抗議する。


「それは理解しているつもりだよ。多数決とは言ってなかったけど、割合的に黒マントとは交戦する方向性にしたいと思う」

「えー。……まぁしょうがないか」


 明田は何か不服そうにした割には、あっさりと反抗することを諦めたようである。


「黒マントを探す事については囮が許可されていない以上、これまで通り巡廻をしながら探すしか今のところ手が無いと思う。今後も学園長は黒マントに関しての調査も進めてくれるらしいから、何か情報が入り次第またどうするか相談したいと思う」


 放課後にすぐ学園長の下へいきその後この話合いを済ませ、空が少し赤みがかってきている。


「疲れているかもしれないけど、これから巡廻に出よう。妃路子、今日は休みでいいよ」

「え! いいの!? お休みだー!」


 草薙は首肯すると、明田は飛んで喜んでいる。

 Bグループの休みは峰岸が選ばれていた。


 そしてその日の巡廻も特に目新しい手がかりなどは一切無かったのは言うまでもない。

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