巡廻
自警団『ShootingStar』が結成された翌日の放課後、教室の窓から校門を見ていた。
学園の敷地から出るには校門を通らなければならず、一人で放課後に街へ出かける事を自粛するように通達されている現在、生徒達の見張りをするなら校門で待っているのが確実である。
しかし、授業が終わって三十分が過ぎようとしているが、校門前には人影が無かった。
……今のところ見張り役として、自警団や教師が校門で待っているということは無いようだ。後三十分もして誰もこないようであれば、街に出ようとする生徒のチェックはしないと判断していいだろう。
そう考えて校門を見続けていると、まだ教室に残っていたらしい雷牙に声を掛けられる。
「ずっと校門を見つめているが、何かあるのか?」
「……いや特に何も無い。ただ、街に行くのを控えるように言われたのが昨日だろ? それで今日出かけるやつがいるのかと思ってな」
振り返り何でも無い。というように答えると、雷牙が切り返して聞いてくる。
「流石に今日は自粛してるだろう。それより星二は自警団に関して、考えは変わらんのか?」
「……あぁ、俺は自警団に入るつもりは無い。……そういう雷牙は返事したのか?」
「まだ返事はしていない。……どうするか決めかねているところだ」
何か考えるような素振りを見せた雷牙も、自警団について何か思うところがあるのだろう。
「返事の期限は無いのか? ……あれは自警団か?」
雷牙に問いかけると、視界の端に校門付近に集まる人が見えた。
集まったのは六人だ、自警団メンバーで間違いない。これから巡回にでも行くのだろう。
自警団が巡回に行くとなると、他に見張りをするとしたら教師になるが、他には誰もこないようだし校門を抜けようとして止められるということは無さそうだ。
それに自警団が出て行った以上、あまりノンビリ構えているのもまずいだろう。
「悪い、俺はそろそろ帰るわ。またな」
それだけ言って雷牙を残して教室を立ち去り、自室へと急ぐ。
別に制服でも構わないのだが、私服のほうが動き回りやすい事もあるだろうという判断だった。
自室にて着替えをさっさと済ませ、一応周りの様子を気にしながら校門をくぐり抜ける。
自警団が出発してから約十分が経過しているが、大通り以外の道路を通ることによって鉢合わせする可能性を少しでも減らしながら繁華街を目指す。
黒マントが出没するのは日が落ちて暗くなってくる頃からだと推測されているため、時間的にはまだ二時間近くある。
日が暮れ始めるまでは喫茶店に入って時間を潰し、それから行動に出る事にした。
「いらっしゃいませ-。お一人様ですか? お好きな席にお座りください」
時間が潰しが目的のため適当な喫茶店に入ると、道路に面した席は大きな窓ガラスがついており、辺りの様子を見ることが出来るようになっていた。
その席はカウンターの様になっており、一人で利用している人もいるようなので、遠慮無くその空き席を確保し、コーヒーを注文する。
数分もしないうちにコーヒーが運ばれ、多少ミルクと砂糖を入れ喉を潤しながら窓の外を見る。
その目的は黒マントではなく、唯にそっくりだった人物を探すことだ。
黒マント以外に噂となっている事件はないため、もしかしたら普通に街を歩いている可能性があるからだ。
行き交う人々は制服姿の学生や、電話をしながら何やら急いでいるようなサラリーマン、買い物帰りなのかビニール袋を両手に持つ主婦がほとんどで、その中には見知った顔は特に無いようだった。
他に何もすることなく街を眺め、ちびちびコーヒーを飲んでいると、雑踏の中に流歌と花京院、そして峰岸の三人を発見する。
三人はこちらに気が付かずにそのまま通り過ぎ、その姿は見えなくなっていく。
黒マントの出没する可能性が高い時間にはまだ早いのと、喫茶店の中で黒マントを羽織り時間まで待機している。なんて事はありえないだろう。
そのため三人が店舗の様子を確認しなくても不思議では無い。
そうして外の様子を眺めていると、徐々に日が傾き始めてくる。
……そろそろ俺も動きだすか。コーヒー一杯で何時間も粘られたら店も迷惑だろう。既に二時間近く経っているから手遅れかもしれないが。それに今日は少し早めに切り上げ、自警団の活動時間もある程度把握しておきたいのもある。
会計を済ませて喫茶店を出て、とりあえず熊矢が襲われたという場所に向かう。
まだ日は傾き始めたばかりで、その場所に着いてもまだ日は沈んでいなかった。
これまで何度か訪れてはいたが、今日も特に変わりはなく穏やかな住宅街という感じがする。
今までと同じ様にしばらく付近を歩いて、黒マントと唯とおぼしき人物を探すが目的の人物と遭遇することなく、日が完全に沈む前に学園へと戻っていく。
一方で自警団こと、『ShootingStar』のメンバーとして街の巡廻をしている六人は、活動初日と言うこともあり、校門まで三人一組にグループを二つに分けて行動していた。
一つは草薙鷹子、明田妃路子、熊矢廣樹の三人で形成されたAグループ、もう一つは花京院翔、峰岸大和、霜月流歌のBグループという振り分けになっている。
今日は夕暮れ時に、学園と繁華街の間をBグループが行い、Aグループは学園から離れた場所……熊矢が最終的に黒マントに追い込まれた公園付近を巡廻することになり、各グループは周りを気にしながらもゆっくりと歩いていた。
Bグループは繁華街で星二とニアミスをしていた事に気が付かず、ありえないと思いながら街中に黒マント、または怪しい人物が居ないかを探していたが、当然見かける事はなく夕暮れ時を迎え、持ち場となる学園への道に向かう。
ただ学園へ真っ直ぐ向かっても巡廻の意味が無いため、何度か小路を曲がって怪しい人物が居ないかを確認していく。
そうして歩き回っていると撤収時間がやってくる。
それまで特に怪しい人物の姿は無く、誰かが襲われたような形跡も見当たらないため、今日は何も起こらなかったとBグループの三人はホッとして、学園へと帰っていく。
それに対してAグループは繁華街に到着すると同時に明田が『喉が渇いたー』と騒ぎ始めた為、近くにあったコーヒーショップ『モーモーカフェ』に寄って時間を潰していた。
明田は注文したキャラメルマキアートを一口飲んで幸せそうな顔をしている。
草薙はブラックを、熊矢も明田と同じくキャラメルマキアートを飲んでいた。
喉の渇きを潤したAグループは熊矢の案内で公園へと向かっていた。
夕暮れ時にはまだ早いが、草薙が現場を見てその時の状況を熊矢から聞きたいとのことで明るいうちからの散策となっている。
公園に着いてからはすぐに熊矢がどこでナイフに襲われたのか、そしてそこからどうやって逃げたのかを実際に熊矢の覚えている範囲で示して貰っていた。
検証をしているうちに日が傾いており、街灯がつき始める時間となったため、公園から学園へ向けて小路を通りながら戻っていく。
しかしAグループの三人は電柱に隠れた一つの影に、学園へと戻る姿を見られているということには気づいていなかった。