高天原学園4
「あー、疲れた」
そう言って、大の字になりベッドへ倒れ込む星二。
天井をまっすぐに見つめ、天井に向けて右手を持ち上げまっすぐ伸ばす。
星二にとってこの行動は無意識化で行われることが多い。
それは星二が、この高天原学園に来ることを決めた理由にも関係あることだった。
あの事を思い出そうとする度に心が悲鳴をあげる程の痛みを伴う。
「さて、横になってるのもいいけど、晩飯どうするかなぁ」
しばらくして、そう言いながら星二は体を起こし、先ほどまで捕らわれていた痛みを振りほどく。
ここは高天原学園男子寮301号、今日から住むことになる星二の部屋である。
引っ越しの際に着替え程度の荷物しか用意しなかったため、部屋にはいくつかのダンボールがある程度であった。
ベッドや机、タンス等といった基本的な家具は備えつけらしい。
「それにしても今日は色々あったなぁ……」
一日を振り返りしみじみ思う星二。
この学園に来た意味の一つに自分の能力の確認、自由意思での発現がある。
クラスメイト達に聞いても的を得ない答えばかりで、星二はまだ能力の発現どころか、どんな能力なのかすらわかっていなかった。
「ま、初日でわかったら苦労はしない……か」
ぐぅーっ。
一人ごちていると、お腹が鳴った。
「そいや、晩飯どうするか考えてたんだっけ」
「はーい」
控えめにドアがノックされていることに気づき星二は返事をした。
「…………」
ノックは止まったが、今度は静まりかえってしまっている。
「まさか……心霊現象……?」
星二は素でそんなことを思いつつ、意を決してドアをあけてみることにした。
ドアを開けて見るとそこに立って居たのはどこかで赤い髪をサイドテールにした懐かしい面影のある顔だった。
「え、えーっと、流歌?」
星二は確認のため呼んでみる。
「や、久しぶりだね、せーじ」
やはり、中学時代まで一緒だった幼なじみ、霜月流歌で間違いなかったようだ。
「というか、ここ男子寮なんだが、何でこんなとこにいるんだ?」
素直に浮かんだ疑問を投げかける。
「いやぁ、2年生から転入生が来るって話を聞いてね、どんなやつがくるんだろうと思ってたら、今朝の校庭の騒ぎでしょ?」
「……――――ッ」
星二は思わず絶句した。どうやら幼なじみである流歌にも今朝の出来事は知られていたようだ。
「ま、せーじも男の子だし暴走することもあるよね」
そう言って流歌は笑う。
「ちょっ、まておま、暴走なんてしてねぇー!」
「はいはい、それよりせーじ、夕飯はまだなんでしょ? ひさしぶりに一緒に食べよ」
星二の訴えを無視し、流歌は手に持った包みを持ち上げ微笑む。
流歌がテーブルに包みを広げると3段重ねの重箱が姿を現す。
「流歌、これいつ用意したんだ?」
星二は素直に驚いていた。それもそのはず、授業が終わりまだ1時間程度しか経っていないのだ。
「んー? 作り置きしてたフライとか昨日のあまりものとか詰めてきただけだから、授業終わってすぐかな」
「そうだとしても、この1時間くらいで用意できるってすげぇよ」
言いながら星二は何かひっかかるものを感じていた。
流歌がこの学園にいること自体はまぁいい。
今朝の鬼ごっこを見られていたことも、学園に通っているなら仕方がない。
「おい、流歌」
「ん? なーにー?」
どうやら流歌はお湯を沸かしているようだ。
「何で俺の部屋を知ってる?」
当然の疑問であった。
「そりゃ、帰り支度してるせーじが301号って言ってたのを盗み聞きしてたからねー」
流歌はあっけらかんと答える。
「そうかそうか、盗み聞きしてたのかー……ってまてや!」
「うん? どうしたのさ、せーじ?」
「盗み聞きってあっさりいいやがって! 確かに教室内で雷牙と部屋の話はしてたが同じクラスじゃないお前がどうしてそのタイミングで盗み聞きなんて出来るんだ!?」
軽くパニックになっている星二。
「まぁまぁ、少し落ち着きなさいな、せーじくん、答えは簡単だよ? 久しぶりにせーじと話したくて教室のドアの前で待ってたら聞こえてきただけなんだし」
どこか芝居掛かったいい方をする流歌、しかし嘘ではないらしい。
俺の幼なじみである流歌は、嘘をつくとき必ず最後の言葉を噛むのを知っている。
「そうか、わざわざ俺のためにすまん、そしてありがとう」
素直に感謝する。
「い、いや、そんな感謝されることでもないでしょ!? 私たち幼なじみなんだし!」
突然顔を赤くして慌てる流歌。そいやこいつ昔からこういうところあったな。
重箱を二人でつつきながら、星二は1年振りにあった幼なじみを眺める。
星二は内心、たった1年でずいぶん大人っぽくなったなぁ。思っていた。
「ん? どしたのせーじ?」
そんな星二の視線に気づいたのか、流歌がイカリング片手に聞いてくる。
「いや、1年見ないうちにずいぶんと大人っぽくなったなと思ってただけだ」
「おやおや、やっと流歌さんの魅力に気づきましたか?」
星二が素直に思っていたことを言うと、流歌はニヤニヤしながら聞いてくる。
「そんなことより、流歌はどこのクラスなんだ?」
思いっきり話題を変えてやった。流歌が余裕そうなのがちょっと悔しかったからじゃないからな?
「私は2-Aだよ」
「なんだ隣のクラスか」
「そうなるね」
「ちなみに女子寮の205号だよ」
「聞いてねーよ!?」
他愛もない話から、昔話や近況報告など、流歌との1年振りの再会は楽しく、時間はあっという間に過ぎていった。
「それじゃそろそろ帰らないと寮長に怒られるからいくね」
「もうそんな時間か、また遊びにこいよ」
「今度はせーじが来てくれてもいいのよ? 2階だから窓からこれるでしょ」
「女子寮に忍び込んでバレたら後がこえーよ!?」
「はははっ、それじゃまたね、せーじ」
そういうと流歌は走っていく。
「まったく、流歌は変わらないな……けど、綺麗になったな」
本人には決して言わなかった本心を呟き、シャワーを浴びる準備をする。
シャワーから出ると、疲れのせいか睡魔が一気に襲いかかる。
気怠い体をベッドまで移動させ横になりまどろみの中で今日を振り返っていた。
今日は朝から全力疾走して綾香から逃げたり、雷牙には会ってすぐに親友だと言われ、久しぶりに流歌にも再会した。
しかし肝心の能力についてはわからないままだ。
色々なことがありすぎて疲れた、けど楽しかった。
ひさしぶりに心の底から楽しいと思えたんだ。
少しくらいは許してくれるよな……?
―――――――唯―――――――
そう呟くと、星二の意識は途絶えたのであった。
転校、転入系では定番の幼なじみ登場回でした!
最初は同じクラスっていう設定にするつもりだったのですが、それだとありきたりすぎるかなと思い、何故か男子寮での再会という形に踏み切りました。
転入初日で胸を揉んだ綾香、幼なじみで夕飯を届けてくれる流歌。
ヒロイン候補が二人になったところで、最後に星二が呟いた人物、唯とは誰なのか?
次話以降で登場すると思いますのでそれまで応援のほどよろしくお願いします!