呼び出し 2
闘技場を後にし、2-Bの教室へ来ていた俺と綾香の服装は、制服ではなくなっていた。
綾香の服装は、緋色の袴に、淡いピンク色した露出の多い上衣。胸にはサラシを巻いており、綾香は恥ずかしそうに俯いている。
服装と相まって、何とも言えない色っぽさが醸し出されている。
一方俺はというと、学園の制服がノースリーブになっており、何故か上着のボタンが上から3つ程なく、胸元が開いてしまっている。いつも中に着ているTシャツはもの凄い勢いで否定されたため、肌が見えている。
「……小畠さん。とりあえず説明してもらおうか?」
「ちーちゃん。説明してくれるよね?」
着替えてからこう質問するのもおかしいとは思うが、この際順番はどうでもいい。
二人で小畠さんに説明を求める。
「にゅふふ……綾香ちゃん可愛いよぉ……そうだ、お持ち帰りしよう。そうしよう」
こちらの話しを聞いていないのか、目を光らせ手をワキワキさせながら綾香に近づく小畠さんは、誰がどう見ても不審人物だ。
「……ひっ!」
その様子が余程怖かったのか、綾香は小さな悲鳴をあげている。
あのー、綾香さん? 怖いのはわかりますが、俺を盾にするのはやめてもらえませんかね?
「あぁ……星二くんの胸元も……ワイルドでセクシー……ぐふふ……」
小畠さんのターゲットがどうやら俺に変わったようだ。……何このプレッシャー、マジ泣きそう。
「……いい加減にしてくれ」
迫り来る小畠さんに軽くチョップを食らわす。
「いてっ……あれ? ……私また発作が起きてた? ごめんね二人とも」
正気に戻った小畠さんが素直に謝ってくる。……それに発作って何だよ。
「ちーちゃん、説明してくれるよね?」
後ろに隠れていたはずの綾香が、いつの間にか俺の隣で警戒するように小畠さんを睨んでいる。
「う、うん。ちゃんと説明するから綾香ちゃん、そんなに睨まないでもらえるかな? 実は――――」
睨まれているのが怖いのか、小畠さんは慌てている。
「小畠さん、その前に涎拭いた方が良いぞ」
「え? 涎? ……はうぁっ!?」
説明を遮って指摘してやると、奇妙な声をあげ慌てて口元を拭き、説明してくれた。
「……つまり、俺達にバレないように試合用の衣装を用意したってことか」
「それならそうと先に言ってくれれば良かったのに」
小畠さんの説明によると、武闘会開催された日のうちに、俺と綾香、雷牙の3人を除いたクラス全員で決めて用意していたらしい。
武闘会のルールにも制服着用とは無いので問題はないはずだ。
「うん、二人とも似合ってるよ」
「あ、ありがとう。……用意してくれたのは嬉しいんだけど……ちょっと露出が多くないかな……」
小畠さんに褒められ、綾香が俯きながらモジモジしている姿がとても可愛い。
「せっかく用意してもらった以上、着て出るしかないな」
俺としてはあまり制服と変わらないから問題ない。それに綾香の格好も露出は多いとはいえ、似合っているから問題ないはずだ。
「うぅ……恥ずかしいけど……せっかくだもんね……」
「恥ずかしがる綾香ちゃんやっぱり可愛いなぁ……食べていいよね? いただき――――ごふっ……」
また発作を起こしかけていた小畠さんに、何も言わず綾香はボディーブローを入れ気絶させていた。
うん、それもしょうがないと思う。あの状態の小畠さんは俺も怖い。
「俺はまだ良いとして、綾香は試合までその格好でいるのか?」
「ううん、流石にずっとこのままでいるのは恥ずかしいから、試合前にまた着替えるつもりだよ」
「それじゃ俺は一旦教室の外に出てるよ」
そう言って廊下に出る。最初着替えた時もそうだが、流石に女の子の着替えに立ち会う訳にはいかない。
……あれ? 試合前に着替えるって綾香はどこで着替えるつもりなんだ? 昼飯の時にでも聞いてみよう。
元の制服に着替え直した綾香と学食へとやってくると、雷牙が一人でラーメンを食べていたので合流する。
「星二その制服はどうした?」
「あぁ、実は試合用にってクラスで用意していたらしいんだ。雷牙の分もあるぞ」
事情を知らない雷牙に答えながら、小畠さんより預かっていた分を紙袋事渡す。
「そうか、せっかくだが着る機会は無かったということだな。冬は寒そうだが、秋になるくらいまでは普段着ていてもいいかもしれんな」
「流石に普段だと、先生に注意されないか?」
「それはその時考えればいい。星二や俺の分が用意されていると言う事は、綾香嬢も貰ったのか?」
雷牙の疑問は当たり前だ。試合用として渡されてる以上、綾香にも何かあっておかしくはないのだから。
「うん。私のは制服を改造したやつじゃなくて、道着みたいな感じで……ずっと着てるのは恥ずかしいから、試合前に着替えるの」
「楽しみにしておこう」
綾香が恥ずかしそうに言うと雷牙は楽しそうに言った。
「期待していいと思うぞ、さっきの綾香は可愛かったし」
「それは大いに期待させてもらうとするか」
そんな俺の発言に雷牙がのってくる。
「ちょ、ちょっと星二!? 雷牙くんも期待しなくていいからね! ……また可愛いって……うにゅぅ……」
俺と雷牙のやりとりに、慌てて言う綾香はどうやら恥ずかしさがピークに達したようでテーブルに突っ伏してしまっている。
「そいや、綾香。試合前に着替えるってどこで着替えるつもりなんだ?」
ふと思い出した俺はテーブルに突っ伏したままの綾香に確認を取る。
「え? どこでって……控え室用テントの中で着替えるつもりだよ?」
俺の質問に顔をあげ、当たり前のように答えた。
「ほう。テントの中で星二に綾香嬢は体を晒すのか。いつの間にそんな中になっていたのだ?」
雷牙の口元はにやついており、完全にからかっているようだ。
「ば、馬鹿なこと言わないでよ! 着替えてる間は星二には外で待っててもらうし……裸見せるのはまだ早いと思うし……」
再び顔を真っ赤にしてしまった綾香。最後にまだ早いと聞こえたような気がするけど、どういう意味なのかは触れないでおこう。
気づくと時間が経つのは早いもので、後10分で第二試合が行われる13:00になろうとしており、星二達は普段通りワイワイ闘技場へ移動していく。
その時の綾香は、昔憧れた光景がやっと現実に追いついたように感じ、胸中に日だまりの様な暖かさが広がっていたことは、一緒に歩いている星二や雷牙は知る由もなかった。
◇◇◇