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天に唾吐き、地を駆ける一陣の星  作者: 柾木刹那
第一部 高天原武闘会
20/79

特訓 9

 綾香は保健室でベッドで寝ている星二と雷牙のタオルを交換する。

 寝ている二人の顔は傷だらけだった。

 鼻血はもちろんのこと、(まぶた)は腫れ、頬は数カ所切れている。


「まったく、武闘会に向けて特訓するのは良いことだと思いますけど、これはちょっとやりすぎですね」

 二人の顔を見ながら困ったように言うのは、神無月水瀬(かんなづきみなせ)高天原学園(たかまがはら)の学園長その人だった。


「学園長ありがとうございました……学園長が来てくれなかったらきっと……」

 綾香は力なく言う。


「道場で特訓しているのは知っていましたし、たまたま様子を見に行っただけですから、気にしないで結構ですよ」

 学園長は優しく笑みを浮かべ綾香に答える。


「私、危険だと思って止めようと思ったんです……けど、足が(すく)んで……」 

 独白のように言う綾香は、微かに震えていた。


「先ほども聞きましたよ。足が竦んでしまうのも無理はありませんね。大丈夫、鈴崎さんが悪いわけではないで、あまり自分を責めないでください。悪いのは寝ている二人ですので、起きたらたっぷり説教してあげてください」

 そう言って綾香の震えを押さえるように、体を後ろから優しく包む。


「……はい」

 短く答えた綾香の震えは止まっていた。


「それでは、私はそろそろ戻りますから、何かあったら学園長室まで来てくださいね」

「はい。ありがとうございました」

 深々と頭を下げ、保健室を出て行く学園長を見送る。


 未だに目を覚ます気配の無い二人を見つめる。

 道場から保健室に移動し2時間が過ぎ、現在19時になろうとしていた。


 綾香は再びタオルを絞り、交換しながら綾香は道場の出来事を思い出す。


◇◇◇


「あらあら? 女の子が体を張って泣いて止めてるのに……悪い子ね」 

 軽い口調でどこか冷たい声が、道場の中に響いた。


「え……?きゃぁっ」

 突然の声に驚き、一瞬だけ星二を押さえる力を緩めてしまい、振りほどかれた。

 

「少しお灸を据えましょう――――重力可変(グラビティ)!」

 声が道場の入り口から冷たい声が聞こえてくる。

 

「……ぐっ」

 見えない何かに地面へと押しつけられた星二が(うめ)き、意識を失った。

 

重力可変(グラビティ)って……学園長?」

 私は道場の入り口に、スーツを着た、腰まであるセミブロンドの髪の人物に向かって言った。


「鈴崎さんこんにちは、何やら大変な事になっていますね」

 星二に近づいて行く学園長の声は普段と同じく柔らかに聞こえた。

  

「はい……実は……」

「先ずはこの二人を保健室に運びましょう、手当もしないといけませんしね。事情はその後で聞きますよ」

 そう言うと、学園長は二人を軽々と脇に抱えて歩き始めたため、私も慌てて追いかけた。


 保健室に着くなり、学園長はテキパキと二人の治療をこなしてしまった。

 

「さて、これで後は安静にさせておけば大丈夫でしょう。事情をお伺いします。大方予想は付きますけど、お話してもらえますか?」

 学園長の表情は優しかった。


「実は――――」 

 私は道場での出来事を学園長へ説明をし始めたのだった。

                     

◇◇◇

 

「うっ……ここは?」

 目を開けると見慣れない天井、微かに消毒液の匂いがする。

「星二、気がついたの!?」

 声に気づき綾香が慌てるように顔を覗き込んでくる。

「あぁ、俺は気を失っていたのか。それと……顔近いぞ」

「ご、ごめん!」

 少し照れながら星二が言うと、真っ赤になった綾香が慌てて離れる。


「そいや、雷牙は?」

 離れた綾香へと顔を向けると、その奥に寝ている雷牙の顔は傷だらけだった。

「雷牙くんは隣で寝ているけど、まだ目は覚ましてないよ……」

 綾香は心配そうな目で雷牙を見る。


「雷牙は一体どうしたんだ?」

「どうしたって……星二がやったんじゃない」

 綾香が苦笑する。

「俺が? 冗談だろ? 風の精霊(シルフィード)を発現させた雷牙に殴られたのは覚えてるんだけど……」

「覚えてないの? 雷牙くんに殴られて倒れそうになったあと……何か叫んだあとで星二の動きと顔が変わって……」

 綾香の声が微かに震える。


 星二は何も言わず体を起こし、綾香の頭に手を載せる。


「あっ」

 綾香の体が少しだけ跳ねる。


「嫌か?」

 それだけ言うと星二は綾香の頭を撫でていた。

「ううん。ちょっと、恥ずかしいだけだから……」

「そうか」

 綾香は再び顔を赤くし(うつむ)き、大人しく頭を撫でられていた。


「雷牙くんはまだ目を覚ましてないけど、学園長は大丈夫だって言ってたし、そろそろ帰るね……」

 時刻は20時を回っている。

「あぁ、ありがとうな」

「ううん、ゆっくり休んでね。もし雷牙くんが起きたら安静にするように言っておいてね」

「わかった」


 ――――己の無力さを呪え。


 一人になった星二は、綾香の髪の感触が残る手を握り、雷牙との戦いの中で頭に響いた声を思い出していた。


 

 綾香は保健室から出ると、閉めたドアに背を向け立ち止まる。


「よかった……元のセイジくん(・・・・・)に戻っていた……」  

 

 普段とは呼び方の違う、綾香の呟きは静寂へかき消された。

今回は現在の時間と、綾香の回想シーンという構成にしてみました。

ちゃんと表現できていればいいのですが。


突然現れた学園長、温厚な人を怒らせると怖いものですね。

逆らったら潰されそうですw


普段とは違う呼び名をした綾香、星二との間に何かあったのでしょうか?

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