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天に唾吐き、地を駆ける一陣の星  作者: 柾木刹那
第一部 高天原武闘会
1/79

プロローグ ~最悪の出会い~

「待ちなさぁぁぁぁい!」

「待てと言われて、素直に待つやつがどこにいるー!」

 

顔を真っ赤にしながら全力ダッシュで追ってくる女の子から逃げつつ、北条星二は現在の状況について考えた。

 ここは高天原学園(たかまがはらがくえん)、これから通うことになる学園の名前だ。

 星雲学園で一年間を過ごし、二年生に進級する前にこの高天原への転校が決まり、今日から新しい学園生活を送ることになる。

 しかし初登校となる星ニは校舎を背にして全力で女の子から逃げていた。

 背後から追ってくる高天原学園の制服を着た女の子の姿を足を止めずに振り返り確認する。

 髪の色は茶髪、長さはセミロングといったところで、顔立ちは整っており下手なアイドルと同等かそれ以上の容姿をしている。

 ただ残念な点があるとすれば胸である。

 学年は不明だが高校生ともなればある程度発育もしてそうなものだが、全力で走っているというのに、揺れがわからない程度の膨らみである。

「うーん。もう少しくらい揺れてくれれば、せめて目の保養になったのに」

 曲がりなりにも追われている側の癖して、失礼な言いぐさである。


「いい加減……はぁはぁ……止まりなさいよー!」

「ぜぇぜぇ……いきなり追ってこられたら、誰でも逃げるぞ普通!」


 全力疾走の鬼ごっこが始まり三十分が経過しており、二人の体力は限界に来ていた。

 そのためどちらからということもなく、自然と足が止まり、二人は肩で息をしながらお互いの顔を見ていた。


「あんたが……はぁはぁ……悪いんでしょうが!」

「俺が一体……ぜぇぜぇ……何をしたっていうんだ!?」

 息が切れているが一方的な悪者扱いに、呼吸を整えようとしつつ星二は反論した。

 そんな二人の周囲には大勢の野次馬が集まっていたが、特に気にせず声を張り上げる。

 

「何もしてないですって!? あんたが……あんたがいきなり……!」


 顔を真っ赤にしたまま女生徒が怒気を放つ。


「だから、俺が何をしたっていうんだよ!」

「あんたが行きなり、わ、私の―――む、胸を……!」

「おい、あの見たこと無いやつが、綾香さんの胸を触った……だと!?」


 周囲にいた他の男子学生の一人から驚きと羨望、そして殺意が籠もった声が響く。


「みかけない男子ー、それはさすがにやりすぎだよー」

「流石にいきなり、胸に飛び込むのはどうかと思うなー」

「我らが綾香さんの胸を堪能するとは、うらやまけしからん!」

 それに呼応するかのように他の学生からも声があがる。

「あっ……」


 周囲の声である程度落ち着きを取り戻した綾香が、今度は恥ずかしそうに顔を伏せる。

 そんな中、星二は今朝の出来事を振り返ってみた。

 

◇◇◇


 これから新しく通うことになる学園へ登校時間より一時間早くつくように歩いてきた。

 学園は全寮制のため、入寮手続をしなければならないためだ。

 パンフレットを見ながら門をくぐり、校舎に向かって歩きつつ考え事をしてた。


「ここが高天原学園か。能力(メナス)発現者の育成を主とした学園か……」

 星二は校舎に手を伸ばすように右手を持ち上げ、手のひらを前に突き出した。

 

「ん? 何だこの感触?」

 

星二は突如として現れた手の感触に違和感を覚えた。  

「きゃぁっ!」


 お世辞にもはっきりとわかるとは言えない程度の柔らかい感触とともに可愛らしい悲鳴があがる。

 登校時間まで早いことと、考えごとをしていたこともあり、周囲に気をつけていなかったため、人がいたことに気づいていなかった。


「ご、ごめん、まさかこの時間に……」

 

星二は謝ろうとしていたが、その女の子から怒りのオーラが発せられていることに気づいた。

 女の子は顔を真っ赤にし、そのお世辞にも大きいとは言えないむしろ小さい胸を両手で隠すようにし、わなわなと震えている。


「あ、あんた……ねぇ……?」


 女の子の表情は笑っているように見えるが、その目だけは笑っていなかった。


「い、いや、ほんとに……」


 必死に謝ろうとするが、女の子は手に持っていた竹刀を上段に構えた。


「ちょっ、それはしゃれにならんって!」


 今度は星二が悲鳴のような声をあげる。


「問 答 無 用!」


 女の子はそう叫ぶと竹刀を振り抜いた。

 間一髪で竹刀を避けることに成功した星二はとりあえず逃げることにした。

 

◇◇◇


 全力疾走の鬼ごっこをすることになった理由を振り返り、自分に非がある事を認識した星二は正面を向いて頭を下げた。


「あー、そのごめん! 悪気は無かったんだ」

「……あれ? どこか……」


 綾香と呼ばれていた女の子が一瞬不思議そうに首をかしげ、何かを言いかけた瞬間、別方向から怒号が聞こえた。


「お前らいい加減教室に向かえー! 全員遅刻にされたいか-!」


 声の聞こえた方向を見ると、ジャージ姿で片手に竹刀を持った昔のドラマに出てくるような格好の人物が居た。


「あ、藤堂だっ、いかなきゃ遅刻だけじゃ済まない!」


 その声に野次馬よろしく二人を囲んでいた学生達が走り出す。


「あ、私も早く行かなきゃ。 あなたには言っておくけど、許したわけじゃないんだからね!」


 人差し指を突きつけそれだけ言うと、綾香と呼ばれていた女の子も走り出した。


「さっきまで散々走り回っておいて、まだ走る元気あるのかよ……」


 星二はぼやきつつ走り去っていく綾香の後ろ姿を見ていた。


「おい、そこのお前」

「俺のことですか?」

「お前しかもう残っていないぞ?」

「おや、いつのまに?」

「いつのまに? じゃないがまぁいい。お前が今日くるという転校生の北条星二だな? ついてこい」


 そう言うと返事も聞かずに、藤堂と呼ばれていた先生が歩きだす。


「あ、はい」


 返事をし、とりあえずその後ろをついていくことにした。

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