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三 あの手この手―1

前回 ズレた時間の不便さをみてもらったところで、今回3章は一緒に遊んでみます。

『れ、鈴樹……アンタねぇ』

 呆れ顔をした――いや、しているであろう莉々の声がイヤホンから聞こえる。

「どうした莉々? 俺は一分だって遅刻してねえぞ?」

 なんて調子に乗って胸を張ってみせる。

 そう、今日の俺は遅刻をしていない。というのもこれが俺の考えた作戦・その一だ。

「……束原。そのドヤ顔を直接りりちゃんに見られないのが、今だけは幸運ね」

 楠はぽつりと呟いて、先週買ったゴスロリ系のローファーを脱いでいく。

 うーん……おかしいなぁ。この画期的な案は絶対ほめられるって思ってたのに。

『ま……これまで考えたことなかったけどね』

 その声とともに土間に莉々の新しいハーフブーツが片方ずつ現れる。


 なんてことはない、タネを明かせば簡単な話だ。

 ここは俺んチだ。

 楠のプランじゃ家遊びってのは選択肢にないんだろう。「何処かへ遊びに行く」ってなるとどうにも時間のズレが影響でかくなっちまう。

 そこで俺の新プランだ。

 俺が家で待ってりゃ遅刻するなんてこともないし、莉々との時間がズレてるとしても映画に逃げずとも一緒に楽しむコンテンツがあるんだ。

「とりあえずあがってくれよ」

『お、おじゃましまー…………』

 借りてきた猫。猫かぶり。まさにそんな言葉がふさわしい様子の莉々の声がきこえる。だがそれは取り越し苦労だ。

「あー、今日誰もいねーから挨拶しても無駄だぞ?」

『なっ……そ、そーゆーのは早く言ってよッ』

 すこしイラだった声が聞こえるが、気をとりなおしたのかすぐに楽しそうな調子に変わる。

『なにげ、アタシ鈴樹んとこ来るの初めてだー』

「わたしはあるよ」

 楠が「ふふん」といった顔で莉々のいるらしい方を見る。

 と、莉々の妙に焦った声がきこえてきた。

『…………へ? えっ、ええぇぇええッ? い、いつ? ななな何でッ?』

「ウソだけど」

『…………ちょっ! もー脅かさないでよッ!』

 なんだかよくわからない盛り上がり方をしてらっしゃる女子二人。

「おーいお前ら、いつまで玄関で遊んでんだよ。さっさと部屋行くぞ」

『は、はぁーい』

「りりちゃんビビりすぎ」

『もぉスズうっさいよっ!』

 何を話してんのかわかんねーが、俺はこれから画期的な遊びを計画しているんだ。早いとこそれを見せてやりたくて正直ウズウズしてる。

『ってうわっ!』

「なんだよ今度はどーしたぁ?」

 急に聞こえる悲鳴。

『いや……そこの階段の上からアンタがひょっこり出てきて』

「幽霊見たみたいな声だったよ、りりちゃん」

「ひでーやつだぜ」

 落胆してみせると、莉々の声は慌ててとりなした。

『い、いや悪い意味じゃなくてさ……ただ』

「ただ?」

『鈴樹の顔見るの何気にひさびさだったし、ほんと幽霊みたいにビックリして』

「………………」

「………………」

 楠と無言で顔を見合わせる。

 互いにリアルタイムの顔を見てコミュニケーションがとれないのはかなりマイナスポイントである。今の莉々はそれを深刻に思ってないようだからいいがこれは不安材料だ。

 だが楠はいつものポーカーフェイスの奥に、どこか満足そうな色を見せる。わけがわからん。「いいから莉々つれてこいよ」と目で合図をすると、一変して不機嫌そうな顔をしてため息を一つつき、莉々の手を掴んで後をついてきた。


 トン、トトトン、トトン。

 三人分の足音を響かせて上階へと向かう。ってか声は聞こえなくても足音はするんだな。

『なーんかさ』

 思考を妨げるようにイヤホンから声がする。

『この家にあがるのも久しぶりってゆーか』

「あーたしかに。俺たちどっちも推薦枠狙ってけっこー頑張って勉強してたし、最近遊ぶ暇も無かったっけなぁ」

『そうそう。半年振りぐらい? 幼稚園とか小学校の頃は毎日のよーに来てたけどサ』

「そうなぁ、昔はよくウチ来て遊んでたよなぁ」

『ほとんど自分チみたいだよねー』

 ……………………。

 階段をのぼり終えたところで立ち止まり、時間が止まったように無言になる。

 すると黙っていた楠が口を開いた。

「エ~? りりちゃん束原の家来た事アルノー?」

 何故だか棒読みぜりふだ。というのもさっき玄関で「楠流ジョーク」で莉々を驚かせた流れの逆パターンってわけだろうな。

 それはそうとして、そもそもの突っ込みどころがあってだな、

「ってか莉々とは中学からの付き合いだぞ」

 ノリ会話がいささか弾みすぎたが、いい加減止めておく。

 これによってようやく時間が動き出した。

「ビックリした~。りりちゃんに前世の記憶でも戻ったのかと思った」

 楠のいつものジト目で抑揚なく呟かれても、ビックリが全然伝わってこない。

『そそ、戻ったんだよねぇ~、前世の記憶ッ!』

「前世までいったらこの家ねぇけどな」

 いい加減飽きたので、一言で莉々のボケを一蹴してやった。

鈴樹のかんがえた家遊びとは!?(棒読み)


投稿済み1章の1に挿絵つけました。キャライメージこんなです。

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