夢の街
夢を見る。
それは夜寝ているときだったり、幻想という名の妄想だったり。
私は夢が好きだ。
面白いから。
でも、度を越した夢は夢じゃないと思う。
夢と現実の境目が分からなくなってしまったら、それは一種の死だと思う。
気がついたら、私は遊園地の入場門の前に突っ立っていた。
ここからでも、園内のイルミネーションが見える。
遊園地なんてもう何年ぶりだろう。
最後に行ったのは18歳の時だし、10年はもう行ってないな。
大好きだったけれど、いつの間にか行くことが出来なくなっていた。
原因は主に仕事の所為。
『仕事』からくる疲労だったり、『仕事』の休みの予定が友達と合わなかったり。
そんなこんなしているうちに、友達が事故に遭い意識不明の重体になって行くとか行かない以前の問題になった。
一体、いつになったら目を覚ましてくれるのか。
本当に目を覚ましてくれる日は来るのか。
そんなことばかり考えてしまい、最近は何もかも手につかなくなっていた。
ふと我にかえり、まっすぐ前を見てみると誰かがいた。
「ようこそ、我が街へ」
低い声だった。
コツ、コツと足音が近づいてくる。
私より15cm程背の高い男が立っていた。
いや、男じゃない。
男っぽい女だった、失礼しました。
年齢は17歳位だろうか。
「初めまして、迷える少女」
少女だって?
年齢的に私はもう少女ではないぞ。
この女、目が腐っているのか。
「君変な顔をしているね」
更にこの女変な顔と言ったか!
「変な顔とは失礼な!」
「あぁ、これは失礼。おかしな表情をしている、と言えば正しいかな?」
「そりゃ、おかしな表情だってしますよ!」
「何故?」
真顔で言ってやがる。
こいつは天然とか言うレベルじゃねーぞ。
「年齢!私、どう見ても少女じゃないですよね?!」
言ってて悲しい。
でも、事実もうすぐ三十路だ。
「…失礼、私の目には君が12、3歳程の少女にしか見えない」
何をどうしたらそうなった!
15以上も年下に間違えるなんて!
「そんなことある筈無いです!!」
何だこいつは。
ふざけているのか?
「あぁ、ここは不思議な所でね、思い通りの姿に変えることが出来るのだよ」
「えっ…」
そういうことは最初に言ってくれ。
「で、君は少女になった。例え本当の年齢がいくつであろうとも、ここでは『永遠の』少女だ」
「…」
「こんな所でいつまでも話しているのもあれだから、ちょっと動こうか」
渋々ついていった。
着いたのはメリーゴーランド。
馬ではなく馬車のほうに乗った。
音楽が鳴り、動き始めた。
「ここはね1つの街なんだ。遊園地であるここはそんな街の一部にすぎない」
「街…ですか」
何だか不思議なことが多すぎて疲れてきた、精神的に。
「遊園地は今日初めて出来たんだ。それも、ついさっき」
「ついさっき?!」
「きっと君の願いは『子供として生きたい』でしょう?」
願いなんて七夕でもないのに願うことなんてない。
あるとすれば、結婚願望があるくらい。
なのに、どうしてこうなった。
「深層心理とかでは?」
考え事に返事が返ってきた。
「し、深層心理ですか…」
「仕事がやだとか何とかいろいろあるでしょう?」
「あぁ、はい、まぁ…」
何とも曖昧な答えだなと自分でも思ってしまう。
「そんな貴女を受け入れるために遊園地が出来たのでしょう」
ふぅん、なんて聞きながら女のことを見ていた。
この人は絶対どこかで見たことがある。
思い出せないけど。
「そういえば、貴女の名前は?」
「え、っと…」
何で?
思い出せない…
「思い出せない?」
「ええ」
「では、私が名前をつけましょう。貴女の名前は百花。百に花と書いてももかと読む」
「百花…ですか」
私に似合わない可愛らしい名前になってしまった。
動きがゆっくりになり、完全に止まると音楽もやんだ。
終わりの合図だ。
「百花ちゃん、こっち」
「今行きます」
彼女は忙しなく動く。
「この遊園地を抜けると、住居なのだよ」
「住居…ですか」
「そこに百花ちゃんの家もある」
「家?!マンション的な感じですか?」
「いや、一軒家だね」
「借家ですか?」
「完全に百花ちゃんのものだよ」
「あ、電気代とか水道代とかどうしよう!!」
彼女は笑い、こう言う。
「ここではお金なんて必要ないよ」
「お金が必要ない…」
「そう、みんな夢だけで生きているから。正直、ご飯も睡眠もトイレも何もかも要らないんだ」
「何でですか?」
そんな生きていく上で必要なものが要らないだなんて…。