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卒業式にビンタした相手が、二年半後に「プロポーズの返事を聞きに来た」とか言い出したんだけど

作者: 慶村莉緒
掲載日:2026/05/03

「あんたって本当に最低!!!」


バッチン!!


青空と、乾いた平手打ちの音。

それがあたしの卒業式の思い出だ。情緒も何もなくて笑える。


…嘘だ。


今、思い出しても腹が立つ。


学生時代、成績トップ争いをしていた忌々しい男の顔が浮かび、ギリギリと奥歯をかみしめた。


苛立ちを追い払うようにエールを飲み干す。

周りの男連中から「おお!!」という歓声が上がった。


「よく飲むな、アンナ。良いことがあったか?」


「こんな、しみったれた酒場でいいこともクソもないわよ」


「じゃあ、悪いことか?」


「それもない!毎日平和で嫌になるわ。暇すぎる~」


テーブルに突っ伏した。

魔獣を狩る仕事なんて暇な方が良いに決まってるんだけど、ストレスは溜まる一方だ。


「お前、根が乱暴者だからなぁ。暴れてねぇと死んじゃうんだよな。可哀想に」


「ちょっと、拝まないでよ。死んでないから!」


失礼な酒場のマスター、リカルドを睨みつける。

あちこちで「違いねぇ」なんて笑い声が聞こえてきた。

どこのどいつだ。覚えてろ。

全員見つけ出してボコボコにしてやる。


ギッとあたりを見回すと、わざとらしく視線をそらされた。


小心者どもめ。


「アンナはあんた達みたいなへなちょこ君たちと違うんだから、しょうがないわよ~」


背中にやわらかい感触が当たる。

良い匂い。


「エレン、これ見よがしに胸を自慢してくるのやめてよ」


「ふふふ、アンナはぺったんこだもんね~」


「うっさい!」


可愛い顔して嫌な女ね。

それでも酒場の歌姫エレンの登場で男どもがヒューヒューとうるさい。


「エレン、何か用があるんじゃないの?無いならあっちで(さえず)ってなよ」


あっち行け。

手を振って追い払う。


「ひどーい。アンナと話したいっていうイケメン君を連れてきたのに~」


「はぁ?イケメンに心当たりなんてないんだけど?」


振り向くと、確かにその後ろに男が立っていた。

視界に入った瞬間、青筋が立つ。


「あんた!!」


「酷いな、アンナは俺のことを忘れちゃったのかい?」


忘れもしない思い出の男――アルフォンソ・ド・ローデン。


「忘れるか! つか、あたしだって忘れたいわ!!!」


「あははは、相変わらずだなぁ」


さわやかな笑顔がいけ好かない。

ぶん殴って、その顔をボコボコにしてやりたい。


「おっと、本当に全然変わらないな。手が早い」


……はっ!!


無意識に拳がヤツの顔に繰り出されていた。

やだ、怖い。


「なんで貴族のあんたが、こんな、しょぼい酒場にいるのよ。迷子? ださっ」


うん。殴ろうとしたことは無かったことにしよう。

貴族相手じゃ、どんな因縁を付けられるかわかったもんじゃない。


とにかく鼻で笑っておいた。


「アンナ。前から言ってるけど、一から十まで無礼だからね?」


ちっ…。

貴族ってのは本当に器が小せぇわね。


「うるさいな、何の用かって聞いてんだけど?答える気が無いなら帰ってよ」


さっさと追い払おう。

面倒くさそうだし、実際面倒くさいんだ。この男は。


「酷いな、散々探したんだよ?俺、ちゃんと返事を聞いてないもん」


良い年の男が「もん」とかいうな。

顔がいいだけで、「あり」になってるのが腹立たしい。


「返事って、なんのよ?」


卒業して二年半。

一度も顔を合わせていない。


「え、俺、プロポーズしたじゃん」


酒場の時間が、一瞬止まった。


「えええええ!!!!」


直後、蜂の巣をつついたような絶叫が響く。

あたしより驚くな、うるさい!


「はぁぁ?されてませんけど!?」


あたしの名誉に関わる爆弾発言だ。

断じてそんな覚えはない。

そこだけははっきりさせないと。


「え?卒業式の時にしたよね?」


卒業式というワードに、ビシっと青筋が立つ。

そうか、さっき「うっかり」思い出しちゃったのはこれのフラグか。


『君みたいな珍獣は貰い手がないだろうから、俺が飼ってあげるよ』


一字一句忘れない。

全身の血が沸騰した。


「まさかとは思うけど、最後のアレのことじゃないわよね?」


「なんだ、覚えてるじゃん。平手打ちで逃げるなんてずるくない?」


「普通!告って平手打ち食らったら、それは『お断り』って理解すんのよ!!」


アルフォンソ・ド・ローデン。

天才で鬼才。侯爵家の変わり者。


「普通?そんなの理解できるわけないじゃん」


けろりと悪びれずに近寄ってくる。


だんっ!!!


視界一杯にアルフォンソの綺麗な顔。

あたしの唇に息がかかる距離で、その目が細くなる。


「アンナに勝ち逃げされてる件がいくつもあるんだよね?」


「知らないわよ」


「嘘だ。アンナだって俺を忘れてない」


至近距離で睨むように視線が絡まった。

だから嫌なのよ、この男。


体の芯が熱くなる。

自分の感情のコントロールができなくなるこの感じ。


「だからって二年半も探し回るなんて、すでにあんたが負けてる証拠じゃない」


わざと勝ち誇ったように鼻で笑ってやる。

アルフォンソのこめかみがピクリと動いた。


ざまぁみろ。


捕まってしまった悔し紛れの言葉だと気づかれないように、ムカつく顔で笑ってやった。


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