間話:辺境の地の安全祈願と魔導餅つき大会
辺境の地に、新しい年の光が差し込んだ。
屋敷の補修工事を終え、竣工の喜びも冷めやらぬ中、俺――一ノ瀬 聖は、現場事務所前の広場に「特設ステージ」を設けていた。
「よし、準備はいいか! 今日は無事故無災害で一年を終えられた感謝と、新年の安全を祈願する『現場餅つき大会』だ!」
俺の呼びかけに、職人たちが「おおー!」と気勢を上げる。
そこには、今や俺の現場に欠かせない面々が揃っていた。
「聖様、この『もちごめ』というお米、とっても不思議な香りがしますね」
晴れ着のような白いドレスに身を包んだリアナが、蒸したてのもち米を覗き込んで微笑む。
「ああ、これはドワーフの領地にある、粘り気の強い種だ。これを突いて一つにまとめる。まさに、チームの結束の象徴ってわけだ」
「ふん、ただ突けばいいんだろ? 俺のパワーを見せてやるぜ!」
ガッツが巨大な槌を振り上げる。だが、俺はそれを制した。
「待てガッツ。餅つきは『相番』が命だ。突く奴と、手返しをする奴の呼吸が合わなきゃ、いい餅は作れねえ。……手返しは、フィラ、頼めるか?」
「えっ、私!? 熱そうだけど……面白そう! 空からのスピードで見せてあげるわ!」
フィラが羽を羽ばたかせ、臼の横に陣取る。
「いいか、ガッツが突く瞬間に手を入れ、米をこねる。タイミングは俺が指示する。……【スキル:工程管理】発動!」
俺の脳内にメトロノームのような正確なビートが刻まれる。
「はい、突いて! はい、返して! 一ミリの遅れも許さないぞ!」
ドォン! とガッツの槌が唸りを上げ、間髪入れずにフィラの手が魔法のような速度で米を丸める。
「どすこい!」「はいよっ!」
その光景は、もはや建設現場の杭打ち作業そのものだった。
「……信じられませんわ。これほどまでの高熱と衝撃の中で、一糸乱れぬ連携……。この『粘り気』こそ、一ノ瀬様が提唱する構造体の理想形なのですわね」
いつの間にか横に来ていた首席検査官のエレナが、手帳に猛烈な勢いでメモを取っている。彼女の眼鏡が蒸気で曇っているが、その瞳は情熱的に俺を捉えていた。
「いや、エレナ。これはただの飯だ。……ほら、食べてみろ」
俺はつきあがったばかりの餅に、エルフ特製の甘い蜜をかけて彼女に差し出した。
エレナは恐る恐る口に運び――。
「……んっ!? ……ふあぁ、もちもちして、温かくて……。これが、一ノ瀬様の現場の味……。私、なんだか胸がいっぱいですわ……」
頬を赤らめ、とろんとした目で俺を見つめるエレナ。その横から、リアナが少し焦ったように俺の腕を掴んだ。
「聖様! 私も、私もあーんしてください!」
「ちょっとリアナ様、ずるい! 私だって頑張って返したんだから、聖が食べさせてよ!」
フィラまで空から突っ込んでくる。
「おい、お前ら! 現場監督を困らせるな。……ほら、全員分あるから」
俺は苦笑いしながら、ヒロインたちに餅を配っていく。
前世の現場では、年末年始といえば「現場の戸締まり」と「緊急連絡網の確認」だけで終わっていた。
だが、ここでは違う。
苦労を共にした職人たち、そして俺を信じてくれた仲間たちが、笑いながら同じ釜の飯を食っている。
「ボス! 酒だ! 酒を持ってこい! 安全祈願の景気づけだ!」
ガッツの号令で、宴はさらに盛り上がる。
俺は一人、完成したばかりの屋敷と、その向こうに広がる整地された領地を眺めた。
今はまだ小さな一歩だが、この絆があれば、どんな巨大プロジェクトでも竣工できる確信があった。
「……さて、休みは今日までだ。明日からは『魔導エレベーター』の設置工事に着手するぞ」
俺はポケットから新しいヘルメットを取り出し、深く被り直した。
新年の冷たい空気が心地いい。
異世界建築無双。
俺の、そして俺たちの地図に残る仕事は、ここから加速していく。
今回の建築用語解説
• 現場餅つき大会: 日本の建設現場で、年末年始や上棟式に行われる伝統的な親睦行事。
• 相番: 異なる工種の職人が協力して一つの作業を行うこと。
• 上棟: 建物の骨組みが完成すること。
• 安全祈願: 工事中の事故がないよう神仏に祈ること。
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