第5話 七日間の突貫工事、そして運命の検査
「いいか野郎ども、今日から竣工までの七日間は『突貫』だ! 一秒も無駄にするな、だが安全だけは絶対に妥協するな!」
俺の声が響くと同時に、現場に巨大な光の壁が出現した。
【スキル:朝礼看板(全域共有)】。
そこには、七日分の精密な工程表と、各工種が今日やるべき作業と安全面の「危険予知(KY)」、そして完成予想のBIMモデルがリアルタイムで投影されている。
「すげえ……。ボスの頭の中が、空に見えるぜ!」
ガッツらドワーフたちが、空中に浮かぶ図面を見上げて感嘆の声を漏らす。
「フィラ! お前たちは夜間作業用の『魔導投光器』を空中に保持しろ。二十四時間体制で現場を照らすんだ。交代要員は俺が手配する!」
「了解! お祭りみたいでワクワクするね!」
職人たちの本気に、俺の現代知識が火を吹く。
まず着手したのは、泥濘だらけだった領地の『道路舗装』だ。巨大なドリルワーム(地中魔獣)を地質改良機として操り、石灰と固化材を混ぜて地盤をガチガチに固める。その上に、スライムたちが自らの体液を調整して「魔法のアスファルト」を流し込み、完璧な平滑面を作り上げていく。
さらに、エルフの女親方ベルタ率いる外構班が、庭園に植栽を施し、歩道には夜間に自発光する魔導石のタイルを敷き詰めていく。
「聖様……これほどまでの光景、見たことがありません……」
リアナが、目まぐるしく変化していく街の姿を、頬を紅潮させて見守っていた。
そして七日後。運命の「竣工検査」の日。
バロス監理官が、さらに豪華な装束に身を包んだ女性を連れて現れた。
「――お待たせしましたわね。私が王立建築ギルド、首席検査官のエレナです」
現れたのは、眼鏡をかけた知的な美貌を持つ女性だった。彼女は一歩領地に足を踏み入れた瞬間、その足を止めた。
「……な、何ですの、この道は。馬車が跳ねない……まるで水面を歩いているかのような滑らかさ……!」
「エレナ様! こんなものはまやかしです! さあ、早くこの屋敷の欠陥を暴き、解体命令を!」
バロスが焦ったように叫ぶが、エレナは彼を無視して、俺が設置した『完成検査用図面台』に歩み寄った。
そこには、俺がCADで書き出した数千枚に及ぶ竣工図面と、試験報告書が整然と並べられている。
「……信じられない。地下の杭の一本一本まで、打設記録と強度の証明が揃っているなんて。魔導建築の歴史上、これほどまで『透明性』のある現場は存在しませんわ」
エレナの鋭い瞳が、図面と俺を交互に見つめる。
「一ノ瀬 聖と言いましたわね。……あなた、この『配筋検査』の記録、どうやって取ったのですか? コンクリート(石化材)を流した後は、中が見えないはずでしょう?」
「BIMの透視モデルと、打設前の全数写真記録です。嘘だと思うなら、壁の一部を魔力スキャンしてみてください。図面と一ミリも違わずに、補強材が入っているはずだ」
エレナは無言で屋敷の壁に手を触れ、目を閉じた。
数秒後、彼女は大きく目を見開き、眼鏡を指で直した。
「……完璧です。いえ、完璧という言葉すら生ぬるい。バロス監理官、あなたの報告は全て誤りでしたわ」
「なっ……そんなバカな!?」
「この屋敷は、王都の王宮よりも頑丈で、かつ機能的です。そしてこの街のインフラ整備……これは建築の革命ですわ」
エレナは俺に向き直ると、深々と頭を下げた。
「一ノ瀬様。失礼な態度を。あなたをギルドの『特級建築師』として、私が直々に推薦いたします。……それと、もしよろしければ、この『CAD』という技術について、後で詳しく教えていただけませんか?」
エレナの顔が、少しだけ赤らんでいる。それはプロとしての敬意と、未知の技術への好奇心、そして……俺という男への強い興味だった。
「聖様、やりましたわ!」
リアナが俺の腕に飛びついてくる。それを見たフィラやベルタも「ちょっと、私たちも頑張ったんだからね!」と、俺の周りに集まってきた。
「ふぅ……。ひとまず、竣工だな」
俺は作業着のポケットから、大切に持っていた最後の一本の缶コーヒー(のような魔力飲料)を取り出し、プシュッと音を立てて開けた。
泥と汗にまみれた七日間。だが、目の前に広がる整然とした街並みと、仲間の笑顔が、何よりの報酬だった。
「――さて、次は年始の『現場内餅つき大会』の段取りでも考えるか」
俺の異世界現場監督としての物語は、まだ始まったばかりだ。
今回の建築用語解説
• 突貫: 短期間で一気に工事を仕上げること。
• KY(危険予知): 作業前に事故の危険を予測し、対策を立てる活動。
• 竣工: 工事が全て完了すること。
• 配筋検査: コンクリートを流す前に、中の鉄筋が正しく組まれているか確認する重要な検査。
• インフラ: 道路、水道、下水道など、生活の基盤となる施設。
• 特級建築師: 本作における最高位のライセンス。現実の一級建築士を超える権威。
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