第2話:深海の「害獣」立ち入り禁止! 仮設防護壁の緊急敷設
アトランティスが海面に姿を現し、排水が進むにつれて、都市の至る所から「深海の主たち」が這い出してきた。数千年の間、静かな海底でこの都を住処にしていた巨大クラーケンや深海魚の魔物にとって、俺たちは自分たちの家を勝手に地上へ引きずり上げ、水を抜いた「不法侵入者」に他ならない。
「所長、あっち! 建物の中から巨大な触手が伸びてきて、せっかく設置した測量機をなぎ倒したわよ! こっちにも鋭い牙を持った深海魚が跳ね回ってる! 現場がパニックだわ!」
ミーナが槍を振り回して飛び跳ねる深海魚を追い払うが、多勢に無勢だ。作業員たちが魔物の影に怯え、工事の手が止まってしまう。建設現場において、作業員の安全確保は何よりも優先されるべき「一丁目一番地」だ。
「落ち着け、ミーナ! 害獣相手にいちいち総力戦をやってたら、アトランティスの補修が終わる前に都が朽ちちまう。まずは物理的に奴らを隔離するんだ。ガッツ、『重荷重用・仮設防護壁』を搬入しろ! 現場を安全な『施工区域』と『危険区域』に明確に分断するぞ!」
俺の指示で、ガッツが魔導重機を操り、巨大な鋼鉄製のパネルを次々と降ろしていく。これは地上の工事現場で使われる仮囲い(かりがこい)を、対魔物用に強化した特別製だ。
「おうよ、ボス! H鋼の支柱を地面の石畳に深くぶち込んで、ビクともしない壁を作ってやるぜ!」
ガッツが巨大な油圧ハンマーで、地面の隙間に頑丈な鋼材を叩き込んでいく。アトランティスの石畳は硬いが、ドワーフの技術と重機のパワーの前では粘土も同然だ。支柱が等間隔に立てられ、その間に厚さ20センチを超える魔導合金製のパネルがはめ込まれていく。
「エレナ、壁の裏側に『支保工』を追加しろ! 触手の押し出す力は数トンに及ぶ。パネル単体じゃ押し切られるぞ。斜めに突っ張り棒を入れて、力を地面に逃がすんだ!」
「了解ですわ! 構造計算によれば、この角度で支柱を補強すれば、クラーケンの締め付けにも10分間は耐えられますわ。その間にミーナ様が撃退すれば完璧ですわね!」
パネルが次々と連結され、工事エリアを囲い込んでいく。触手が壁を叩くたびに「ドォォォン!」という重低音が響くが、ガッツが組み上げた『ブレース(筋交い)』がその衝撃をがっちりと受け止める。壁の内側には、作業員が安全に移動できる「安全通路」が確保され、殺気立っていた現場にようやく秩序が戻り始めた。
「よし、ミーナ! 壁から首を出してきた奴だけを狙い撃て。深追いしなくていい、奴らをこの『安全柵』の外側に押し戻すのが目的だ!」
「分かったわ! 防護壁があるなら、背後を気にせず戦える。これなら楽勝よ!」
ミーナの魔法が炸裂し、壁を乗り越えようとした魔物たちが次々と海へと追い返されていく。俺たちは、ただ戦うのではなく、「壁」という境界線を作ることで、混沌とした廃墟を整然とした「建設現場」へと作り変えたのだ。
こうして、アトランティスの中央広場周辺は、強固な仮設壁に守られた「セーフティ・ゾーン」となった。俺は壁に取り付けられた『安全第一』の看板を満足げに眺め、次なる工程へと視線を向けた。
「所長、安全確保はバッチリね! でも、この壁の向こう側……都市の心臓部へ続く『大階段』が、長年の水圧でバキバキに崩落してるわよ。ここを直さないと、都の最上階には行けないわ」
ミーナが指差す先、アトランティスの象徴である巨大な螺旋階段が、無残にも瓦礫の山と化していた。
今回の建築・土木用語解説
• 仮設防護壁: 工事中に部外者の侵入を防いだり、騒音や危険を遮断したりするために一時的に設置する壁。
• H鋼: 断面が「H」の形をした鋼材。非常に丈夫で、建物の骨組みや支柱に広く使われる。
• 支保工: 工事中に構造物が崩れないように支える一時的な仮設構造物。ここでは壁が倒れないための突っ張り棒を指す。
• ブレース(筋交い): 柱と柱の間に斜めに入れる補強材。横からの力(地震や魔物の押し)に対して、構造物を劇的に強くする。
• 仮囲い(かりがこい): 工事現場の周囲を囲う板やフェンス。安全確保と現場の境界を明確にする役割がある。
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