表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界建築無双《BLUE COLORS》〜BIMとCADが使える俺、美少女領主に雇われ、伝説の職人たちを率いて理想の街を爆速で竣工させる〜  作者: beens
第1章:辺境領地の再建

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/7

第1話 泥だらけの着工(チャッコウ)

「……なんだ、この現場げんばの体たらくは」

辺境領主リアナの屋敷の前。俺――一ノいちのせ ひじりは、腰に手を当てて深くため息をついた。

 目の前に広がるのは、ただの泥の海ではない。

 無造作に放り出された錆びた石工道具、腐りかけの木材、そして何より、どこから手をつけていいか分からないほどに堆積した「ゴミ」の山だ。

「あの……聖様? どうかなさいましたか?」

 不安げに首をかしげるリアナ。その瞳はまだ潤んでいるが、俺の「不敵な笑み」に少しだけ希望を見出しているようだ。

「お嬢さん。建築ってのはな、ただ石を積むことじゃない。現場の状態は、そのまま建物の寿命に出るんだ。こんな泥とゴミにまみれた場所じゃ、いい仕事はできねえ」

 俺は地面に転がっていた、折れたシャベルを拾い上げる。

 前世の現場なら、今頃「特安日パトロール」で、即座に工事停止命令が出るレベルだ。

「おい、そこのデカい奴。お前がここのかしらか?」

 俺が声をかけたのは、屋敷の裏手で不機嫌そうに座り込んでいた、一人のドワーフだった。

 身長は俺の腰ほどしかないが、横幅は二倍はある。丸太のような腕には、土と泥が深く染み付いていた。

「……あ? なんだぁ、見ねえ面だな。リアナ様、こんなヒョロい人間をどっから連れてきたんだ」

 ドワーフが面倒そうに立ち上がる。鼻から吐き出された鼻息で、足元の泥が少し飛んだ。

「彼は聖様よ。私の招待した……その、建築の専門家です」

「専門家ぁ? 笑わせんじゃねえ。この『呪われた土地』に何人専門家が来たと思ってやがる。石を積めば沈み、杭を打てば折れる。ここは、大地の精霊に見放されたクソ溜めだ」

 ガッツと呼ばれたそのドワーフは、地面を力いっぱい踏みつけた。

 グチャリ、と嫌な音がして泥水が跳ねる。

「……呪い、か。お前ら職人は、自分の技術不足を全部呪いのせいにするのか?」

「なんだとぉ、テメエ!」

 ガッツが巨大なつちを掴み、俺を睨みつける。

 だが、俺は一歩も引かない。現場監督を十年やってりゃ、血気盛んな職人なんて見慣れている。

「ガッツさん、言ったな。石を積めば沈むと。当たり前だ。この地盤の『N値(地盤の硬さ)』を測ったか? 泥の層の下にある支持層しじそうまで杭が届いてねえんだよ」

「えぬ……? しじ……?」

「専門用語はいい。要は、お前の仕事が『雑』だってことだ」

 俺は【スキル:神の目(不陸検知)】を起動した。

 視界に走るグリッド線。屋敷の周辺、地下三メートル地点にある強固な岩盤層が、青くハイライトされる。

「ガッツ。お前、土工のプライドがあるなら、まずこの現場を掃除しろ」

「掃除だと? 俺は穴を掘るのが仕事だ! 掃除なんてガキの遊び――」

「掃除ができねえ奴に、丁寧な仕事が出来るかよ」

 俺はガッツを無視して、泥の中に足を踏み入れた。

 スーツの裾が泥に浸かるのも構わず、俺は落ちていた廃材をテキパキと仕分け、一箇所に集め始める。

「聖様! お洋服が汚れてしまいます!」

「いいんだリアナ。これも仕事のうちだ」

 俺は【スキル:脳内BIM】を展開する。

 屋敷を中心とした半径五十メートルの最適排水ルートを一瞬で算出。

 どこに溝を掘れば、この泥濘が乾き、重機の代わりとなる魔物たちが動きやすくなるか。

「……ふん、見てろ」

俺はシャベルを振るった。

ただのシャベルじゃない。【スキル:爆速竣工】の補正がかかった俺の動きは、職人たちの目には残像に見えたはずだ。

無駄のない動きでゴミを拾い、邪魔な石をどかし、最適な位置に排水溝を掘っていく。

ただの掃除ではない。それは、現場の「氣」を整え、最も効率的な導線を作る「儀式」に近い。

三十分後。

「……な、なんだこりゃあ……」

 ガッツが呆然と声を漏らした。

 さっきまで足の踏み場もなかった泥の広場が、魔法でも使ったかのように整然としていた。

 ゴミは種類ごとに整理され、屋敷の周囲には一本の淀みない溝が掘られ、溜まっていた水が勢いよく流れ出している。

そして、何よりも驚くべきは――。

「……完璧な、水平……?」

 ガッツが地面を見つめる。

 泥だらけだったはずの地面が、まるで職人が数日がかりで整地したかのように、真っ平ら(フラット)になっていた。

そこには、俺が打ち込んだ数本の木杭と、それに結ばれた一本の糸。

水糸みずいと」だ。

「これが『遣りやりかた』だ。建物の基準だよ。ガッツ、お前の腕なら、この糸からきっかり三メートル下に岩盤があるのが分かるはずだ。そこまで掘れ。話はそれからだ」

 俺は泥を拭い、ガッツの前に立った。

 ドワーフの男は、俺が描いた完璧な「現場のライン」を食い入るように見つめ、やがてプルプルと震えだした。

「……この短時間で、これだけの基準レベルを出しやがったのか……人間の細腕で……」

「魔法じゃねえ、技術だ。……やるのか、やらねえのか」

 ガッツはしばらく沈黙した後、鼻を大きく鳴らした。

 そして、愛用の巨大なシャベルを肩に担ぐ。

「……ケッ。気に入らねえな。だが、これだけ綺麗な『お膳立て』をされて動かねえのは、土工の名が廃る」

 ガッツがニヤリと笑った。その顔には、先ほどまでの侮蔑はなく、同じ「現場」に立つ者への敬意が混じっていた。

「よぉ、大所長ボス! 掘ればいいんだな、地下三メートルの岩盤まで!」

「ああ。一ミリの誤差も出すなよ」

 リアナが、信じられないものを見るような目で俺たちを見ていた。

 頑固で有名だったドワーフの親方が、たった三十分の「掃除」で、若造の指示に従い始めたのだ。

「聖様……あなた、本当に何者なのですか?」

「ただの現場監督せこうかんりですよ、リアナ様」

 俺は空を見上げた。二つの月が綺麗に見える。

 現場が綺麗になれば、自然と心も整う。

「さあ、着工だ。まずはこの屋敷の沈下を止める。……工期通りにな」

俺は脳内の工程表ガントチャートを更新した。

第一工程:地盤改良。

予定完了まで、あと――四十八時間。

異世界での俺の「初現場」が、いよいよ本格的に動き出した。


今回の建築用語解説

不陸ふりく: 地面の凹凸や、水平でない状態のこと。

• 4Sよんえす: 整理・整頓・清掃・清潔。現場管理の基本。

• 遣りやりかた: 建物の正確な位置や高さを決めるための仮設の囲い。

水糸みずいと: 水平を確認するために張る糸。

更新通知を受け取りたい方は、ぜひブックマークをお願いします!

「続きが気になる」「面白い」と思っていただけたら、下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると、執筆の大きな励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過去作品:https://mypage.syosetu.com/mypage/novellist/userid/3017364/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ