第6話 Fランク歓迎会①
雑貨屋を出てから、5日が経った。
その間、俺たちは——
「市場裏のゴミ捨て場整理、完了っと」
「はい、レオンさん。こちらが依頼達成のサインです」
受付のリサから木の板を受け取る。
そこには、ここ数日で俺たちがこなしたFランク依頼の一覧が刻まれていた。
・市場裏のゴミ捨て場整理 ×1
・荷物の運搬補助 ×2
・老婆の薪割り手伝い ×1
……地味だ。
でも、“正式依頼”として記録される以上、これも大事な仕事らしい。
「これで、レオンがこなした依頼、通算で何件目?」
隣でミリアが覗き込んでくる。
「登録からちょうど一週間で、5件ですね」
「悪くないじゃん」
背後からカイの声がした。
短剣二本を腰にぶら下げた、いつもの軽そうな格好だ。
「とはいえ、50件まではまだ遠いけどね」
「50件?」
首をかしげる俺に、ミリアが肩をすくめる。
「FからEに上がるのに、“だいたいそのくらい”って話。
一日一件ペースで三ヶ月くらい。
Fランクの試用期間ってやつ」
「子ども、ですか……」
ギルド内を見回す。
たしかに、Fランク用の掲示板の前には、俺より明らかに年下の顔が多かった。
十歳くらいの子どもから、十五かそこらの少年少女まで。
(そこに十八歳が混じってるの、俺だけな気がするな)
村なら普通に一人前扱いされる年齢だけど、ギルドの中では「遅れてきた新人」だ。
「そういえば、リサさん」
俺はカウンター越しに訊ねた。
「Fランクの人って、何歳くらいが多いんですか?」
「そうですね……。
この街ですと、十〜十五歳くらいが一番多いですね。
十五歳前後でEランクに上がれれば、“順当”って感じでしょうか」
「やっぱり、そうなんですね」
「レオンさんみたいに、十八歳から始める方はちょっと珍しいですけど……。
でも、村や地方から来られる方は、たまにいらっしゃいますよ」
リサはそう言って微笑んだ。
「それと、みなさんにお知らせがあるんです」
「お知らせ?」
「今日の夕方、“Fランク新人歓迎会”があります。
月に一度、新しく登録したFランクさん向けに、昇格条件の詳しい説明や、先輩冒険者からのお話を聞ける会なんです。
軽食も出ますよ」
「軽食!」
カイの目が輝いた。
「それだ!」
「食いつくところ、そこ?」
ミリアが呆れ顔になる。
「でもまあ、昇格条件の“正式な話”は聞いておいた方がいいかもね。
私が知ってるの、半分くらいは噂だし」
「認めた」
ロウがぼそっとツッコんだ。
治癒魔法使いの彼も、Fランク仲間だ。
「初心者さん同士の交流もできますから、よろしければみなさんで参加してみてくださいね」
「行きましょう」
俺は即答した。
どうせ、夕方以降は特に予定もない。
「じゃ、夕方までは自由時間。
私、魔法具屋覗いてくる」
「俺は宿代交渉だな。長期滞在割引、そろそろ欲しいところ」
それぞれが散っていく中、俺はギルドを出て、自然と足を向けた。
◇
空き地は、三日前と変わらず静かだった。
草の匂いと、遠くのざわめきだけが耳に届く。
リオの足跡が止まっていた場所には、まだ薄く黒ずんだ地面が残っている。
指で触れても、もう何も起こらない。ただ、土が固まっているだけだ。
(……リオ、どうしてるかな)
リオがいつも握りしめていたおもちゃは、今、あの雑貨屋に戻っている。
お母さんが木の犬を胸に抱きかかえて泣いていた姿が、頭から離れない。
『必ず、見つけます』
あのとき口にした言葉が、胸の奥で重しのように残っていた。
(言ったからには、守りたいよな)
無自覚に、剣の柄に手を置いていたときだ。
「レオン?」
背後から声がした。
振り向くと、衛兵の制服を着た青年が立っていた。
市場で会ったことのある顔だ。
「あのときの……」
「覚えててくれてたか。
お前さんがこの辺をうろうろしてるって、同僚から聞いてな」
青年は空き地を一周見回し、それから声を潜めた。
「黒い染みの件、衛兵詰所にも話が来てる。
正直なところ、衛兵だけじゃ手に余る。
ギルドの調査隊が動くって話だけど……あいつら、腰が重いからな」
「そんなに、ですか」
「“危険がはっきりしてから動く”のが上の連中のやり方だ。
こっちは、“危険になる前に止めたい”んだがな」
青年の目は真剣だった。
「お前さんみたいに、変な気配に敏い冒険者が街にいるのは、正直ありがたい。
……ただ、死ぬなよ」
「はい」
俺は素直に頭を下げた。
「夕方、俺は東門の見回りだ。
何か変なのを見かけたら、ギルドでも衛兵でもいいから、すぐ知らせてくれ」
そう言い残して、青年は足早に去っていった。
(“危険になる前に”か……)
村でも、そうだった。
獣の気配を感じたら、山を降りてくる前に仕掛けを変える。
雪が降る前に、薪を多めに割っておく。
街も、本来は同じはずだ。
ただ、人と仕組みが増えた分、動き出すまでの段取りが増えているだけで。
「……まずは、自分の届く範囲から、か」
そう区切りをつけて、俺はギルドへ戻った。




