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Fランク冒険者がみんな弱いと思ったら間違いだ 〜街の雑用をするヒマもなく事件を片付けてたら、いつの間にか最前線戦力でした〜  作者: 那由多
第2章 貴族街の盗賊と黒い噂

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第45話 夜会の翌朝と、霧紺の洞の名


 貴族夜会から一夜——というか、ほとんどそのまま朝になった。


 さすがに眠い。


 けれど、Fランク講習組の訓練は、いつも通り朝からある。


(……顔出すだけ、顔出すだけ)


 そう自分に言い訳しながら訓練場に向かうと、

 木剣の音より先に、ジンの声が飛んできた。


「レオン兄ちゃーん!!」


「でかい声出せる元気があるのはいいことですね」


「聞いたぞ! 昨日またなんかやらかしたんだって!」


「やらかしたって言い方やめませんか」


「通用口で盗賊捕まえて、

 地下で魔法陣ぶっ壊して、

 黒い霧と犬と戦って——」


「情報が盛られすぎてますね、確実にどこかで」


 だいたい合ってるのが困る。


「テオは?」


「ほら、あそこ」


 テオは端っこの木陰で、ストレッチをしていた。

 目の下のクマは、前より少し薄い。


 こっちに気づくと、ぺこりと頭を下げた。


「おはようございます、レオンさん」


「おはよう。

 昨日の夜は、変な夢見ませんでした?」


「はい。

 黒い犬は、山の方へ走っていきました」


 テオは、静かな声で続ける。


「街の方には、もう来ない感じがしました。

 少なくとも、昨日の夜は」


「それはよかったです」


 夜会のとき、犬は地下物置で霧を食べた。

 そのあと、たぶんそのまま“向こう側”と“山の方”を見に行ったんだろう。


「でも、山の霧は、前より濃くなってました」


 テオが、少しだけ顔をしかめる。


「全部が終わったわけじゃない、って感じでした」


「その話は、あとでギルドにも伝えましょう」


「アメリアさんにも?」


「もちろん」


 テオの夢の話は、もうギルドの正式な“情報源”の一つだ。


 Fランク講習組の中に、そういう子がいるというのも、

 なんだか不思議な話ではあるけれど。


 ◇


 ギルドに行くと、

 報告掲示板の前にまた人だかりができていた。


「また何か貼られたみたいですね」


「夜会の件でしょ、どうせ」


 ミリアが、半分あきらめ顔で言う。


 近づいて見ると、案の定だった。


 ——【ヴァーロン子爵家夜会における不審魔道具暴走と、その鎮圧について】——

 主な功労者:

  城塞騎士団第2中隊 ガレス・ロウエン隊

  トラヴィス冒険者ギルド 魔術班(エルダ・カールトン 他)

 その他協力:

  貴族街警備担当冒険者一部

 ———————————————


「“その他協力”」


 ミリアが、肩をすくめた。


「まあ、だいたい予想通りよね」


「Fって、どこに……」


 ジンが、紙に顔を近づける。


「あった。

 ここ、めっちゃ下!」


 紙の右下、端っこの方。


 ——※なお、通用口警備および地下物置周辺の見張りにあたったF〜Eランク冒険者の協力も、

  暴走拡大の防止に寄与したことを付記する。


「付記、便利な言葉ですね」


「便利だけど、存在感は薄いわね」


 ミリアが苦笑する。


 そのとき、横から声が飛んだ。


「“付記で済ませられてるうち”は、まだマシだと思いなさい」


 振り向くと、アメリアが壁にもたれていた。

 いつもの軽装、いつもの笑み。


「アメリアさん」


「おはよ、通用口Fたち」


「その呼び方、定着しそうで怖いんですが」


「だって実績あるでしょ?

 城門、なくし物通り、貴族夜会。

 全部“線の入口”に立ってたんだから」


 言われてみればそうだった。


「本当は、“Fランクの夜会出入り”ってだけで、

 ギルドの古株は腰抜かしそうなんだけどね」


「じゃあ、あんまり言わない方がいいですか?」


「言ってもいいけど、“盛られすぎた噂”に気をつけなさいよ」


 アメリアは、報告掲示板をちらっと見る。


「外向きの紙で名前が小さいおかげで、

 逆に変な嫉妬は避けられてる部分もあるから」


「嫉妬ですか?」


「“Fのくせに目立ちやがって”ってやつね」


 アメリアは、さらりと言った。


 ◇


「ところで、レオン」


「はい」


「シルヴァとエドガーが、

 “霧紺の洞の話をちゃんとしときたい”ってさ。

 二階に集合だって」


「霧紺の洞」


 昨日も出てきた名前。


 どうやら、本格的に話が動くらしい。


 ◇


 小会議室には、

 エドガーとシルヴァ、それからガレスがいた。


 机の上には、例の黒い石の欠片が入った瓶と、

 夜会の地下で見つけた魔法陣の写し。


「来たか、《仮)レオン=ミリア隊》」


 エドガーが頷く。


「昨夜の件は、まず礼を言っておく。

 通用口で怪しい二人を止めたこと、

 地下の魔法陣を潰したこと——

 どちらが欠けても、被害はもっとひどかった」


「俺たちは、線のこちら側にいただけです」


「その線が、今のところは正しい位置にある」


 シルヴァが、魔法陣の写しを指で叩いた。


「この陣の構造、見れば見るほど気持ち悪いよ」


「そうなんですか?」


「“霧紺の洞”の入口周辺に現れている小さな陣と、

 形がよく似ているんだ」


 シルヴァが、別の紙を広げる。


 山のふもとの簡易地図と、その端に描かれた魔法陣の写し。

 確かに、夜会の地下のものと、骨組みが同じだ。


「ここ最近、霧紺の洞の入口付近で、

 “見慣れない魔法陣の残骸”が見つかってね。

 Cランクの連中に写しだけ持ち帰らせてた」


「そこに、昨日の陣が重なったわけですね」


 ロウが言う。


「同じ誰かが、

 “山の入口”と“街の地下”に、

 似たような陣を展開していると」


「そういうこと」


 シルヴァが頷く。


「そして、どっちにも“黒い石”が使われている。

 黒い指輪と黒い欠片。

 全部、似た系統の魔力」


「“先生”の仕業ってことですか?」


「十中八九な」


 ガレスが腕を組む。


「影抜きを教え、黒い石の使い方を教え、

 山でも街でも陣を組ませている誰か——

 “先生”と呼ばれている人物だ」


「その先生は、霧紺の洞の近くに?」


「行商人として出入りしている可能性が高い」


 シルヴァが、以前の報告書をめくる。


「“霧の出る谷の石”“悪夢よけの飾り”なんて名前で、

 黒い欠片を売ってたやつがいるらしい」


「なくし物通りの露店で見た女の人は?」


「ただの売り子か、下っ端だろうね。

 昨日の盗賊たちと同じように」


 “捨て駒”という言葉が、頭の中でちらつく。


 ◇


「——で、霧紺の洞の調査隊なんだが」


 エドガーが話を引き取った。


「本隊は、B〜Cランク中心で組むことになった。

 ガレス殿の騎士団と合同でな」


「Fは?」


 ミリアが、あえて聞いた。


「霧紺の洞の“外側”だ」


 エドガーは、きっぱりと言った。


「入口周辺の警戒線と、

 街から山へ向かう道の見張り。

 行商人や怪しい荷物のチェック」


「……つまり、“また線のこちら側”ですね」


「そういうことだ」


 エドガーは、こちらをまっすぐ見る。


「君たちを中に入れたがる連中もいるが、

 C以上の仕事をFにやらせると、

 ギルドの中が余計ややこしくなる」


「ややこしく、ですか」


「“Fのくせに出しゃばるな”と言い出す者もいれば、

 “Fにやらせれば安く済む”と本気で思う者も出る」


 シルヴァが、肩をすくめる。


「どっちも面倒だ」


「だから今は、“街と山の線を押さえるF”として動いてほしい」


 エドガーの言葉は、少しだけ申し訳なさそうでもあり、

 それ以上の何かでもあった。


「“Fランクの闇”に、君たちをもう少しだけ浸からせてから、

 中に入ってもらう」


「浸からせるって表現やめてもらえませんか」


 ミリアが、額を押さえる。


 ◇


「具体的な仕事だが——」


 ガレスが、机の上に新しい紙を置いた。


 ——【霧紺山道の見張りと行商人の確認】——

 依頼主:トラヴィス城塞騎士団/トラヴィス冒険者ギルド

 内容:霧紺の洞へ向かう山道および周辺の見張り。

   “霧の出る谷の石”“悪夢よけの黒い飾り”等を扱う行商人や旅人がいた場合、

   身元と荷物の確認、およびギルドへの報告を行う。

   危険を感じた場合は、決して無理な追跡や戦闘を行わず、

   “線のこちら側”に戻ることを優先すること。

 条件:F〜Eランク(複数人)

 ———————————————


「山の入口まで、ですか」


「そうだ」


 ガレスが頷く。


「君たちFが、“普段のFの顔のまま”山道を歩いてくれることで、

 行商人たちは油断するだろう」


「“安い目と足”として、ってことですね」


 ミリアが、少しだけ棘のある言い方をした。


「そうだな」


 ガレスは否定しなかった。


「だが、“安い目と足”の中に、

 “黒い匂いを嗅ぎ分けられる鼻”が混ざっているとしたら——

 それもまた、こちらの都合のいい話だ」


「鼻の話になると、褒められてるのかどうか、いつも分からないんですよね……」


 複雑な気持ちだ。


「受けるか?」


 エドガーが問う。


「もちろんです」


 これは、迷うところではない。


「行商人の顔と匂いを、

 こっちでもちゃんと覚えておいた方がいいですから」


「そう言うと思った」


 シルヴァが笑った。


「じゃあ、《仮)レオン=ミリア隊》、正式に受注ってことで」


 ◇


 ギルドの外に出ると、

 ちょうど、中堅どころの冒険者たちが話しているのが聞こえた。


「霧紺の洞の調査隊、メンバー決まったってよ」


「Bランク中心か。

 Cもちょっと混ざるらしいじゃねえか」


「いいよなあ。

 俺らもそろそろダンジョン本格参戦したいわ」


「Fどもはまた、“外回り”なんだろ?」


「らしいな。

 山道の見張りに回されるって噂だ」


「まあ、そういう仕事には向いてるだろ、Fは。

 安いし」


 最後の一言に、

 ミリアの眉がぴくりと動いた。


「“安いし”ね」


「否定はしないですけど」


 俺は、少しだけ苦笑する。


「安い方が、依頼は来やすいですし」


「その発想がもう、Fの闇に馴染みすぎてるのよ」


 ミリアが、ため息まじりに言った。


「安いからいっぱい仕事が来る。

 いっぱい仕事が来るから、変なのも混ざる。

 変なのを嗅ぎ分けられるFが一人いると、

 “じゃああいつに回しとけ”って話になる」


「便利ですね、俺」


「便利よ。

 だからこそ、“どこまで便利に使わせるか”を、

 こっちで決めないといけないの」


 ミリアの目は、少しだけ真面目だった。


「線の話と同じ。

 “ここまで”って線を、レオン自身もぼんやりでいいから覚えときなさい」


「ぼんやりでいいんですか」


「きっちり決められてたら、逆に危ないのよ。

 状況に合わせて変えなきゃいけないからね」


 たしかに、それはそうかもしれない。


 ◇


 昼過ぎ。

 山道の下見も兼ねて、街の北門まで歩く。


 門の前には、既に騎士団の詰所が簡易的に増設されていた。


「おう、Fランク」


 見張りの兵士が手を挙げる。


「お前らも山道の方、回されるんだってな」


「はい。

 行商人の匂いと荷物の確認、“線のこちら側”担当です」


「線、便利な言葉だな」


 兵士は笑った。


「こっちは、“線のこちら側に押し返される側”で大変だけどよ」


 門から外を見やると、

 山の方には、薄く霧がかかっているのが見えた。


 あれが、霧紺の洞のある山脈。


(……)


 鼻をひくつかせても、ここからでは何も分からない。


 瘴気の匂いは、まだ届いてこない。


「今日は、下見だけですか?」


「そうね」


 ミリアが頷く。


「本格的に山道に出るのは、明日から。

 霧紺の洞の調査隊と足並み揃えたいだろうし」


「じゃあ、今日は門の外で風の匂いくらい覚えておきます」


 門の外に出て、浅く息を吸う。


 土と草と、遠くの木々の匂い。

 街の中とは違う、“外の匂い”。


 ここに、“黒い石の匂い”が混ざるとしたら——

 それはたぶん、“行商人”が通ったときだ。


 ◇


 ギルドに戻ると、

 リサが帳簿を閉じてこちらを見た。


「霧紺山道の依頼、正式に受注されていますので、

 明日から数日は“山道勤務”になりますね」


「勤務って言い方すると、ちょっと公務員っぽいですね」


「Fランク公務員ですか」


 カイが笑う。


「給料安そう」


「安いですね。

 でも、残業代は出ますよ」


 リサが、さらっと恐ろしいことを言った。


「黒い犬や影が出たときの分は、ちゃんと加算されますから」


「出ないでほしいんですけどね、本当は」


「それはそうですね」


 リサは笑いながら、板に刻みを入れた。


 ——【貴族街夜会裏方補助】達成。

 ——正式依頼達成数:28件/50件。


「順調に増えてますね、Fランクの数字」


「霧紺の洞が終わる頃には、

 ちょうど50件行ってそうな気もしますね」


 ロウが、淡々と言う。


「そのとき、まだFのままなのかどうかは、

 また別の話だけど」


「別の話ですね」


 ミリアが、どこか楽しそうに言った。


「“Fランクのまま50件こなした奴”って肩書きも、

 それはそれで面白いでしょ?」


「面白いの基準が、人によって違いそうですけど」


「そりゃそうよ。

 でも、“面白がる側”が増えてくると、

 Fランクの闇も、少しずつ変わっていくかもしれないわ」


 闇が完全になくなることは、きっとない。


 それでも——

 その中で、何かが変わっていくかどうかくらいは、

 自分でも見てみたいと思った。


 ◇


 ギルドを出ると、

 山の方角に、薄い霧がかかっているのが見えた。


 その手前に、黒い影が一瞬だけ走った気がする。


 犬かどうか、距離がありすぎて分からない。

 でも——


(明日からは、もう少し近くで匂いを確かめられそうですね)


 霧紺の洞。

 黒い石。

 行商人と、“先生”。


 街から少し離れたその場所で、

 線のこちら側から、もう一度“入口”を覗くことになる。


 そんな予感を抱きながら、

 俺は、この日は素直に宿に帰って眠ることにした。


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