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Fランク冒険者がみんな弱いと思ったら間違いだ 〜街の雑用をするヒマもなく事件を片付けてたら、いつの間にか最前線戦力でした〜  作者: 那由多
第2章 貴族街の盗賊と黒い噂

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第40話 功績掲示板とFランクの小さな文字

祝40話!!!!


 翌朝、ギルドに入った瞬間、いつもの依頼掲示板じゃない方に人だかりができているのが見えた。


「なんか、騒がしいですね」


「“報告掲示板”の方ね」


 ミリアが目線で示す。


 依頼じゃなくて、“最近の事件と功績”が貼り出される板。

 普段はそんなに注目されないのに、今日は妙に人が集まっていた。


「どれどれ……」


 人混みをかき分けて近づくと、紙が二枚、新しく貼られていた。


 一枚目は——


 ——【トラヴィス城下“なくし物通り”における盗賊拠点の制圧について】——

 主な功労者:

  城塞騎士団第2中隊 ガレス・ロウエン隊

  Cランクパーティ《石橋の剣》

 その他協力:

  冒険者ギルド調査班一部

 ———————————————


(あれ、Fランクどこ行きました?)


 思わず探す。


 紙の、一番下の端っこ。

 小さな文字で、こんな一行があった。


 ——※なお、周辺見回りにおけるF〜Eランクの協力もあったことを付記する。


「……“協力もあったことを付記する”」


 ミリアが読み上げて、肩をすくめた。


「“その他大勢”って感じの書き方ね」


 二枚目は、貴族街の説明会の件だった。


 ——【貴族街治安説明会における不審魔道具の発見について】——

 主な功労者:

  城塞騎士団魔術班

  トラヴィス冒険者ギルド ギルド長代理 エドガー・ハロルド

 ———————————————


 そのさらに下に、小さく。


 ——※Fランク冒険者による迅速な報告も、事態の悪化防止に寄与した。


「小さいですね」


 ノーラが、真剣な顔で言った。


「文字が」


「そこかい」


 カイが笑う。


「いや、まあ事実としては間違ってないんだけどよ。

 “Fが指輪むしった”とかは、書かれないんだな」


「貴族街の報告に、“Fランクが飛び込んで指輪ひっぺがえしました”って書かないでしょ、普通」


 ミリアが苦笑する。


「“騎士団とギルドの判断のおかげで”ってことにしといた方が、

 全体として丸く収まるのよ」


「丸く、ですか……」


 紙を見つめていると、後ろから小さな声がした。


「レオン兄ちゃん、名前ちっちゃいね!」


 振り返ると、ジンとテオがいた。

 例によって、Fランク訓練組だ。


「名前、どこかに書いてある?」


「書いてないです」


「“Fランク冒険者による迅速な報告”ってところが、全部まとめてだよ」


「まとめて!?」


 ジンが目をむく。


「でも、昨日走ったのレオン兄ちゃんでしょ!」


「みんなで動きましたから」


「そういうとこ真面目!」


 ジンがわあわあと騒いでいると、横から別の声が挟まった。


「功績ってのはな、“外向きの顔”と“中での顔”があるのさ」


 バルニスだった。

 いつも通り前掛け姿で、腕を組んで掲示板を見上げている。


「外向きには、“騎士団とCランクががんばりました”で出す方が、

 貴族様にも城にも説明しやすい」


「じゃあ、中向きは?」


「中向きは——」


 言いかけたところで、受付からリサが顔を出した。


「中向きの方は、ちゃんと残ってますよ」


 そう言って、別の板を指さす。


 受付の奥、普段あまり目立たない場所にある小さな板。

 “内部評価用”と札が掛かっている。


 ——【観察・聞き取り依頼達成記録】——

 《仮)レオン=ミリア隊》:

  黒い犬・古井戸関連 7件

  貴族街盗難騒ぎ関連 5件

  押収品搬送関連   1件


 そこには、でかでかとパーティ名が刻まれていた。


「こっちの板は、一般にはあまり見せませんけどね」


 リサが笑う。


「ギルドの中で、“誰がどう動いているか”を見るためのものですから」


「外向きには、ちっちゃく“Fランクもいました”。

 中向きには、“全部だいたいあいつらが嗅ぎつけた”」


 バルニスが肩をすくめる。


「世の中だいたい、そういうもんだ」


「いいのか、そういうもんなので」


 カイが笑いながら言う。


「お前、気にしてるか?」


 ロウが、こちらを見る。


「名前がでかく書いてないこと」


「?」


 本気で、少し考えてしまった。


「……正直に言うと、あんまり」


 首を傾げる。


「掲示板見て、“やっぱり無事でよかったな”とは思いましたけど。

 名前は……どっちでもいいです」


「ほらね」


 ミリアがくすっと笑う。


「こういう奴だからこそ、“外向きには名前出さないでおきましょう”って話になるのよ。

 遠慮なく使えるから」


「言い方」


 でも、ミリアの冗談の奥に、少しだけ本当のことが混ざっている気もした。


 ◇


「ところで、今日の依頼なんですけどね」


 リサが、帳簿をぱたんと閉じる。


「“いつもの黒い案件”ではなく、かなり普通のものです」


「普通?」


「はい。

 ——【Fランク講習会の補助】」


 ——【Fランク講習会の補助】——

 依頼主:トラヴィス冒険者ギルド 教導担当

 内容:新規登録Fランク向け講習会における、実技訓練の補助。

   簡単な模擬戦の相手、依頼の選び方の説明、

   および「危険な匂いがしたときにどうするか」の実例紹介。

 条件:F〜Eランク(できればFランク経験者)、教え方に問題のない者

 ———————————————


「“できればFランク経験者”」


 ミリアが、じっと俺を見る。


「ばっちりじゃない」


「Fランク現役ですからね」


 ジンが横から口を挟んだ。


「レオン兄ちゃん先生になるの!?」


「先生ってほどじゃないと思いますけど……」


「まあ、“変な匂いがしたときにどうするか”って部分は、

 レオンほど実例持ってるFはいないでしょ」


 ミリアが受付カウンターに手をつく。


「受けましょう。

 ちょうどFランクの闇――じゃなくて、現実を知るいい機会だわ」


「今、さらっと物騒な単語出しかけませんでした?」


「気のせいよ」


 ◇


 ギルドの訓練場は、いつもより少し賑やかだった。


 木剣と軽い革鎧を身につけた子たちが、わらわらと集まっている。


「今日からFランク講習会はじまりまーす!」


 教導担当の先輩冒険者が、声を張り上げた。


「まずは、依頼の選び方と心構えから!」


 講習は三つに分かれていた。


 一つ目は、座学。

 簡単な地図の読み方や、依頼の危険度の見分け方。


 二つ目は、体力づくり。

 走ったり、木剣を振ったり。


 三つ目が——俺たちの担当だった。


「じゃあ、《仮)レオン=ミリア隊》の皆さん。

 “変な依頼を見分けるコツ”と、“変な匂いがしたときの対処”を、

 新人たちに話してあげてください」


 教導担当が、にこにこと言う。


「そんな高度なこと、話せますかね」


「“高度なこと”じゃなくて、“やったこと”を素直に話せばいいのよ」


 ミリアが、俺の肩を叩いた。


「レオン、“洗濯物見張り”のときの話からしてあげて」


 ◇


「——というわけで、“洗濯物見張り”は油断しちゃいけません」


 俺は、目の前に座るFランクたちに向かって話した。


「洗濯物盗むやつなんか、たいしたことないだろって思ってると、

 突然“古井戸の瘴気付き黒犬+子どもの誘拐未遂”が出てきます」


「なにそのコンボ?」


「普通に生きてて遭遇しないわよ、それ」


 新人たちがざわざわする。


「それって、Fランクで行く依頼なんですか?」


 誰かが手を挙げた。


「依頼自体は、“洗濯物見張り”だったからね」


 ミリアが口を挟む。


「依頼の紙に、“古井戸の瘴気付き黒犬+子どもの誘拐未遂”って書いてあったら、

 Fランクに回さないわよ、さすがに」


「え、それ、ずるくないですか?」


 前の列の少年が眉をひそめる。


「紙には“洗濯物見張り”って書いてあるのに、

 実際はそんな危ないことになるなんて」


「だからこそ、“変な匂いがしたら、線を引いて戻る”って話になるのよ」


 ミリアが、地面に棒で線を引いた。


「ここから先、“自分たちだけでどうにかしようとしない”。

 それが分かってると、“ずるい依頼”も、まだマシになる」


「依頼がずるいんですか?」


「依頼そのものがずるいわけじゃないわ。

 街で何かが起きるときって、

 “誰かにとってはただの洗濯物見張り”で、

 “誰かにとっては大事件の始まり”だったりするの」


 ミリアの目が、少しだけ真面目になった。


「Fランクは、“たまたまそこにいた側”になりやすい。

 安いし、人数も多いし、街のあちこちに歩き回るからね」


 “安いし”のところで、何人かが顔をしかめた。


「え、安いんですか?」


「安いわよ。

 Fランクは、ギルドからすれば“安く使える目と足”」


 さらっとすごいことを言った。


「でも——」


 そこで、ミリアは声を少し柔らかくした。


「だからこそ、“目がよくて”“足が止まらないF”は、

 ちゃんと見てる人もいる。

 外向きの掲示板には名前が載らなくてもね」


 新人たちの視線が、ちらりと俺の方を向く。


「レオンさんは、“止まらない”っていうか、

 “勝手に走り出すタイプ”だけど」


「それは褒め言葉ですか?」


「半分ね」


 ◇


「じゃあ、実技の方に移りましょうか」


 ノーラが立ち上がる。


「“ちょっと強い大人”役のレオンに、

 みんなで一人ずつ挑んでみてください」


「え、俺、“ちょっと強い大人”役なんですか?」


「“だいぶ強い大人”だと怖がられるでしょ」


 ミリアが微妙にひどいフォローをしてくる。


「ちゃんと手加減してあげてね」


「心がけます」


 木剣を受け取り、構える。


「じゃあ、誰から?」


「はいっ!」


 最初に飛び出してきたのは、ジンだった。


「レオン兄ちゃん、さっきの盗賊みたいにぶった斬ってみろよ!」


「やめなさい、その例え」


 ミリアが額を押さえる。


「じゃあジン、この線の手前までは好きに打ち込んでいいわ。

 線を越えたら、ノーラが止めるから」


 さっき地面に引いた線。

 “線のこちら側”の境界だ。


「はいっ!」


 ジンが勢いよく突っ込んでくる。


 木剣の構えは、まだまだ甘い。

 でも、目はよく動いている。


(……)


 正面から受ける。

 軽く弾き、足を引っかけないように気をつけながら、

 力の向きをそらす。


 ジンの木剣が、くるりと空を切る。


「うわっ?」


「はい、ここまで」


 ノーラが線の手前に盾を置いていた。


 ジンの足が、そこで止まる。


「っう〜……やっぱ強え……」


「でも、最初の踏み込みは悪くなかったですよ」


 俺は、素直にそう言った。


「相手をよく見てましたし。

 あとは、力を入れる場所を覚えれば、もっとやりやすくなります」


「ほんと!?」


「ほんとです」


 そんな感じで、一人ずつ相手をしていく。


 受け止めるだけ。

 弾くだけ。

 かわすだけ。


 たまに、軽く押し返すと、それだけで相手は目を見開いた。


「レオンさん、やっぱり“ちょっと”じゃないですよ、これ」


 終わったあと、教導担当が苦笑した。


「普通のFランクなら、三人目くらいで腕ぱんぱんになってますよ」


「そうなんですか?」


「村の筋肉基準で話すのやめなさい」


 ミリアが、呆れたように笑う。


 ◇


 講習が終わったあと、訓練場の端で少しだけ休憩していると、

 さっきの少年の一人が近づいてきた。


「レオンさん」


「はい」


「“危ない夜番やら押収品やらは、ぜ〜んぶFに回ってくる”って、

 ほんとですか?」


 どこでそんな言い方を覚えたんだろう、と思ったら——

 さっき、バルニスが似たようなことを言っていた気がする。


「全部、ってわけじゃないと思いますよ」


 少しだけ考えてから答える。


「C以上の人が行く仕事もたくさんありますし。

 ただ、“最初に様子を見る役”は、Fの方が多いかもしれません」


「様子を見る役……」


「“何もなければ、そのまま終わる”。

 “何かあったら、線を引いて戻ってくる”。

 それをちゃんとできるFは、たぶん、結構大事です」


 少年は、しばらく黙って地面を見ていた。


 やがて顔を上げる。


「俺、まだよく分かんないですけど……

 “捨て駒”にはなりたくないです」


「それはーー、俺もそう思います」


 即答だった。


「だから、“この線の向こうは自分の仕事じゃない”って決めたら、

 ちゃんと戻るようにしてます」


「それで、怒られないですか?」


「怒る人もいるかもしれませんけど……

 今のところ、“ちゃんと戻った方がいい”って言ってくれる人の方が多いです」


 エドガーも、リサも、アメリアも。


 そういう人たちが、ギルドの中にいることは、

 レオンでもさすがに分かってきていた。


「……じゃあ、俺も戻ります。

 どこまでも突っ込むんじゃなくて」


「それができるなら、大丈夫だと思います」


「はい!」


 少年は深く頭を下げて、走って行った。


 ◇


 講習会の片付けが終わったころ、

 訓練場の端でシルヴァとエドガーが話しているのが見えた。


 遠くて声までは聞こえない。

 でも、ちらっとだけこちらを見て、二人でなにか頷き合っていた。


 リサが後ろからそっと近づく。


「講習会、お疲れさまでした」


「こういう依頼も、正式依頼扱いになります?」


「もちろんです」


 リサが板に刻みを入れる。


 ——正式依頼達成数:26件/50件。


「“黒い案件”と違って、地味ではありますが……

 新人育成も、ギルドにとってはとても大事なお仕事ですから」


「地味だからこそ、Fに回ってくる、ってことはないですか?」


「それは——」


 リサは、ほんの一瞬だけ言葉を選んだ。


「“半分はそう、半分は違う”ですね」


「半分?」


「“Fなら報酬を安くできるから”という理由が、まったくないとは言いません。

 でも、“Fだからこそ、Fに近い目線で話せる”というのも事実です」


 そう言って、リサは微笑んだ。


「少なくとも、私は“Fランクの先生”がいるのは、とても心強いと思っていますよ」


「先生ってほどのことはしてないんですけどね」


「そうやって自覚がないところも、“Fランクっぽい”ですね」


 褒められているのかどうか、やっぱりよく分からない。


 ◇


 夕方、ギルドを出る前に、もう一度報告掲示板を見上げた。


 Fランクの名前は、やっぱりどこにも書いていない。

 小さな文字の一行だけ。


 ——※Fランク冒険者による迅速な報告も、事態の悪化防止に寄与した。


(まあ、いいか)


 そう思う自分がいた。


 掲示板に刻まれる文字より、

 地下の隔離庫に増えていく箱や、

 訓練場で木剣を振っている子たちの方が、

 なんとなく“実感のある成果”な気がする。


 それに——


「そのうち、“Fランクの行動履歴”ってだけで、

 誰かが顔をしかめる時代が来るかもしれないわよ」


 隣でミリアが、ぼそっと呟いた。


「“またあいつら何か嗅ぎつけてきたのか”ってね」


「それは、それで困りますね」


「困るけど、ちょっと面白そうでしょ?」


 ミリアは、いたずらっぽく笑った。


 黒い犬のことも、影抜きのことも、

 霧紺の洞のことも、まだぜんぶは見えていない。


 でも、“Fランクの小さな文字”が、

 いつかどこかで大きな線に繋がるかもしれない。


 そんなことをぼんやり考えながら、

 俺は今日も、街の中の宿へと帰っていった。


いつもありがとうございます。これからも仲良くしてください。

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