表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fランク冒険者がみんな弱いと思ったら間違いだ 〜街の雑用をするヒマもなく事件を片付けてたら、いつの間にか最前線戦力でした〜  作者: 那由多
第1章 Fランクなのに街で雑用するヒマがない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/49

第4話 仮パーティとFランクの仲間たち①

 翌朝、ギルドの扉を開けると、いつも通りのざわめきが迎えてくれた。

 酒の匂いはまだ薄い。代わりに、朝食代わりのスープとパンの匂いが漂っている。


「おはよ、レオン」


 先に来ていたミリアが、カウンターにもたれて手を振った。

 薄いローブの裾を揺らしながら、いつもより少しだけ機嫌が良さそうだ。


「おはよう、ミリア」


「ほら、早く受付。今日は“重要なお仕事”があるんだから」


「……リオ君の捜索の続き、ですか?」


「それもあるけど、その前に——」


 ミリアがカウンター内の女性を顎で示した。


「パーティ登録」


「……ああ、そういえば」


 昨日の最後に、ミリアが一方的に宣言したのを思い出す。

 “あんたの専属Eランクをやる”、と。


「おはようございます、レオンさん、ミリアちゃん」


 受付のリサが、いつもの柔らかい笑顔で迎えてくれる。


「今日はパーティのご相談で?」


「そうです。仮でいいので、二人パーティの登録をお願いします」


 ミリアがすっと言い切る。

 リサはぱちぱちと瞬きをしてから、手元の板を引き寄せた。


「はい、承りました。それでは——

 パーティ名、代表者、構成メンバー、ランク、活動方針などを書いていただく形になりますね」


「パーティ名……」


 俺とミリアは、顔を見合わせた。


「何も考えてなかったですね」


「そっちの役目だと思ってたんだけど?」


「どうしてです?」


「なんとなく? あんた、村の狩り班とかで名前つけたりしてそうだし」


「“第三狩猟班その一”とか、“境界線の見回り組”とかならありましたけど……」


「地味っ!」


 ミリアが即座にツッコむ。

 リサはくすっと笑った。


「パーティ名は、後から変更することもできますよ。

 最初は仮の名前で登録してしまっても大丈夫です」


「ほら、だって。仮で決めちゃおうよ」


「仮、ですか……」


 考える。

 村の名前を出すのは、なんとなく気恥ずかしい。

 あまり大層な名前をつけるのも、自分に似合わない気がする。


「じゃあ、《新米組》とかで」


「だっさ!」


 ミリアが頭を抱えた。


「せめてもうちょっとマシなやつにしようよ! 《流星なんとか》とか、《灰翼の〜》とか!」


「ミリア、案があるなら先に出してくださいよ」


「う……。

 じゃあ、《火と鈍感》」


「後ろのやつ絶対俺ですよね!」


 リサが笑いを堪えきれずに肩を震わせる。

 周囲のFランクたちも、ちらちらとこちらを見ていた。


「ふふ……それでは、こういうのはいかがでしょう」


 リサが、さらさらとペンを走らせる。


「《仮)レオン=ミリア隊》」


「仮から逃げてない!」


「わかりやすくて、後から変えやすいと思います」


 たしかに、そう言われると何も返せない。

 ミリアも少し考えたあと、観念したようにうなずいた。


「……ま、いっか。どうせそのうちカッコいい名前考えるし」


「そのときは、また変更用の書類を出しますね」


 リサはにこやかに説明を続ける。


「代表者はどちらになさいますか?」


「レオンで」


「即答ですか」


「代表者は、基本的に“前に出る人”だから。

 私は後ろから火を飛ばすだけだからね」


 妙に納得できる説明だった。

 書類には【代表者:レオン・アーディス(Fランク)】、【メンバー:ミリア・フェルノート(Eランク)】と記入される。


「ランクの違う冒険者がパーティを組む場合、基本的には“低い方のランクが受けられる依頼”しか受注できません。

 つまり、F〜Eランク向けの依頼ですね。よろしいですか?」


「問題ないです」


 ミリアが答えるより早く、俺がうなずいた。


「俺自身、まだFランクですし。

 それに……」


「それに?」


「今は、街の中で起きてることを、もっとちゃんと見ておきたいので」


 黒い染み。

 ウサギみたいなスライム。

 リオの足跡が消えた黒ずんだ地面。


 どれも、胸の奥をざわつかせるには十分だった。


「……そういうところ、嫌いじゃないけど、やっぱり危なっかしいわ」


 ミリアが呟く。


「だからパーティ組んだんだけどね」



「お、なんだなんだ。FとEの混成パーティか?」


 書類を提出していると、後ろから声が飛んできた。

 振り返ると、Fランク用の掲示板の前にたむろしていた三人組が、こちらを見ている。


 一人は、細身で軽そうな革鎧を着た青年。

 腰には短剣を二本下げている。

 もう一人は、丸い大盾を抱えた女の子。

 最後の一人は、簡素なローブ姿の青年で、首には小さな木の十字架のペンダント。


「お前らもFか?」


 短剣の青年が近づいてきた。

 歯に衣着せぬ感じの笑み。


「レオン・アーディス。Fランク。

 こっちはミリア・フェルノート。Eランクだけど、昨日から一緒に動いてます」


「Eランクとペアとか、やるじゃん。

 俺はカイ。カイ・サリット。Fランクの盗賊だ。よろしくな」


 カイと名乗った青年が、気軽に手を差し出してきた。

 握り返すと、想像していたよりも指が硬い。


(ちゃんと働いてる手だな)


「ノーラ・ブラン。……Fランク、盾持ち」


 大盾の女の子が、小さな声で名乗る。

 背丈はミリアと同じくらいだが、盾のせいで一回り大きく見えた。


「ロウ・ヘイズ。治癒魔法が少しだけ使える。ランクは……聞かないでくれ」


「Fですよね?」


「刺さるなぁ」


 三人は、どうやら“Fランク仲間”らしい。


「見てたぜ、昨日の市場。

 ゴブリンぶった斬ってたの、お前だろ?」


 カイがにやりと笑う。


「……見てたなら、手伝ってくれてもよかったのに」


 ミリアが半眼になる。

 カイは肩をすくめた。


「衛兵が来るのと、どっちが早いか見てただけだって。

 結果的にお前らの方が早かったから、俺が手出しする必要はなかったわけで」


「そういうのを世間では“サボり”と言うんです」


 ロウがぼそりと挟む。

 どうやらツッコミ役らしい。


「でも、噂になってるぜ。“Fランクのくせにゴブリン三体を一人で片付けた新人”って」


「ミリアもいたので、一人じゃないですよ」


「謙虚かよ」


 カイは楽しそうに笑うと、掲示板を顎で指した。


「なあレオン。今日、仕事どうする?

 正式依頼、探してるんだろ?」


「ええ。昨日のリオ君の捜索も続けたいんですが……

 とりあえず、街の中でできる仕事を」


「だったら、ちょうどいいのがあるぜ」


 カイが一枚の依頼票を剥がして見せる。


 ——【下水道・スライム増加の調査】——

 依頼主:トラヴィス市衛生管理局

 内容:市内第3排水路のスライム数確認、および駆除

 条件:F〜Eランク。パーティ推奨

 備考:悪臭有り。食事前の参加は非推奨

 —————————————————————


「匂いは最悪だけど、報酬はそこそこ。

 それに——」


 カイの目が少し真剣になる。


「最近、下水から上がってくるスライムが“ちょっと変”って話がある」


 胸の奥が、ぴくりと反応した。


「変、ですか?」


「色が濃かったり、動きが妙に速かったり。

 黒い核みたいなのがちらつくやつもいるって聞いた」


「……昨日のスライムに、似てますね」


 ミリアが小声で呟く。

 俺も同じことを考えていた。


「リオ君の件とも、関係あるかもしれない」


「そういうこと。

 だから、俺たちもこの依頼を受けようと思ってた。

 F三人だけだとちょっと心許ないからさ。Eランクの魔法使いが一人でもいたら、だいぶ違う」


 カイが視線をミリアに向ける。

 ミリアはわざとらしくため息をついた。


「……私に上手く乗せようとしてない?」


「してる」


「潔いわね、あんた」


 ミリアは少し考え、それから俺の方を見た。


「どうする? レオン」


「俺は、行きたい」


 即答だった。


「下水から変なスライムが上がってきてるなら、黒い染みとも関係があるかもしれません。

 リオ君の足跡が消えた場所も、地下に何かあった気がしますし」


「だってさ」


 ミリアがカイたちに目を向ける。


「じゃあ、《仮)レオン=ミリア隊》として、この依頼に乗る。

 カイたちと合同パーティってことでいい?」


「助かる!」


 カイが満面の笑みを浮かべた。

 ノーラとロウもほっとしたように肩の力を抜く。


「それじゃ、六人パーティですね。

 依頼申請はこちらでまとめておきます」


 リサが手際よく書類を整えていく。


「下水道第3排水路への入り口は、東区の裏路地にあります。

 中は薄暗く、足場も悪いので、十分お気をつけくださいね」


「はい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ