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Fランク冒険者がみんな弱いと思ったら間違いだ 〜街の雑用をするヒマもなく事件を片付けてたら、いつの間にか最前線戦力でした〜  作者: 那由多
第2章 貴族街の盗賊と黒い噂

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第32話 影抜きと顔の知られていないFランク②

 ◇


「で、だ」


 バルニスが手を叩いた。


「商業組合としては、“指輪の最後の一個”と、“他の怪しい小物”の行き先を洗いたい。

 ギルドとしては、“影抜きと黒い犬がうろついてる通り”を押さえたい」


「つまり?」


 ミリアが問い返すと、エドガーが紙を一枚取り出した。


「つまり、こういう依頼になる」


 ——【なくし物通り 夜間見回り】——

 依頼主:トラヴィス商業組合 本部/トラヴィス冒険者ギルド

 内容:貴族街外れの“なくし物通り”周辺において、夜間の見回りを行い、

   黒い影・黒い犬・盗賊と思しき動きの観察と、通行人の安全確保を行う。

   異常発生時は、戦闘よりもまずギルド・商業組合への報告を優先すること。

 条件:F〜Eランクパーティ(2〜4名)、一晩交代制

 ———————————————


「“戦闘より報告優先”って、わざわざ書いてあるんですね」


 ノーラが紙を覗き込む。


「影抜きと真正面から殴り合えるのは、C以上の仕事だ」


 エドガーが言う。


「君たちの役目は、“変化に気づくこと”と、“線を引いて戻ってくること”。

 古井戸のときと同じだ」


「顔が知られていないFランク、っていうのも、条件に含まれてそうですね」


 ミリアが小さく笑う。


「貴族街の中では、上位ランクの有名どころが歩いてると、すぐ警戒されますから」


「そういうことだ」


 バルニスがうなずく。


「盗賊だって馬鹿じゃない。

 有名なAやBの顔は覚えてる。

 だが、“最近登録したFの顔”まではそうそう覚えちゃいない」


「つまり、“顔の知られていないFランク”が、いちばん近くまで寄れる」


「いい迷惑ね」


 ミリアが苦笑する。


「でもまあ、黒い犬の通り道と重なってるなら、どうせそのうち顔を突っ込むことになってたし」


「それを“どうせ”で片付けないでくれないかね」


 エドガーが額に手を当てた。


「開始は今夜からではない。

 まずは今日一日は休息を取れ。

 夜番明けでそのままもう一晩、というのはさすがに酷だ」


「助かります」


 本音が漏れた。


「明日の夜から、交代制で見回りに入ってもらう。

 君たちには、その初日に入ってもらうつもりだ」


「初日ですか」


「初日が一番、“何かが起きやすい”からな。

 影抜きの使い手にしてみれば、“まだ警戒が薄いだろう”と思うだろうし」


「そこを、“顔の知られていないF”が見てるわけですね」


「嫌な役回りだが、頼む」


 エドガーが軽く頭を下げた。


「嫌な役回りには慣れてきました」


 俺も、素直に頭を下げる。


「正式依頼として受けます」


 ◇


 会議室を出て、一階に降りる。


 途中の階段で、リサが板を持って待っていた。


「面談、お疲れさまでした。

 “なくし物通りの夜間見回り”、正式受注でよろしいですね?」


「はい。

 明日の夜から、ですよね」


「はい。本日はお休みを推奨されています」


 リサは、板にこつんと刻み目を入れた。


 ——正式依頼達成数:21件/50件。


「“倉庫整理”も、先ほど正式にカウントされましたので」


「じわじわ増えてますね」


「黒い犬騒ぎに巻き込まれていながら、

 ちゃんとFランクのノルマもこなしているあたり、

 ギルド的には非常に助かっていますよ」


 リサは柔らかく笑った。


「観察依頼の報告数の方も、ずいぶん増えました。

 そちらは……ギルド内の評価には、かなり効いています」


「外には出ない評価ですね」


「ええ、“裏帳簿”みたいなものです」


 あまり表に出されなくていいものまで混じっていそうだ。


 ◇


「で、今日はどうする?」


 ギルドを出たところで、ミリアが伸びをした。


「さすがに今から別の依頼は、頭が回らなさそうよ」


「寝たいですね、正直」


「レオンは寝て。

 私は、子どもたちの訓練場にちょっと顔出してくる」


「寝ないんですか」


「こういうとき、子どもたちの“どうでもいい話”聞いてると、

 案外ヒントが転がってたりするからね」


 確かに、“黒い犬”の最初の噂も、子どもたちの間から広がっていた。


「じゃあ、訓練場の近くの宿なら、途中まで一緒ですね」


 ◇


 訓練場では、朝から木剣の音が響いていた。


「レオン兄ちゃんだ!」


 ジンが真っ先に駆けてくる。


「昨日、貴族街に泊まったって本当?」


「泊まったというか、裏庭に立ってました」


「裏庭! すげえ!」


「そんなにすごいですか?」


「すごい!」


 価値基準がよくわからない。


 その後ろから、テオが少し遠慮がちに歩いてきた。


「レオンさん……」


「テオ。

 腕の方は?」


「もう、ほとんど大丈夫です。

 それより——」


 テオは、言いにくそうに口を開いた。


「きのうの夜、また……ちょっとだけ変な夢を見ました」


「夢?」


 ミリアが身を乗り出す。


「どんな?」


「前みたいに、黒い犬が部屋に来たわけじゃないです。

 遠くで、“誰かが犬を呼んでいる”声が聞こえて……

 犬はそっちに走って行きました」


「誰か?」


「声は、小さくてよく聞こえなかったです。

 でも、“こっちだよ”って、何度も」


 テオは、ぎゅっと拳を握りしめた。


「前より、怖くはなかったです。

 犬は僕を見ないで、ずっと向こうを見てたから」


「犬が走っていった先、何か見えた?」


「真っ暗でした。

 でも、途中で一瞬だけ——」


 テオは目を閉じて、思い出すように続ける。


「輪っかみたいなものが、三つ並んでるのが見えました。

 黒い、石の輪っか」


「……指輪」


 ミリアが小さく呟いた。


「三つ?」


「はい。

 でも、最後の方は二つしか見えませんでした。

 もう一個は、どこかに行っちゃったみたいで」


 背筋に、ひやりとしたものが走る。


 ルークスの店で一つ。

 ユークリッド家の倉庫で一つ。

 残り一つは、まだどこかに。


「ごめんなさい。

 また変な話で」


「いや。

 “変な話”ほど、今は大事なんだ」


 俺は、できるだけ落ち着いた声で言った。


「その話も、ギルドに伝えていい?」


「はい」


 テオは、今度は迷わずうなずいた。


「アメリアさんにも、“また夢を見たらすぐ言いなさい”って言われてますから」


「いい子ね、テオは」


 ミリアが頭を撫でると、テオは少し照れくさそうに笑った。


 ◇


「……やっぱり、“指輪”は犬の側から見ても重要なんでしょうね」


 訓練場を離れながら、ミリアが言った。


「犬が“呼ばれてる”って表現してたのも気になるし」


「呼んでるのが、“指輪のある場所”なのか、“指輪を集めてる誰か”なのか」


 俺も腕を組む。


「どちらにしても、その近くに“黒い何か”がいることだけは確かですね」


「明日の夜、“なくし物通り”で同じ匂いがしないかどうか。

 そこから先は、上の仕事」


 ミリアがそう言って、俺の背中を軽く叩いた。


「今日はほんとに寝なさい。

 鼻が鈍ると困るから」


「鼻が鈍ると困るって、初めて言われました」


「今のレオンの一番の武器なんだから、自覚しなさい」


 褒められているのか、なんなのかよくわからない。


 それでも——

 犬の匂いも、影の匂いも、古井戸の匂いも、

 全部頭の中に残っている感覚はあった。


 明日の夜、“なくし物通り”でそのどれかに再会しないことを祈りつつ、

 俺は宿に戻って、ベッドに沈み込んだ。

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