表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fランク冒険者がみんな弱いと思ったら間違いだ 〜街の雑用をするヒマもなく事件を片付けてたら、いつの間にか最前線戦力でした〜  作者: 那由多
第1章 Fランクなのに街で雑用するヒマがない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/49

第21話 古井戸封鎖作戦とFランク夜番①


 翌朝、ギルドに入った瞬間、受付前の空気が少しだけぴりっとしているのがわかった。


 子どもたちの声も、どことなく落ち着きがない。

 受付カウンターでは、リサが立て続けに書類をさばいていた。


「おはようございます」


「あ、おはようございます、レオンさん、ミリアちゃん」


 リサは顔を上げると、すぐに声のトーンを落とした。


「ちょうどよかった。

 レオンさんたち、《仮)レオン=ミリア隊》は、本日“特別任務”が入っています」


「特別任務?」


 ミリアと顔を見合わせる。


「古井戸の件ですね」


「はい」


 リサは小さく頷いた。


「今日の夕方から、C〜Bランクの方々が古井戸の“下側の調査”に入られます。

 その間——地上側の見張りと住民対応を、F〜Eランクにお願いしたいんです」


「つまり、“井戸の上を任せるから下は任せろ”ってやつですね」


 ミリアが苦笑した。


「そのとおりです」


 リサは、一枚の紙をこちらに差し出す。


「これが本日の依頼内容です」


 ——【古井戸封鎖作戦 地上支援】——

 依頼主:トラヴィス冒険者ギルド・特別調査班

 内容:古井戸周辺の立入禁止区画の見張り、子どもや住民の誘導、黒い影の監視・観察

 条件:F〜Eランクパーティ(複数人)

 ———————————————————


「“線のこちら側”の仕事ってことね」


 ミリアがぼそっと言う。


「テオ君から夢の話が上がったのもあって、古井戸の優先度が上がりました。

 ……上の方も、かなり本気です」


 リサは奥の方をちらりと見た。


 視線の先には、見慣れない冒険者たちが数人、受付で何やら確認をしている。

 鎧の質も、纏っている空気も、明らかに俺たちより“上”。


「あの人たちが、井戸の下に?」


「Cランクが二組と、Bランクが一組。

 それから、アメリアさん」


「アメリアさん、やっぱり行くんですね」


「ギルド最……ごほっ。

 “面倒事担当”ですから」


 リサの咳払いは聞かなかったことにした。


「集合は、昼過ぎにギルド裏の裏庭です。

 そこで作戦全体の説明がありますので、午前中の依頼は……軽いものだけにしておいた方がいいかもしれませんね」


「了解。

 “黒くない軽いの”を一件だけにしようか」


「また“黒くない”って条件つけるんですね」


「午前ぐらいは胃に優しいやつにしたいじゃない」


 そんなわけで、午前中は市場の荷物運びを一件だけこなし、昼にはギルド裏の集合場所へ向かった。


 ◇


 ギルドの裏庭には、すでにそれなりの人数が集まっていた。


 俺たちF〜Eランクのパーティに加えて、鎧を着込んだCランクの前衛たちと、

 ローブ姿の魔法使いたち。

 中央には、バルドとアメリア、それからシルヴァが立っている。


「お、来たな」


 バルドが手を挙げた。


「今日の“地上支援組”は、大きく三つに分かれる」


 そう言って、簡単な地図を広げる。


「まず一つ。“古井戸直上の警戒班”。

 井戸の周囲に張った結界の状態を見張る役だ。

 ここは、Cランクの補助と一緒に動いてもらう」


 地図の井戸の周囲に、小さな丸がいくつか描き込まれる。


「二つ。“周辺路地の巡回班”。

 黒い犬や黒い影が地上に逃げてこないか、見張る。

 それから、間違って子どもが近づいてきた場合の対応」


 訓練場や住宅区との間に、線が引かれている。


「三つ。“情報窓口”。

 これは主にギルド側でやるが、途中で何かあれば、使者を飛ばしてもらうことになる」


「私たちは?」


 ミリアが手を挙げる。


「《仮)レオン=ミリア隊》は、古井戸直上の警戒班だ」


「え、いきなり井戸の真上ですか」


「真上といっても、“蓋より内側には入るな”が大前提だ。

 シルヴァの結界の杭を見張ってもらう。

 それと、“黒い犬”が出た場合の観察役だな」


「匂い係ですね」


「お前が言うと変な響きだな、それ」


 バルドがため息をついた。


「一応言っておくが——

 地上支援だからといって、“安全”だとは思うなよ」


 その言い方に、場の空気が少しだけ引き締まる。


「封印が緩んだ瘴気は、上にも下にも広がる。

 下を叩いたときに、上へ逃げるやつも出てくるかもしれん。

 そういうのを見逃さないのが、今日のF〜Eランクの役目だ」


「了解です」


 素直に頭を下げる。


「アメリアさんは?」


 誰かが訊ねると、アメリアは槍を肩に担ぎながら軽く手を挙げた。


「私はBランク組と一緒に、井戸の中。

 下の“瘴気の核候補”にご挨拶してくるよ」


 軽い口調とは裏腹に、その目は冗談を一切含んでいなかった。


「レオンたちは、地上を頼む。

 “降りてくるやつ”の相手は、そっちの方が得意でしょ?」


「そう、なんですかね」


「市場、下水、倉庫、ギルド食堂、洗濯物……」


 アメリアは指折り数える。


「もう十分、“降りてきたやつら”の相手してると思うけど」


 言われてみれば、そうだった。


 ◇


 夕方。

 古井戸の周囲には、簡易の結界杭がいくつも打ち込まれていた。


 白い紐でつながれた杭には、小さな魔術式が刻まれている。

 シルヴァがそれを一つずつ確認していた。


「この結界は、“瘴気の濃度が一定以上になったら光る”ようになっている。

 君たちは、その光り方を見ていればいい」


「見てるだけでいいなら、楽そうですね」


 カイが気軽に言うと、シルヴァがじろりと睨んだ。


「“楽そう”に見える仕事ほど、大事なんだよ。

 目を逸らした瞬間に、変化を見逃すからね」


「はい、すみません」


 カイが素直に頭を下げる。


「レオン君は、“匂いの変化”も見ておいてくれ。

 結界が反応する前に、危険を察知できるかもしれない」


「……がんばってみます」


 そんなに立派な能力じゃないつもりなんだけどな、と思いつつ。


 井戸の蓋の方では、バルドとアメリア、それから他の前衛たちがロープや装備の確認をしていた。


「じゃあ、行ってくる」


 アメリアが槍を背負い直し、軽く笑った。


「上から何か変な音がしたら、逃げる準備しときなさい」


「下からじゃないんですか」


「下からのは、こっちでどうにかする。

 上からのは、知らない」


 そう言って、すっと古井戸の中へ消えていった。


 続いて、バルドたちもロープに体を預けて降りていく。

 やがて、井戸の蓋が半分だけ閉じられ、残った隙間からは暗闇とひんやりした空気だけが上がってきた。


「こっちも配置につこう」


 ミリアが周囲を見渡す。


「ノーラは井戸から一番近い杭の前。

 ロウはその横、すぐノーラを回復できる位置。

 カイは外周をぐるぐる。

 レオンは——」


「真ん中で匂いを嗅ぐ係ですね」


「そう。それそれ」


 どんな係だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ