表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fランク冒険者がみんな弱いと思ったら間違いだ 〜街の雑用をするヒマもなく事件を片付けてたら、いつの間にか最前線戦力でした〜  作者: 那由多
第1章 Fランクなのに街で雑用するヒマがない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/49

第10話 Fランク線を引く練習②

祝10話!

 ◇


 一階に降りると、ちょうどカイたちが掲示板の前で依頼票を眺めていた。


「お、遅かったな。アメリアさんに怒られてた?」


「怒られてはいません。

 “線を引け”って、念押しされましたけど」


「それ、怒られてるのとあんま変わらなくない?」


 カイが肩をすくめる。


「で、今日はどうする?

 俺たち、これ受けようかと思ってたんだけどよ」


 そう言って見せてきた依頼票には、こう書かれていた。


 ——【ギルド倉庫の整理および鼠駆除】——

 依頼主:トラヴィス冒険者ギルド

 内容:ギルド裏倉庫の整理、不要物の運搬と鼠・小害獣の駆除

 条件:Fランク以上。複数人推奨

 備考:埃っぽいです。マスク支給あり

 ——————————————————————


「ギルドの倉庫、ですか」


「そう。報酬はそこそこ。何より近い。

 黒いやつが出ても、すぐに援軍が来る距離だしな」


 たしかに、それは安心だ。


「倉庫の整理って、地味だけどけっこう大事なんだよね」


 ミリアが腕を組む。


「薬草とか保存食とか、どこに何があるかきちんとしとかなきゃ、いざってとき困るし」


「黒いのが紛れ込んでる可能性もゼロじゃないしね」


 ロウがぼそっと言う。

 俺の胸も、同じ考えでざわついていた。


「じゃあ、受けましょう」


 俺がうなずくと、カイがニッと笑った。


「決まりだな。

 ノーラ、ロウ、お前らもいいよな?」


「はい」


「まあ、倉庫整理くらいなら」


 受付で依頼票を提出すると、リサが説明をしてくれた。


「ギルド裏の古い倉庫ですね。

 最近、整理が追いついていなくて……鼠の目撃情報も増えているので、この機会にお願いしたいんです」


「黒い何かが出たって話は?」


 ミリアがさりげなく訊ねると、リサは小さく首を振った。


「倉庫に関しては、そういう報告はまだありません。

 ただ、古い建物ですので、もし何か異常があれば、すぐに戻ってきてください。

 ……アメリアさんからも、そう伝えるようにと言われています」


「了解」


 俺たちは、倉庫へ向かった。



 ギルド本館の裏手には、石造りの古い建物がいくつか並んでいる。

 その一つが、今回の依頼対象らしい。


「ここだな」


 カイが重そうな扉を押し開けると、むわっとした埃の匂いが漂ってきた。


「うわ……」


 ノーラが顔をしかめる。

 床には木箱や樽が積み重なり、上の方には蜘蛛の巣が張り巡らされている。


「私、こういうのちょっと苦手かも……」


「大丈夫。ノーラは入口寄りで。

 重い物動かすのは俺とレオンでやる」


 カイが手際よく役割を振る。

 ロウは怪我に備えて少し離れた場所で待機、ミリアは照明役だ。


「——『スモール・ライト』」


 ミリアの詠唱で、小さな光球が倉庫の天井近くをふわふわと漂い始める。

 それでも、奥の方はまだ薄暗い。


「まずは手前から片付けよう。

 いきなり奥まで突っ込むと足をくじく」


 カイの指示に従い、俺たちは一番手前の木箱から中身を確認していった。


「干し肉……賞味期限切れ。これは廃棄ですね」


「古い縄。まだ使えそうなのと、無理なのを分けて……」


 地味な作業が続く。


 ただ、村での生活に比べれば、そこまで苦ではなかった。

 冬支度のときに納屋をひっくり返して整理するのと、似たようなものだ。


(それに——)


 倉庫の奥から、かすかな気配が伝わってくる。

 獣のような、小さな命のざわつき。


「鼠は、いそうですね」


「だろうな」


 カイも短剣に手を伸ばす。


「黒いやつじゃなくて、普通の鼠ならいいんだけど」


「どっちかというと、黒くない方が衛生的にはよくない気もしますけどね」


「それもそうか」



 ある程度片付いたところで、最初の“お客さん”が現れた。


「チュッ!」


 木箱の隙間から、小さな影が飛び出す。

 ただの鼠だ。

 俺が足で進路を塞ぎ、カイが短剣の背でコン、と軽く叩く。


「一匹」


「この調子で潰していけば——」


 言いかけて、胸の奥がざわりとした。


(……違う)


 さっきまでと、空気の重さが違う。

 埃と木の匂いの中に、微かに、昨日の黒スライムと同じような“嫌な気配”が混じった。


「ミリア」


「感じた?」


「はい。奥の方です」


 倉庫の一番奥。

 古びた樽や、ひしゃげた木箱が積まれている辺りから、ひやりとした感覚が伝わってくる。


「ノーラ、盾前に出して。

 ロウはすぐ後ろ。カイとレオンは左右から様子見」


 ミリアが小声で指示を出す。


「あくまで“様子見”だからね。

 さっきアメリアさんに言われたでしょ。線。

 “匂いが違う”と思ったら、無理しない」


「……わかってます」


 自分に言い聞かせるように答える。


 慎重に進み、問題の一角に近づいた。



 そこには、崩れかけた木箱と樽が山のように積まれていた。

 何年も動かされていないようで、上には分厚い埃が積もっている。


 ただ——


「ここだけ、埃が少ない」


 ミリアが指さした場所。

 木箱の隙間の一部だけ、薄く擦れたように埃が薄くなっていた。


「ここから、何かが出入りしてる?」


「……」


 耳を澄ます。

 微かな水音のような、ぬるりとした気配。


「一旦、上の箱どかすよ」


 カイが一番上の木箱に手をかける。

 俺は反対側から支えた。


「せーの」


 持ち上げ、横にそっと降ろす。

 二段目、三段目と、同じように片付けていく。


 いちばん下の箱を動かしたとき——


「っ!」


 そこには、干からびた鼠の死骸が転がっていた。

 ただの腐敗ではない。

 皮と骨だけになって、まるで水分だけ抜き取られたかのような姿。


「これ……」


「下水で見たやつと同じ干からび方だね」


 ミリアが顔をしかめる。


 死骸のすぐ横には、黒ずんだ染みが広がっていた。

 床板にぺたりと貼り付いたそれは、すでに動いてはいないが——

 近づくだけで、胸の奥が冷たくなった。


(匂いは……)


 慎重に近づき、空気を吸い込む。

 酸っぱいような、焦げたような匂い。

 昨日の黒スライムと、下水の変異体に近い。


(同じ系統……)


 ただ、昨日ギルドで見たものほど濃くはない。

 胸を締めつけるような圧はない。


「レオン?」


「大丈夫です。

 “匂い”は、昨日と同じ系統ですけど、薄いです。

 ……戦える範囲だと思います」


 アメリアとの約束を思い出しながら答える。


「なら、まずは——」


「パキッ」


 ロウの足元で、小さな音がした。


「……踏んだ」


 黒ずんだ染みの端が、少しだけ浮き上がっていたらしい。

 そこを踏んだ瞬間、染み全体がびくんと震えた。


「来る!」


 叫ぶのと、黒い何かが起き上がるのは、ほぼ同時だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ