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太史慈転生伝~最上義光を放っておけないので家臣になって手助けしちゃいました~  作者: 黒武者 因幡
第4章 駒姫無惨編

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秀次の側室 於竹の方様

家康の屋敷に挨拶に伺ったところで、秀綱たちは思わぬ人物と会うことになります

 秀綱たちは、京に到着した。6月頭であった。

 

 義光は、変わらずに不機嫌であったため、諸大名への挨拶には行けないと秀綱たちは判断した。そのため、義光は伏見の館に、疲れをとるためにと称して留まってもらった。諸大名への挨拶は、秀綱と光安が名代として出向くことになった。


 最初は、徳川家康の屋敷に向かった。秀綱は徳川家家臣にも顔を知られている。そのため、徳川家では歓迎され、家康と面談の場が設けられた。


「遠路、大儀であったな」

 家康は鷹揚に言った。既に夏である。家康は、先ほどまで別の間で色々と家臣に指図していたようであった。その後、急ぎ向かってくれたようだ。うっすらと汗がにじんでいた。


内府様(ないふさま)(家康のこと)におかれましては、面談の機会を賜り恐悦至極(きょうえつしごく)に」

 秀綱がここまで言ったら、家康が遮った。


「挨拶無用じゃ。それよりも、義光殿がよくこの婚姻を認めたな」

「いえ、未だに認めてはおりませぬ」

 秀綱の返答に家康は苦笑した。


「それで、貴殿たちがその尻ぬぐいか。ご苦労であるな」

「ははっ」

 秀綱と光安は、恐縮して頭を下げた。


「だがな、儂は此度の婚姻は悪くないものと思うておるぞ。ま、正室で輿入れさせたかった義光殿にとっては、不本意であったであうがの」

「確かにお人柄は悪くはないと感じておりますが」」

「で、あろう。豊臣家は係累が少ない。太閤殿下(秀吉のこと)はお子が少ないゆえの。その点で、関白殿下(秀次のこと)は、しきりに係累を増やし、味方を増やしたいと懸命なのじゃ」」

「そこに最上が加わるのに、いささか抵抗もござりますが」

 光安が脇から口を挟んだ。最上家には、未だに庄内地方を巡って、上杉家に有利な裁定を下した秀吉に対しての()()()が存在する。


「さもあろうな」

 家康は、白湯をすすった。秀綱と光安も、同じく口にした。


「だが、関白殿下は意外と、というと語弊があるゆえ、ここだけの話ではあるが、賢いお方だ」

 家康は、秀次には好意的なようであった。


「それはいかなるところにございましょうか」

 秀綱が尋ねた。


「それは、儂よりもこのお方にお聞きした方がよかろう」

 家康が手を叩いた。それが合図になって、書院に一人の女性が入ってきた。着物は煌びやかであった。そして、美形であった。だが、清楚ではなく逞しさの漂う美しさであった。


――なんだろう、いくつかの修羅場を潜ってきたようなお方じゃな――

 秀綱は、脇の光安を見た。光安も、同様の感想を抱いたようであった。


「お初お目にかかります。私は、関白殿下の側室の於竹(おたけ)と申します」

 秀綱と光安は平伏した。


「あれ、そんなに畏まらないでくださいませ。もともとは、卑しい出自です。そんな対応にはまだ慣れておりませぬ」

 於竹の方(おたけのかた)は、笑った。清楚ではなく、むしろ武将のそれに近い笑いであった、


 於竹の方は、もとは一条通にいた捨て子であった。だが、そのままでは生き残れない。寄る辺のない捨て子たちは、徒党を組んで京で暮らしていた。盗みやたかり、さらには春をひさぐ者もいた。於竹の方は、その捨て子たちの頭領格であった。於竹の方の集団は、京の治安の悪化の象徴であった。


 その於竹の方の許をある日二人の家臣を連れた秀次が訪れた。なぜ斯様な悪事を行うかを尋ねたら、於竹の方は生きるためにやっていると応えた。どうすれば辞めるのかと尋ねたら、親を亡くした子らが生きていけるようになれば辞めると応えた。

「まあ、お侍様が私をお嫁にでもして、この連中の面倒も見てくれると言うなら、すぐにでも悪事を止めて差し上げますよ」


「左様か、ならば儂の許に参れ」

 秀次はそう言って、於竹の方を側室にすると言った。そして、於竹の方の許にいた捨て子たちを、みな収容し、学問や武芸、商売などそれぞれの好みに合わせて教育したというのだった。


「我が殿は、『捨て子の気持ちを儂はわからぬ。ならば、その気持ちをお主が儂に教えてくれ。さすれば、儂はそのような者たちを助ける手段を講じることはできよう。そのために儂を支えてくれぬか」と仰いました。義光様は、秀次様をあまりお好きではないと聞いておりますゆえ、この話を伝えたかったのでございます」

 於竹の方は、にこりとした。


「この話をしたくて、不躾ながら内府様に無理を申し上げて、お二人に面会を願ったのです」

「惧れながら、私ではなく、秀綱にではございましょう」

 光安が話すと、於竹の方はあっさりと認めた。


「さすが出羽の今孔明と言われるお方ですね。左様です。私は、秀綱様に会うことを目的としておりました」

 今孔明と称えられた光安の表情は微妙であった。だが、それに構わず、秀綱は於竹の方に話しかけた。

「駒姫様から、於竹の方様のことは伺っておりました。お目にかかれて、嬉しく存じます」

 於竹の方は、嬉しそうであった。


「左様かでしたか。私も、出羽で身寄りのない子を引き取って教育する武将と殿よりお聞きしておりました。それに、駒姫様も太守の娘と思えぬ領民に優しいお方だと。城下の建築現場で、大工たちに炊き出しをしたりと。殿は、そこが素晴らしかったと申しておりました」

 

 於竹の方は嬉しそうであった。


「駒姫様が、私のような者と同格になるのを嫌うかも知れませぬ。ですが、せめて私の人となりを少しでも知っていただきたかったのです。私の如き者が殿に嫁ぐ際の支障になっていてはいけないと思うておりましたゆえ。駒姫様はお嫌かも知れませんが、我らは輿入れを歓迎しておりまする」

 於竹の方は、ここまで言って口を噤んだ。この思いを伝えるために、於竹の方なりに最善を尽くそうとしたのだろう。


――好感の持てる、ひたむきなお方なのだろうな――

 秀綱は、ほほ笑んで於竹の方を見つめた。


「お方様、関白殿下にお伝えくだされ。殿下のおられる聚楽第にお伺いいたしますると」

 秀綱の言葉を脇で聞いていた光安も、頷いた。いい機会であると感じ取ってくれたのだろう。


 於竹の方は礼を言って、下がった。


「確かに良い機会であろうな。取次役の儂からも、五奉行たちに面会の旨を伝えておこう」

 家康も口添えをしてくれるならば、早いうちに秀次に面会できそうだ。


 家康の邸宅から帰る途中に秀綱は光安に語った。

「避けられぬ婚姻ならば、せめて駒姫様の最良の場所になるように尽力したいものだな」

「だが、この面談の件、殿には伝えるのか」

 光安は、嫌げな顔をした。

「まあ、日程が決まってからでいいだろう。このまま伝えたら、勝手に於竹の方様にお会いしたことが怒りを買ってしまいそうだからな」

 

 秀綱も光安も心底億劫に感じながら、伏見に戻っていった。


次回は、秀次と面会します。そこで、秀次の天下への思いを秀綱は聞きます。

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