表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太史慈転生伝~最上義光を放っておけないので家臣になって手助けしちゃいました~  作者: 黒武者 因幡
第3章 湯沢城攻略編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/86

湯沢城の最期の朝

宴から明けて翌日

湯沢城最期の戦いが始まります。

 明朝は、小雨が降っていた。

 湯沢城からは、早朝から炊き出しの水煙が高く上がっていた。もはや城側の備蓄を考える必要はないということなのだ、と秀綱は感じた。


――今日で、最期を迎える気だな――

 秀綱は、立ち上がる水煙を見つめていた。翻って、味方も見た。一兵までもが、真剣な顔で水煙を見あげている。やがてくる戦いの緊張感を感じているのだろう。秀綱は、胸を撫でおろした。


 最上軍にも、朝の食事が出された。湯漬けである。少し強めの塩味が効いていた。黙ってみな、口をつけていた。


「そのまま、食べながらでとよいから聞け」

 秀綱は、前置きを挟んで話し出した。


「今日、この湯沢城最期の戦いとなる! 相手は、どのような不利な状況となろうとも、己を貫いた一騎当千の(つわもの)である。多勢を頼みにするな! 最高の敵を全力で討つをもって、相手への敬意を示せ! よいか!」

「応! 応!」

 それぞれの兵が上げた鬨が、波となって秀綱に返ってきた。


「奪う命に敬意を示せ!」

 綱元の声であった。秀綱が声のする方に顔を向けた。

――脇にいる勘兵衛に向けてものであろうな うむ、覚悟を決めた顔をしておる――

 秀綱は、勘兵衛の固い決意の表情を見て、安堵した。


「奪う命に敬意を示せ!」「奪う命に敬意を示せ!」「奪う命に敬意を示せ!」

 将兵が相和す声が、うねりとなった。士気が高まっている。


 湯沢城から乱れ太鼓が討たれた。本丸の木戸が、ゆっくりと開けられた。

 中から、一人一人、歩みだしてきた。

 足軽甲冑を着けた兵士の後から、当世具足を身に着けた将が、3名。そして、太鼓を担いだ兵2人に太鼓の打ち手1名。最後に、真紅の具足に倶利伽羅剣の前立兜の孫作が出てきた。中央に、一人の将が出てきて、床几を用意した。


 ――おそらく、あの者が弾正と呼ばれた昨日の男だな――

 勘兵衛は、そう思った。動きに無駄がなく、かなりの手練れだとわかった。


「最上の、いや、鮭延殿には、昨日の差し入れの礼を申し上げたく、一同ここまで出て参った。最期の酒宴をおかげで楽しく行えた。感謝申し上げる」

 床几に腰を下ろした、孫作が口上を述べた。ドンと太鼓が鳴った。湯沢城全将兵が、頭を下げた。


「さらに、先ほどはこの敗軍に向かって、最高の敵と申してくれたこと、湯沢城主として、大変嬉しく思う」

 ドンと太鼓が鳴った。湯沢城兵が、再び頭を下げた。


「これに報いるべきものは、残念ながら我らにはない。されば、全力でもって戦い、その生きざまを貴殿らに刻むしか芸のない我らを許していただきとう存する」

 弾正が槍を持って、孫作の脇に歩んできた。孫作は槍を手に取った。


――いよいよ開戦か――

 秀綱も、采配を持つ手を強く握った。


 孫作は、石突きを地に突き立て、鮭延勢をじっくりと見まわした。

「さても、素晴らしき敵よな! さあ! 我ら八柏の兵の死出の道連れに、一兵でも多く付き合ってもらおうぞ!! 皆者のかかれい!!!」

 孫作の大音声で、再び乱れ太鼓が鳴り響いた。総攻撃の太鼓である。湯沢城の兵が一斉にかかってきた。


「迎え討て! 最上と戦ったは誇りと奴らに閻魔へ自慢させよ!!」

 秀綱の檄に、秀綱の兵も鬨を上げて、掛かっていった。背後で流れる乱れ太鼓が、互いの士気を鼓舞した。最初から全力の白兵戦が繰り広げられた。

 孫作は、戦が始まってすぐに床几に腰を掛けた。傍らには、弾正が控えている。


「殿、孫作殿は来ませんね。何か策があるのでしょうか」

 勘兵衛が、秀綱に尋ねた。

「そんなものはないだろう。おそらく、昨日の銃撃で右腕が死んだのかも知れんな。だから、序盤では戦わないと決めたんだろうな」

 勘兵衛の顔に影が差す。


「だが、それはお前との戦いのために温存しているからだろうな。さ、向こうから来ねえなら、こっちから行くしかあるまい。勘兵衛、綱元、突っ込むぞ」

 秀綱は槍を手にして、前に出ようとした。


「ダメです。殿に万一があっては、なりません。ここは、私が勘兵衛の道を作ります」

 綱元は、秀綱を引き留めた。


――綱元も、いい兄貴分になったな――

 秀綱は、他人からわからぬ程度に微笑みを浮かべた。


「よし、では白石綱元に命じる。勘兵衛を引き連れて、孫作への道を作れ」

「はっ! 我が手勢よ 10人ついて参れ!!」


 綱元は、古びた朱槍を手にしている。父と慕った白石八郎兵衛が使っていた槍だ。八郎兵衛の傍らで、常に八郎兵衛の生きざまを見つめてきた槍であった。

 綱元は、もとは大宝寺家の家臣の国人領主の息子だった。対立した大宝寺義氏が、父を滅ぼした後、幼かった綱元を殺せと八郎兵衛に命じた。しかし、八郎兵衛はできなかった。その命に背いて自身を救ってくれた恩人を父とした。この血の繋がっていない父子の傍らに常にあった朱槍である。

 心折れて、戦えなくなった八郎兵衛に代わって、綱元がこの朱槍を引き継いだのだ。どんなに奇麗な槍を与えようと言っても、綱元はかたくなに断り、傷んだ槍を補修して使い続けた。


――思えば、勘兵衛と孫作の関係を最も理解しているのが、綱元なのかも知れんな――

 秀綱は、孫作への道を切り開くべく、敵に突っ込んでいった綱元と勘兵衛を見やっていた。


◇◇◇

 湯沢城兵は、奮闘していた。しかし、やはり無勢である。善戦も及ばす、続々と討たれていった。

「米田武兵衛 おさらばでございます」

「市川新三 先に逝きまする」

「湯田佐兵衛 力及ばず無念!」


 兵たちの最期の挨拶に孫作はやはり一つ一つ頷いていた。

「奴らも先に逝って、三途の川の渡し船を準備しておりましょうな」

 弾正は、ポツリと言った。

「お主には苦労をかけたな」

 孫作もポツリと言った。

「本当です」

 弾正の頭を孫作が槍で叩いた。


「のう、お主は生き延びて、勘兵衛を助けてやってくれぬか」

「それは、先日より、きっぱりと、はっきりと、厳然とお断りしたはずです」

 弾正と孫作は、互いに笑い合った。


「頼む。お主は生き延びで、我らの話を伝えてくれぬか。お主にしか頼めぬ」

「それは、私に生き恥を晒せとむごい仰せなのですぞ」

「いや、我らの後から冥土に来て、たくさんの土産話を持ってこいということだ」

「ははは、物は言い様ですな」

 弾正は笑った。笑った後、怒った表情を孫作に向けた。

「殿は勝手だ。家中一の鬼山木と恐れられた私を、勝手に千寿丸様(せんじゅまるさま)の守役にするわ、千寿丸様が亡くなったら今度は自身の側近として、頭のはたかれ役にするわ」

 孫作は無言で聞いている。弾正は続けた。


「そして、今度は戦のあと、生きて勘兵衛様を助けよと。無茶ぶりにも程がありますぞ。それなら、殿が行えばいいものを!」

「私は八柏の者ゆえ、八柏の教えや名誉のため殉じねばなるまいに」

 孫作は、毅然として言った。弾正はため息をついた。


「花輪様のお供と護衛は、弟の山木堅之助(やまきけんのすけ)に頼みましたゆえ、安堵してくだされ。あれも、私に劣らぬ遣い手です。小野寺家に迫害されても、奴ならば逃がしてくれましょう」

「二人いたら、なお心強い」

「ダメです。全く、親ばかなんですから。自立してくだされ。花輪様は、ご立派で、安心できるお方ですから」

「当たり前だ。誰の娘だと思っている」

 孫作と弾正は笑いあった。


「殿は八柏の者として殉ずると仰せですが、私も小野寺孫作の忠臣として、わかりやすく死にたいのですよ。私も、閻魔の前でいろいろ説明するのは、嫌ですから」

「ははは、この馬鹿な主君には、お主のような馬鹿な家臣がお似合いなのかも知れんな」

「同じ馬鹿なら、一緒に逝かねば損というものです」

「主君のことを馬鹿というな」

 孫作は、弾正の頭を槍で小突いた。


「さて、叩き納めのようですな」

 弾正の言葉で、孫作も悟った。

 見ると、右翼から綱元と勘兵衛らが、防衛線を突破して、こちらに向かってきていた。


 孫作は、ゆっくりと床几を立った。

「槍とこの甲冑を、勘兵衛に引き継いでから参れよ」

「仰せのままに」

 弾正は、孫作の歩みから半歩退いて、ついていった。

 


 

 

次回は、小野寺孫作と鳥海勘兵衛の一騎打ち

そして、湯沢城落城に向けて、一気に動いていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ