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太史慈転生伝~最上義光を放っておけないので家臣になって手助けしちゃいました~  作者: 黒武者 因幡
第3章 湯沢城攻略編

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兄 孫七郎との別れ

湯沢城の小野寺兄弟 最期の時を描いています。

 秀綱たちは、湯沢城の大手門をくぐった。そこには、何体もの焼け焦げた死骸が積み上げられていた。火薬を引火させることで、爆発を発声させた。その衝撃と火炎を受けた先鋒の将兵はたまらなかっただろう。


 秀綱は、死骸を運び出し、近くの寺で荼毘にふせるようにした。式部に金子(きんす)を持たせて、頼みに行かせた。弔いを出す際には、敵味方を問わないようにさせた。これは、敵味方を問わず、死ねば皆仏という考えもあるが、疫病の発生を避ける実利的な面もある。


 三の丸占拠の手立てを進め、部下に指令を出し続けた。おおよその準備が整った折、秀綱はふと、湯沢城本丸を見上げた。


◇◇◇


「兄者、秀綱たちは策で討ち取ってはいかぬ者どもだ」

 孫作は、布団で背を向けている孫七郎に話しかけた。だが、返事はなかった。


「だが兄者の策で、裏切った連中を滅せることができた。むしろ、よかったと思っておる」

 孫作は、変わらずに孫七郎に話しかけている。孫七郎は引き続き無言であった。


「明日からは、私が兵を率いて、戦いまする。兄者は、早く城を落ちてくださりませ。秀綱は、病の重い兄者を討とうとは致しませぬゆえ」

「私が。そんなことを望んでいると思うているのか」

 荒い息で、孫七郎が応えた。


「兄者はいざ知らず、義姉様と姪の(さと)には、最期に兄者と静かに別れの時を過ごしていただきたく」

「無用なのだよ、その気遣いは。もう、無用なのだ」

 孫作は。その言葉で全てを察した。孫七郎の妻子は既に自害したのであった。


「されば、兄者。以後の戦いは、私にお任せあれ。策によって防げる段階は過ぎており申すゆえ」

「何を勝手な。私は、湯沢城の城主ぞ。我が首をもっていけば、最上軍も許してくれよう」

「何を兄者は勝手に。私が、そのようなことをしてでも、生き延びたいと思うてか」

「お主にそのつもりはなくても、お主の娘の花輪はどうなる。幼くして母を失い、父をあそこまで慕う娘になったのに。私など、どれほど娘に冷たくされたか。お主に私の気持ちはわかるまい」

「わかりませんな。花輪はできた娘でありますから。冷たくされたことなどありませなんだ。羨ましいでしょうな。これだけは兄者に自慢できる」

「全く、お主は」


 孫七郎と孫作は、互いに笑った。おそらく最期の兄弟喧嘩になるであろう。


「最上は、花輪を落としてくれたか」

 孫七郎は、弱弱しい声で尋ねた。孫作は頷いた。


「男装させたゆえ、多少は誤魔化しもきくでありましょう。ただ、あれだけの娘。あの美貌を持っている故、見破られましょう。されど、無事に通してくれ申した。大丈夫でしょう」

「自分の娘に美貌と言うか、親ばかだな。しかし、途中で危難に遭うのではないか」

「いや、最上はこの兵が、背後に回って伏兵に化けることを懼れまする。そのため、間者が監視をするでありましょう。併せて、小野寺の援軍が来るか否かも探るはず。ならば、横手までは監視がつく。それゆえ安全だと言えましょうな」

「なぜ言い切れる。途中で危難に遭わない保証はあるまい」

「間者の一人に見覚えがありまする。あれは、横手の遊郭に出入りする奴でございました。奴は、店で不要になった子供たちを秀綱の領地に連れていく者。秀綱は、そこの寺で育んでいるようでしてな」

「何じゃ、お主と同じようなことをしておるんだな」

 孫七郎は、軽く笑った。既に、笑い声を高らかにする体力もないのであろう。


「戦で没落した兵士の子弟。戦で逃散してきた農民の子供たち。ほうっておくわけにはいかなんだ。秀綱も同じ穴の貉だというだけの話でございます」 

「露悪的に言うな。恥じることでもあるまい。だからこそ、この落ちる運命の湯沢城に残ってくれたのだ。お主のために。いや、違ったな。お主と死ぬためにな。そして、落ちた兵たちは、娘の最高の護衛になるわけだな」

「ああ、むしろ小野寺からの護衛者でありますがな」

「違いない」


 湯沢城には、八柏家譜代の将兵だけでなく、孫作が保護して面倒を見た兵士も多数残っていた。その中でも、残る兵には家族のない者だけを選抜した。残りの兵は、犠牲を少なくするために、娘を守り抜いてほしいという命を授けて、500名の兵を孫作は落ち延びさせたのである。


 孫七郎 孫作兄弟の伯父 八柏道為は、最上に内通したという疑惑で誅殺されてしまった。その身内である花輪が、小野寺義道から迫害される恐れは十分にあった。その迫害から守ってくれる存在として、500の兵は十分に力を持っている。


「しかし、兄者、不思議じゃのう。我ら、誰と戦っておるのかのう」

「ふふふ、小野寺の家の報復に備えて、最上と戦う。私もよくわからん」

「賢い兄者にもわからぬなら、私にわからぬのも道理ですな」

 二人は、悲しい笑いを交わした。


「ただひとつ言えるのは、明日からはお主 小野寺孫作の戦になる。私の(くびき)は解ける。戦うも、降るもお主の胸一つ。いかようにしようとも、誰も責めはすまい。ただ、叶うならば……」

 孫七郎は、孫作の槍を見やった。

「その槍を振るう姿を、冥土からも引き続き眺めていたいものだ」

「兄者、その願い、半分は叶えられるやも知れんぞ」

 孫七郎は、何を意味するか興味深々の目で孫作の言葉を待った。


「私は、八柏の(めい)で死んだ者たちに胸を張って会いたいゆえ、最上には降らん。されど、この槍を託すに足る者は、秀綱の許におった。明日は、一丁もんでやろう。この槍に使い方を教えてやらねばならん」

「それほどの武者だったのかね」

「ああ。はっきり言って、腕はまだまだだ。だが、心根がよい。真っすぐな若武者だ。花輪もあんな武者の嫁になってくれればな、と私は思った」

「娘バカのお主は言うとは、なかなかだな。だが、花輪は横手に逃がしてしまったではないか」

「ああ、そこが惜しかった。秀綱の陣に逃がしてやればよかったと後悔しておる」

 孫作は、高笑いした。


「お主は大事な槍を託す相手が見つかってよかったな。私は、この書を誰かに託せようか。伯父上が記し、私も加筆した軍略書。小野寺には誰も受け継がせたくはない。活用できるとは思えんしな」

「兄者、それも、最上に託そう。志村光安がふさわしい。軽薄な物言いが難だが、最上きっての知恵者だ。その書の価値もわかるだろう。きっと、もらったら泣いて喜ぶに違いない」

「ははは、ならば託し甲斐もあろう。任せるぞ」

「ははっ。任されましたぞ」

 孫七郎は、深く息をついた。孫作は、静かに見つめていた。


「私は、幼い時よりお主が羨ましかった。体の弱い私よりも、武勇に優れたお前が家督を継ぐべきと思っていた」」

「私は、兄者が羨ましかった。どんなに学んでも、兄者の知恵には勝てなかった。兄者こそ、家督にふさわしいと思うておった」


 孫七郎と孫作は、夜通し語り合った。幼い時の思い出がほとんどだった。明け方、孫七郎が静かになった。孫作は、それを認めないように、語り続けた。ずっと、語り続けた。延々と語り続けた。


 やがて、孫作も認めざるをえなかった。孫七郎は、静かに逝った。孫作は、孫七郎の病床に積まれていた軍略書を束ねた。風呂敷に包んだ。全7巻あった。抱えやすい量だなと思った。



「櫓、焼け」

 孫作は、兵に命じた。孫作は、目に涙が滲んでいるのを自覚していた。それで、皆も察したのであろう。何も言わずに、櫓に火をつけてくれた。


◇◇◇


「湯沢城の櫓が燃えています」

 物見の報告で、軍議中の秀綱たちに知らせた。


 秀綱たちは、湯沢城本丸を見上げた。櫓はしばらくして、焼け落ちた。

「これは、計画的に焼いたようですね」

 光安は呟いた。内乱であれば、火は広がっていく。しかし、櫓だけ焼失し。他には広がっていない。


「何が起こったかわからんが、今の湯沢城に反旗を翻す者はいない。今日の戦に備えよう」

 秀綱は、そういって、前線の自軍に戻っていった。


――今日の戦は、一段と激しいものになりそうだ――

 根拠はなかった。だが、激戦になりそうな予感がしていた。



小野寺孫七郎が亡くなり、小野寺孫作の最後の戦いに舞台が移ります。

次回以降、激戦必至です。


ご期待ください。

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