軍議に出でよ
孫作に敬意を抱く勘兵衛に対して、秀綱は「ならば孫作を討て」と命じます。
それに賛同できない勘兵衛は、急遽、軍議に出るように秀綱から命じられました。
光安が絵解きする湯沢城の戦いの要諦
その意味を、勘兵衛は徐々に知っていきます。
秀綱は、孫作に同道して見送った勘兵衛の顔をみた。感慨深い思いを抱いた顔をしていた。
「孫作は、気持ちの良い奴だっただろう」
秀綱は努めて明るい声で勘兵衛に話しかけた。勘兵衛は、我に返った。そして、二人の間で交わした会話の内容を伝えた。
「左様か……。立場が違う……。奴らしいな」
秀綱も、しばらく黙っていた。
◇◇◇
勘兵衛は、秀綱も孫作に敬意や親しみを感じているのを悟った。秀綱も、勘兵衛からしたら名将だ。名将は名将を知る。その器を知る秀綱は、この戦いにどんな思いを抱いているのだろうか。
「殿は、孫作殿を討ちたくないのでは」
勘兵衛の率直な問いに、秀綱はしばし思考して頷いた。
「あの男の器を、高潔な生き方を知ったら、死なすのは惜しい。そう、心ある武士であれば、そう考えるのは当然だと思う。。それだけの奴だよ。小野寺孫作という武将は」
勘兵衛も、同感であった。秀綱の言葉に頷いた。
「はははは」
秀綱は、その勘兵衛の様子をみて笑った。
「よほど、孫作という武将に敬意を抱いたようだな。その気持ちわからなくはない」
秀綱は、勘兵衛に微笑みかけた。一歩、ぐいと近づいた。
「勘兵衛。摺上原の戦いの前、お主が赤田日向を討った。その時、お主に話したことを覚えているか」
勘兵衛は、その時を思い出した。内通の事情を知った勘兵衛は、内通者の赤田日向をなかなか討てなかった。その時、秀綱に諭された言葉があった。
「奪う命に、敬意を払え、でした」
秀綱は強く頷いた。
「一つ問う。勘兵衛、お主が孫作に強く敬意を抱いたことはわかった。だからこそ、お主は奴を討つ資格がある。そこで、問う」
秀綱は間を置いた。勘兵衛はいつも以上に秀綱の言葉を緊張して待った。内心は、聞きたくない気持ちでいっぱいであった。
「お主、孫作を討てるか」
低く圧のある声で、秀綱が尋ねてきた。
「討てる腕があるかはわかりませんが……」
「そんなことは問うてはいない。仮に、赤田日向のごとく、孫作が意識を失った時、ためらわずに首を刎ねられるか、と聞いておる」
――そんなことできるわけない――
勘兵衛は即答できなかった。
「できぬか。仕方ない。勘兵衛、明日お主は後塵に残れ。俺が、奴と対峙する」
勘兵衛は、驚いた。それでは、秀綱が先陣に加わってしまいかねない。
――明後日の戦いでは、先駆けをするなと、孫作殿は仰っていた――
「殿が先陣に加わるなど、危険でございます。他の者に変わるべきでは」
「そうかも知れぬが、仕方がない。俺が食い止めなければ、味方の犠牲が増える。俺の感傷など、味方の将兵の家族の死の前では何の価値もない。お前ができねば、俺がやるだけだ」
秀綱は、感情のない声で勘兵衛に話した。
――殿を危険にさらすことはできない――
勘兵衛は、孫作が別れ際に話した一言を秀綱に伝えた。
「なぜそれを早く伝えぬか!」
秀綱は勘兵衛を一喝した。だが、ややあって思い直したように冷静に話しかけてきた。
「そうか。お主らは経験がないから知らぬのだな、無理はない。勘兵衛、お主と綱元は、今晩の軍議に参加せよ。さすれば、俺の言ってる意味がわかるだろう」
そういって、秀綱は帷幄の中に入っていった。
晩まで勘兵衛は、言葉少なに過ごしていた。
勘兵衛は、日暮れてから帷幄の中に声をかけた。
「聞いてござる。お入りなされ」
涼しげな声が聞こえた。光安だ。
勘兵衛が、綱元と中に入ると、末座に床几が2脚、置かれていた。
秀綱が片手を軽く上げて、勘兵衛と綱元に挨拶をした。
ややあって、満茂が入ってきた。上座に座る。机に上には、湯沢城の地図が置かれている。
軍議は、光安が主導した。
最初は、孫作から要望が出された城兵500の避難の件だった。城の北側の包囲を緩めて、警戒をしつつ、将兵をそのまま横手に移すことに決まった。
城を出た将兵が、背後に回って伏兵と化すのを防ぐため、他の山道や街道を封鎖し、立ち入り禁止区間を設ける。そこにみだりに入る者が出た場合、その瞬間、退避する将兵を悉く撫で斬りにすることを相手に認めさせることに決まった。
ここまで来て、光安が勘兵衛に話を振った。
「さて、勘兵衛殿。湯沢城兵は、残り300.我らは6000。圧倒的に有利になった。では、どう攻めるべきだと考える」
――これは、俺を試す質問だろうか――
勘兵衛は、そう考えながら、光安の問いに答えた。
「はっ。既にこちらに降った西馬音内の兵などを先鋒にして、まずは三の丸を攻め落とし、城に足掛かりを作るべきだと思いまする」
勘兵衛の言葉に光安は頷いた。
「素晴らしい。それは、間違っていない。ただ、それは、城兵500を逃亡させなかった場合に取るべき策だ。秀綱殿は、ここで自身が先鋒に加わって、城を打って出てくるであろう孫作と対峙すべしだと主張しているんだ。これは、全て、この孫作の要望を受けての措置になる。わかりますか」
勘兵衛は、首を横に振って否定した。
「でしょう。まあ、ここで分かってしまわれたら、私の存在価値がないので、思った通りの反応に感謝しますよ」
光安は、軽く受けて本題に入った。
「この残った300は、ただの城兵ではありません。おそらく、死兵と化して、我らに最後の一兵まで戦いを挑んでくるでしょう。孫作の提案は、一見人道的なふるまいですが、内実は、最高級の策です。いや、最大級の外道の策と言えるかも知れません」
光安の言葉が、勘兵衛の脳裏に深い印象をつけた。
「死兵……、外道の策……」
勘兵衛の呟きを光安は頷いて肯定した。
次回も、光安が絵解きする湯沢城の戦い
小野寺孫作や孫三郎の企図する死兵の策とは
秀綱が、先鋒に入るべしと考える意味とは何か
秀綱は、何を懸念しているのか
絵解きされた湯沢城の戦いの意味を知った勘兵衛は、ついに孫作と対峙する決意を固めます。
次回もお楽しみに




