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太史慈転生伝~最上義光を放っておけないので家臣になって手助けしちゃいました~  作者: 黒武者 因幡
第3章 湯沢城攻略編

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武士の立場

湯沢城側の申し出は、城兵をさらに落ち延びさせることでした。


満茂たちは、承諾します。


一方で、勘兵衛は孫作に降伏をするよう願いますが、孫作は頑として受け入れません。

その理由に、勘兵衛は孫作に武士として敬意を抱きます。

 秀綱は、孫作を凝視していた。この男が、本陣に刺し違えにやってきた惧れもあった。姉川の合戦において、信長本陣に進んできた浅井方の名将 遠藤直経が、信長の暗殺を謀ったことがあった。

――そのようなことをしないとは思うが、追い詰められたらやりかねん――

 

 秀綱は警戒を続けた。


「ん、秀綱殿は私を刺客か何かとお考えか。ご案じ召さるな。左様な小細工は致さぬ。わっははは」

 孫作は、高らかに笑って、秀綱の意図を否定した。


「なぜならば、首を取るならばを戦場にて、と決めてござるゆえ」

 孫作は、笑いを納めて、満茂、光安、秀綱を見やった。その視線を後方に変え、勘兵衛にも向けてきた。


◇◇◇

 勘兵衛は、孫作の視線を直視した。

――目を背けてはならない――

 勘兵衛は、自身に言い聞かせた。得物をまっすぐに狙う猛禽類のような圧が、孫作の視線にはあった。その圧に抗うのがやっとであった。


「もし死にたくなければ、私には近づかないことだ、と忠告をしておくよ。若武者殿」

 孫作の視線が外された。先ほどまでの、優男に孫作は戻っていた。


「して、用向きは。若武者を脅して楽しむためでもありますまい」

 光安は、怜悧な言葉で孫作に問いかけた。互いに笑顔でつば競り合いをしているような緊張感が、三将と孫作の間に漂っているのを勘兵衛も感じた。


「何、目的はだた1つ。我が城兵は800がいてござるが、その内、500を逃してやりたい。彼らは、戦の経験はあれど、もともとはこの付近の百姓。谷柏の恩義を感じて駆けつけてくれたが、道連れにするは気が引けるのでな。本当はもっと減らしたかったが、説得を受け入れてくれたのが、これだけだった。彼らの身の安全の保障をしてほしい」

 孫作は、言い切って、深々と頭を下げた。


――それは良い話ではないか。敵味方の犠牲が減る――

 勘兵衛は、孫作の提案を秀綱たちが喜ぶものだと思っていた。


 しかし、違った。満茂、光安、秀綱は、孫作の申し出を聞いて、明らかに警戒の度が上がっている。無言の時が過ぎる。それは、きっと短時間のはずなのだが、勘兵衛には永い時のように感じられた。


「その者たちが、城を出る際の攻撃はしないと約束いたそう」

 沈黙を破ったのは、光安だった。


「真か。感謝いたす」

 孫作は、光安を満面の笑みで見つめた。


「できれば、そのまま残りの者たちには、開城してほしいと思っているが、それはいかがか。湯沢城の副将として、貴殿たちをとどめておくつもりだ。何なら」

 光安はなおも孫作に説得の声をかける。


「この秀綱を、湯沢城の城代にする。旧知のお主たちなら、守りも政もやりやすかろう」

 秀綱は、聞いてないぞというくらいの驚きの顔で光安を睨んでいる。


――もし、そうなったらこの方の傍でいろいろ学べる。それは、いいな――

 勘兵衛は、一瞬そう思った。しかし、そうはならないだろうとも思った。


「わははは。確かに秀綱と手を取り合っていけば、この城を守るかいと易きこと。されど、お断り申す」

 孫作は、拒否した。


「今まで、我らは谷柏の者として、敵にかかれと号して参った。それは、谷柏のために、小野寺のために死ねと言うたも同義。その我らが、最上に降ったならば、先に逝った将兵への言い訳が面倒臭いゆえ」

 孫作は、再び平伏した。


「委細承知した。城攻めは、明後日に行う。その間、横手方面の道を通る者たちは、素通りを許そう」

 満茂は重々しく孫作に告げた。

「ははっ、ご厚情痛み入る」

 孫作は礼を述べて、立ち上がった。


「勘兵衛、門前まで同道致せ」

 秀綱の言葉を受けて、勘兵衛は、少し高い声を上げて了承した。孫作は、微笑を勘兵衛に向けて立ち上がった。



「さすが、花も実もある最上の三将ですね。世が世なら、あのような方々とともに戦場をかけてみたかった。貴殿は、良い方に仕えてございますな」

 孫作は心から言っているように勘兵衛には感じられた。


「あの」

 勘兵衛は、思わず声を出してしまった。敵の、しかも覚悟が決まった武将に、こんなことをいうのは気が引けたが、声に出してしまうのを止められなかった。


「そう思っているなら、最上に降ればよいではないですか。我が殿も、かつては小野寺に仕えていながら、今は最上家で認められています。孫作様ほどのお方であれば」 

 孫作は手で、勘兵衛の言葉を制した。


「貴殿はまっすぐなお方だと思う。その気持ちで、秀綱殿に仕えなされ。奴は決して、味方を捨てぬ。弱き者を助ける義の心をもった武士だ。だが、立場が違う。それは理解してくれ」

「我らが殿を低くみられるのですか」

 勘兵衛は、孫作の言葉に反発をした。孫作は少し戸惑った表情を見せた。


「言葉を変えよう。武士とは立場が重要だ。秀綱は、国人領主である。自分の領土をもち、兵を持ち、領民をもつ。それを守らねばならぬ。小野寺は、それを守ることができなかった。だから、最上に降った。これは、誰にも非難されぬ。そこはわかるであろう」

 勘兵衛は頷いた。孫作は、微笑を浮かべて、続けた。


「だが、我ら谷柏の者は、小野寺と同じなのだ。小野寺家の隆盛を気づき、小野寺と同等の者であると内外に認められた。だから、国人たちよりも小野寺を守る、いうなれば、小野寺のために死ぬ義務がある。そういうことなのだ」

 

「高潔すぎる。そんな武士はほとんどいないではありませんか」

 勘兵衛の言葉に、孫作は頷いた。


「確かにな。だが、そういう者がいなかったら、小野寺がもし滅亡したら、小野寺には立派な武士がいなくて滅んだと後世指さされよう。我らは、それが死ぬよりも辛いのだ」

 孫作は、歩きながら空を見つめていた。


――人は死地に立った時に、その本性が出ると父が言っていた。私は、本当の武士の姿を目の当たりにしているのだろう――

 勘兵衛は胸が熱くなった。もし、自分が死に向かわねばならなくなった時に、同じような態度・覚悟で臨めるのだろうかと自問した。


「ははは、こんなことを話すつもりはなかったのだが」

 孫作は、爽やかで、涼し気であった。


「私も貴殿のような若武者を敵には回したくはない。だが、悲しいがこれは戦だ。明後日は、堂々と戦おうぞ」

 瞬時に孫作は、圧を感じさせる目に変わった。勘兵衛も、真っすぐに見据えた。孫作は、刹那勘兵衛の懐に入った。勘兵衛がそれまで誰にも受けたことのない、間合いへの素早い入り方であった。戦場であったら、この瞬間に首を斬られていてもおかしくはないと思った。


「ここだけの話だ、明後日の戦だけは、先駆けで城に入ってはならぬ。二陣以降に控えておれ。よいな」

 孫策は、小声で呟いた。その一言を残して、孫作は馬に乗り、湯沢城に戻っていった。


 勘兵衛は、その背中をしばし見つめていた。

 

 

湯沢城攻めが次回以降、本格的に開始されます。


知の孫三郎、武の孫作 二人が待ち構える湯沢城には、強烈な罠が仕掛けれていました。


最上軍に多大な犠牲が出る中、孫作が本陣を急襲します。

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