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太史慈転生伝~最上義光を放っておけないので家臣になって手助けしちゃいました~  作者: 黒武者 因幡
第2章 奥州仕置き編

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大喬の面影(秀綱ではなく、太史慈の思い出になります)

今回は、夢の中で、過去の太史慈の体験を秀綱が知っていく内容です。


今後、赤壁など秀綱が知らない事実を、太史慈が開示していきます。

その景色と無念を、秀綱が共有していく場面が増えていきます。


唐突に三国志の話が入ってきますが、ご了承ください。

 秀綱は、鮭延城に盛周を入れた。人払いをして、一晩語り明かした。

 久しぶりの再会で、酒が進んだ。盛周も酔いつぶれたので、寝所に運ばせた。

 秀綱は、書院に残っていたが、いつしか微睡んでいた。


◇◇◇

 漢の建安5年 200年 江東の一大勢力を築いた孫策が、刺客に襲われた傷がもとで死んだ。孫策の家臣は、みな涙にくれた。

 孫策は、後継に弟の孫権を指名し、家臣たちが孫権を盛り立てるよう願った。


 孫策の葬儀が一通り終わり、政権の移譲も比較的穏当に行われた。誰しもが、新しい孫家の船出に向けて歩み始めた。参謀には孫策の義弟にあたる周瑜が就き、強国になる下地ができた。


 孫策の夫人である大喬だいきょうも、悲しみを感じさせずに、新たな国づくりに向かう将兵たちを励ました。戦に前には、必ず武運を祈り、凱旋したら得意の琴で、将兵の帰還を祝った。戦勝の宴には必ず顔を出し、家族を失った将兵の家族に声をかけた。遺児がいれば、取り立てや縁談を世話するように口を利いた。

 孫家の家臣たちは、そんな大喬を誇りに思っていた。


 ある日、太史慈は大喬に呼ばれた。参内すると、庭園に酒肴が用意されていた。大喬の護衛は、遠巻きに警護するだけであった。

――周囲にあらぬ誤解を生じさせないためか――

 大喬の配慮を太史慈は感じた。太史慈は、大喬から進められるまま、盃を取り、酒を受けた。

 間近で見る大喬は、美しかった。絶世の美女ではない。だが、親しみを感じさせた。その親しみの中にも、品があった。貧者の脇に寄り添っても決して品を失わず、王者の脇に寄り添ってもその威厳に負けぬ強い品が感じられる。


「わが夫は、太史慈は他の家臣とは違う。わが友でもある者だ、と申されていました。その経緯を教えてくれませぬか」


 太史慈は、孫策と一騎打ちをしたこと。降伏をした後で、敗残兵を集めて孫策のもとに帰参したこと。帰順したばかりの自分を孫策が信じて待ってくれていたこと……

 太史慈は、孫策との思い出を語らった。その話に、大喬は笑い、泣き、喜んでくれた。日の高い頃に始まった会も、いつしか夕暮れに差し掛かっていた。


「太史慈よ、たまには私の知らないあの方のことを教えておくれ」

 大喬は、そう言って、寂しそうに笑った。太史慈は、椅子を立ち、大喬に膝まづいて、承諾した。


 その後も何度も太史慈は、招かれて、土産話や思い出話をした。

 思えば、孫権は人を上手く用いて、国を富ませ、呉国を建国した。その隆盛は、誇らしく思う一方で、孫策の時代の面影は、徐々に無くなっていった。そこに寂しさを感じていたのだろう。


 建安13年 208年 中原の覇者 曹操は、荊州を併呑した。荊州の太守 劉表の死後の混乱に乗じて、恭順派の劉琮りゅうそうを後継にして、抵抗派の劉備らを打ち破った曹操は、圧倒的な戦力差を背景に呉に恭順か戦かの決断を迫った。


 呉の諸将の間では、議論が割れた。降伏をして、孫家の命脈を保つべし、という意見が優勢であった。周瑜すらも恭順を覚悟した。宰相の魯粛は、一方で徹底抗戦を主張した。武官たちは、主戦派が優勢であった。その中で、太史慈は意見の表明を控えていた。


「太史慈よ、また語りたい」

 大喬からの招きが太史慈のところに届いた。太史慈は、通いなれた庭園に足を向けた。


「孫権殿は、どうしようと考えているのですか」

 酒を盃に注ぎながら、大喬は太史慈に尋ねた。

「はっ、おそらくは戦力差を考えて、降伏するのではないかと思われます」

 太史慈は思った通りを言った。


「左様ですか。曹操はそれほどまでに強大ですか」

「はい。水軍を加えて、公称で100万の大軍とうそぶいております。そこまでではないとしても、わが軍との兵力差は、数倍にもなりましょう」

 太史慈は盃を飲み干して、大喬に伝えた。沈黙が長く続いた。




「今朝、孫権から言われました。人質として、曹操の許に向かってもらわねばならぬかも知れぬと」

 大喬は、ポツリと言った、銅雀台を建てた曹操は、私と妹を側室にして、庭園を愛でたいとの詩を詠ったとか。そのため、私たちを人質にして、呉を助けるべしとの意見もあるようです」

 

 ドン!

 太史慈は、卓を叩いた。その衝撃で、卓が砕けた。護衛の兵士たちが駆けつけてきたほどだった。


「騒ぐな!」

 太史慈は、周囲を威圧した。


「亡き主君の夫人を生贄にして、安楽を図ろうとする輩がいるなど呉も落ちたものだ。そこまでして、主家を踏み台にして、わが家の富貴を求めるなどあってはならぬ。明日、御前で主戦論を申し述べまする」

 太史慈は涙を流した。


「大喬様、この太史慈、孫策様と大喬様が礎を築きしこの国を、そして、孫策様が大切にされた大喬様を守ることを誓いますぞ」

 こう言って、太史慈は大喬の前を去った。


 翌日、太史慈は主戦論を主張した。大喬様を差し出すのか、周瑜の妻は、大喬の妹の小喬であった。その妻を差し出して、周瑜はおめおめと生きていくのか。孫策から後事を託された周瑜は、それほどの能無しか。と、激した。


 武官たちは、太史慈を支持した。周瑜も開戦を覚悟した。斯くして、呉は曹操の降伏勧告を拒絶し、開戦に向かうことになった。



 だが、曹操への降伏を模索する動きは水面下で続いていた。内通を画策する文官や武官もいた。そうした内通者をめぐって、噂も頻繁に立った。実際に刃傷沙汰も発生していた。呉は、赤壁の戦いを前に、内部からの崩壊の危機に瀕していたのである。


 呉の内部が崩壊する可能性が高まってきた折に、衝撃的な事態が起きた。

 大喬が、自害をしたのである。

『自分のために呉が割れるのを見るのは忍びない。わが存在に囚われて、国の行く末を誤ってはならぬ。それゆえ、私がいなくなってから決断してほしい』

 遺書にはそのようなことが書かれていた。



「夫人を死においやってまで、己が生き残ることに誇りを持てるやつがいるのか」

 太史慈は、文字通り血涙を流して、諸将に開戦を主張した。

「ここまでされて、軍門に下るを主張するものは、この儂が斬って捨てる」

 孫権も強く宣言した。ここに至って、呉は打倒曹操に向けて、団結をしたのである。



 会議後、太史慈はかつて大喬と話した庭園を訪れた。

「孫策様、大喬様、申し訳ござらぬ。なぜ、この私が守りたいものは、わが手をすり抜けてこぼれてしまうのか」

 太史慈は、ぽつりと呟いた。頬には涙が伝わっていた。



◇◇◇


 秀綱はここで目覚めた。まるで、自身が体験したかのような光景であった。実際に、頬には涙が伝わっていた。

――なんだ、この夢は――

『知られざる赤壁の戦いの前夜の話だ』

 太史慈の声が秀綱の頭に響く。


――これがお前が抱いていた無念か――

 秀綱の思いを太史慈は肯定する。


『お主は、何者かを守るために戦いをする武将だ。だから、せめてもの俺の無念を今世でもいい。悔いのないように生きたいと願っていたら、こうなったのだ」


 秀綱は、太史慈が自身に転生した理由の一端を知った。


 ふと、大喬の面影が、駒姫に似ているように感じた。


――左様なことがあってはならぬ。駒姫を守らねばならぬ。そうだな、太史慈よ――


『頼むぞ。あの姫は……大喬様にあまりにも似ておる」

――言われずとも、守ってやる。あの姫は、最上家の者たちの宝であるからな――

 

 秀綱は、誓った。ただ、親バカの義光に駒姫に執心であると誤解を受けぬようにしなければならぬ。


――それが面倒くさいな―― 

 秀綱は内心でそこを煩わしいと思った。

『ははは』

 太史慈の小さい笑いが聞こえた。



次回は、奥羽最後の抵抗になる九戸政実の乱を描きます。

ただ、最上義光や秀綱たちは、あまり活動はしません。


この遠征で中央から豊臣政権の武将たちが、山形にやってきます。

そこで、ひと悶着が起こります。

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