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太史慈転生伝~最上義光を放っておけないので家臣になって手助けしちゃいました~  作者: 黒武者 因幡


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 秀綱の腕は痺れていた。だが、顔には希望がある。

 物見から帰った秀綱は、援軍が来ていることと最上義光と一騎打ちをしたことを守衛たちに話した。

「大将たるものがなんたる無茶を致したものか。それに、式部もなぜ止めなんだ」

 守衛は思いのほか厳しく叱責をしてきた。先代の貞綱の頃から、俺の守役もりやくでもあったのだから心配するのも道理ではある。だが、俺はもう子供じゃない。抗議したら、

「もし殿の御身に何かあったら、先代に顔向けができませぬ」とさらに叱責された。


「それで、最上義光は、どのような人物でしたか」

 一通り小言を言ったのち、守衛は聞いてきた。俺は思ったままを応えた。

「熊のごとき男であった。あの膂力は、はっきり言って化け物だった。今でも打ち合った腕が痺れているくらいだからな。しかし、もっと謀略をの好む知将だと思ったが、あれは違った。猪武者ともいえるくらいの猛将だった。本陣で落ち着いて采配を振るう姿は想像ができん」


「では、小野寺や大宝寺と同類ですかな」

 守衛の問いを俺は即座に否定した。

「いや違う。なぜだか、陰湿な感じはしなかった。純粋に戦を楽しんでいるような気がした。本当におかしな敵だった」

「ふふふ……」

 守衛は笑った。

「何かおかしいことを言ったか」

 ふと気づくと、周りの家臣たちもみな笑みを浮かべていた。


――何だ? 何がおかしいのだ?!――

「殿が小野寺に戻られてから初めて心から楽しんでいるようでしたから、皆安堵しておるのでござる」

 秀綱は顔に手をやった。いや、顔に手をやるまでもなかった。最上義光との一騎打ちを語る自分の胸の裡に熱いものを感じていたからだ。


――味方ではなく、敵に心を動かされるとは皮肉なものだな――

 しかし、その思いを吹っ切らねばならない。最上軍は明後日には総攻撃を加えてくる。受けて立っては、眼前の家臣や兵が皆殺しにされてしまう。


――包囲殲滅される前に、手薄な東より突破しなければならぬ――

 秀綱は笑みを封じて全将兵に告げた。

「明日未明に城を捨てて、湯沢城方面に逃走。援軍と合流して、城を奪還する」

 秀綱は力強く宣言した。将たちは首肯した。


 東の空が白み始めた。夜明けは近い。秀綱は、槍や薙刀などが朝日を浴びて光らないよう全将兵に低く持つように命じた。

 キイイとかすかな軋み音にも気を配って、静かに搦手を開けさせた。静かに、ひたすら静かに最上軍の東の陣に近づいていった。秀綱も馬のいななきも蹄の音も最小限に、敵陣の前まで迫っていった。


 敵陣の陣幕が、曙光の中、朧に確認できるまでになった。最上軍の兵たちは、総攻撃を明日に控えて、今は最低限の見張りも立てていないようだった。

――大軍という奢りか。されど、助かった――


 秀綱は『弓隊前へ』の合図を送った。弓兵50人ばかりが、静かに一列に並んだ。一斉射撃で敵の虚を突き、一気に駆け抜ける手筈だった。

――気づかれていない。よし、行ける!――


 秀綱は弓兵の中央に立ち、左右の腕を広げた。腕を前に押し出したら、作戦決行である。秀綱は右と左の兵に向けて頷いた。隣の兵が頷いたら、その隣の兵も頷く。そして、末端の兵まで伝わったら、その兵が片手を上げる。それで、全員に作戦開始が伝わったこととが秀綱もわかるという手順を決めていた。


 両端の兵の手が同時に上がった。息をするのも憚られるほどの緊迫感が場を支配している。兵が矢を番える音すらも轟音に聞こえた。

「放てえええ!」

 秀綱は、その静かな緊迫を破る号令を下した。空を切り裂く音を響かせ、多数の矢が飛んでいく。


「かかれえ!」

秀綱の次の号令で、400の兵が吶喊した。兵たちは腹から絞り出した勇気とともに、敵陣に飛び込んでいった。秀綱たちの突撃に、不意を突かれた最上軍が、押っ取り刀で迎え撃ってくる……はずだった。


――なぜ出てこぬ。静かすぎる。油断していたとしても、反撃に出てくるはず――

 だが、最上軍は出てこない。声すら聞こえない。いや、兵の姿すら見えない。秀綱は、一拍遅れてその意味を悟った。


「しまったあ!! 見抜かれておったぞ!!!」

 秀綱の無念の声と同時であった。周辺の山から激しい太鼓の連打が聞こえてきた。鐘の音も周囲の山並みに当たって響き渡る。鬨の声とともに、周囲から最上軍が秀綱たちに襲い掛かってきた。

――くっ!かくなる上は強行突破だ!―


 秀綱は当たるを幸いとばかりに槍を繰り出した。秀綱は水面を走る船のように最上兵の集団を割っていった。秀綱は敵陣深くに易々と斬りこんでいったが、気づくと周囲に味方の姿はなかった。

――皆、討たれるか降ったか――

 秀綱は失意の裡に馬の脚を緩めた。しかし、最上軍は秀綱に追いすがってきた。


「待て待てい。そこにいるは鮭延典膳殿だな。昨日は、我が殿と良い勝負をしておったな。だが、儂相手にはそうはいかんぞ。我こそは江口五兵衛光清えぐちごへえあききよなり。我が槍を受けられるか」

 光清を名乗る敵将の槍は鋭く秀綱の胸元を突いてきた。


――鋭いな!だが、凌げる!――

 秀綱と光清は数合打ち合った。そして、秀綱は光清の槍を力強く弾いた。手から槍を落とされた光清は、馬を返して、秀綱の前から走り去った。


――逃げるは今ぞ!――

 秀綱は槍をしっかと握り直した。そして、湯沢城に向けて、再び馬を走らせた。







 

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― 新着の感想 ―
 様子見のつもりでしたが、読み易さについここまで読んでしまいました。  アイデアだけでなく文章力にもまた感心。私にはそんな才能がないだけに羨ましいです。  現在読んでいるものが多いためここまでとさせて…
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