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太史慈転生伝~最上義光を放っておけないので家臣になって手助けしちゃいました~  作者: 黒武者 因幡
第1章 最上家の武将 鮭延秀綱編

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没落の家の悲哀②

赤田日向の妻の身売りの話を聞いて、嘉蔵が妻に話を聞きます。

戦死した家ではなく、裏切りの家に対しては、勝った側は情をかけません。

それを受けて、妻は生きるために身売りをしにきたようですが、嘉蔵はなんとか助けようとします

 秀綱は畑谷城に入った。城主の江口光清に、兵を借りた礼を述べた。


「なに、兵たちにはよい小遣い稼ぎになったようでよかった」

 光清は、戻った兵を称え、今日は家に戻るように指示した。


「あの忍びは、別行動をとったのか」

 光清は、秀綱に尋ねた。秀綱は、嘉蔵が会津に残ると申し出たことを話した。


「そうか。あの忍びは使える。大事にするんじゃぞ」

「いえ、大事にではなく、大切にしたいと思っています」

 秀綱は、ふと、嘉蔵のことを考えた。


◇◇◇


「夫が、伊達を裏切ったのは、私のためなんです」

 田鶴は、嘉蔵に夫のことを話し出した。


「夫は、もともとは小さな領地をもつ国人領主だったんです。でも、蘆名・伊達・相馬などの大きな家に

囲まれて、どこかに属さないと生きていけないので、夫は伊達を選んだんです」

「それは、生きるためだな」

 田鶴は、間をおいて頷いた。


「ただ、夫は伊達政宗様の戦ぶりに惚れたんだと思います。この方だったら、奥羽を席捲できると思い、伊達家に賭けると言って、伊達家に臣従しました。その後は、いくつも献策をしたりと、政宗様に目をかけてもらいました」

「それがなぜ、裏切りなんか」

「それは……、伊達家の平野織部が、私を……手籠めにしたからなのです」

 嘉蔵は、眉間に皺を寄せた。田鶴は、話難はなしにくそうにしていた。


「その平野ってやつは、最低だな」

 嘉蔵は憎々しげに呟いた。田鶴は、しばらくの沈黙ののちに、話を始めた。


「その当時の上役だった原田様に内々に相談したものの、もみ消されました。平野は、伊達家でも武勇で知られておりましたので……・原田様は、それを悪く思ってくれてたのでしょう。夫の才を買ってと言うことで、政宗様の側近に引き上げてくれたのですが……。それが、平野と顔を合わせる機会が増えてしまい……、もう耐えられぬと」

 田鶴は、ここまで言って泣き出した。


「お前さんも苦しかったんだろうなあ」

 嘉蔵は、同情した。


「で、その苦しみから逃れるために、伊達家を裏切ろうとしたというわけか」

「夫は、私の顔を見るたびに、平野への憎しみが沸き上がると。しかし、戦っても勝てない。ならば、伊達家ごと滅ぼしてしまえと」

 嘉蔵は、赤田日向の裏切りの真相を話してくれた。


「だからって、身を売るまで考えなくても」

「赤田家はもう取り潰しでしょう。仕方ありません。しかし、私は赤田の妻として、蘆名でも伊達でも生きていけません。それに、私はもとは夫の領地の家臣の娘でした。実家にも帰れません。でも、これで自害したら負けのような気もして。だから、生きてやるって。どんなに蔑まれても、生きてやるって」


 田鶴はそれ以上は涙で声にならなかった。おそらく、自分の中でも理由やその結果を考えられないんだろうなと嘉蔵は思った。

――でも、仕方がないだろう――

 嘉蔵も、幼い時に襲われ、女として生きることできなくなった。それ以来、男として生きている。田鶴の生きづらさはわかるような気がする。そして、田鶴は自身を責めている。それが、夫を追い詰めたと考えているんだろう。


――赤田日向は、この妻のことが好きだったんだろうな。だから、辛かった。苦しかった。その苦しみから逃れるため、妻も苦しさから逃れられるかも知れない裏切りに賭けたんだろうか――

 嘉蔵は考え込んだ。全てに共感できるわけではないが、救ってやりたいと思った。思ってしまった。


「まず一つ言う。あんたは遊女には、なれねえ。さっき言ったように、店で買われるには薹が立っている。店も金にならねえ女は置いとかねえからな。そうなったら、戦場戦場で、兵士たちを相手に春を売る女に身を落とすくらいしかねえ。しかし、それは戦場で骸を晒す終わりも覚悟しねえといけねえ。でも、そんな暮らしじゃお前さんは生きていけねえと思う。違うかい」

 田鶴は、黙っていた。嘉蔵は、なおも続ける。


「まあ、人間は慣れる。そんな暮らしでも、何かが壊れて、生きていけるだろう。ただ、お前さんが死んで冥土とやらに行って、旦那さんに会った時に、胸を張って会い行けるのか。旦那さんは、お前さんに会って悲しんでしまうんじゃねえのか」

 田鶴は、頷いた。やはり、こんな生き様はできないだろう。ひと時の感情や、混乱で、遊女なんていう生き方を選ぼうとしただけなんだろうと嘉蔵は思った。


――まあ、こんなご時勢だ。間違って身を落としていった女なんて何人も見てる。やがて、何も感じなくなっていくけどな。けれど、秀綱様がこの女を見たら、助けてやってくれというんだろうな――

 嘉蔵は、秀綱のことを考えた。この顛末を報告したら、悲しむだろうと思った。


――結局、私は、秀綱様のために動いているだけなのかも知れない――


「まず、お前さんに伝えておくことがある。赤田日向様を討ったのは、鮭延秀綱様だ。赤田様の内応を利用して伊達に勝利をもたらした。けど、それで恨むはお門違いだ。討つ討たれるは武士の習いだ。それはわかるな」

 田鶴は、キッと嘉蔵を見つめた。涙に溢れた瞳が、美しいとも嘉蔵は思った。


「だが、赤田様は秀綱様を信頼し、伊達を裏切る理由まで話してくれた。秀綱様は、赤田様を憐れんで、伊達成実様に伝えた。そうしたら、成実様は平野を戦の最中に討ってくれたんだ。伊達も鮭延も、赤田様の裏切りの理由に同情してくれたんだ。それは、わかるな」

 田鶴は眼を伏せた。涙が頬を伝ったのが見えた。


「そんなお前さんが、戦場に骸を遊女として晒したと知ったら、皆が悲しむだろう。そこで、お前さんが納得できればなんだが、秀綱様の領内に景円寺という寺がある。ここで、役に立たないという理由で捨てられた子供たちが、暮らしてる。住職は、もう槍を振るえなくなったかつての武士だ。その方はこう言っている。花は落ちても、また咲けるって」

「花は落ちても……、また咲ける」

 田鶴は、呟いた。


「他人は落ちぶれたら、もうそいつは終わりだって言う。けれど、そうじゃない。花が落ちても手入れをしっかりしたら、また咲くんだ。その再び咲いた花は、前の花よりも大きく、奇麗だっていうんだよ。どうだい、その変な住職のところで、しばらく過ごしてみな。冷静になったころに、身の振り方を考えてみてもいいだろう」

 田鶴は俯いたままだった。畳は、涙で濡れていた。


「秀綱様の許にいた若武者の白石綱元様も、かつては主家に謀反の罪で追討された国人領主の息子さんだったんだ。それを、秀綱様は保護して、家を継がせた。秀綱様だったら、赤田の家を再興させてくれるかも知れない。嫌かも知れないが、秀綱様に縋るのも一つの方法だ。どうだい」

 田鶴は、頷いた。目には、最初にあった絶望から希望を感じさせるものに変わっていた。


「亭主、世話になったな。この方を連れていくことにするよ」

 嘉蔵は、襖を開けて亭主に声をかけた。

 

 亭主は、女物の旅支度を準備してくれていた。



この田鶴、という存在ですが、この後、秀綱に、そして鳥海勘兵衛にとって重要な存在となります。


勘兵衛にとっては、特に重要な人物になっていきます(妻ではありませんが)


ちょっと頭の片隅に入れておいてもらえれば幸いです。

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