表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太史慈転生伝~最上義光を放っておけないので家臣になって手助けしちゃいました~  作者: 黒武者 因幡
第1章 最上家の武将 鮭延秀綱編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/62

没落の家の悲哀①

秀綱たちは、引き上げを始めました。しかし、嘉蔵は会津に残って、遊郭に顔を出します。

 秀綱は、兵たちに小袋を渡していた。政宗から、援軍への礼として、砂金が渡されていた。秀綱は、その砂金をほぼ等分して、兵たちに配ったのである。兵たちは、歓喜した。それは、忍の嘉蔵も例外ではなかった。

「これは、嘉蔵の分だ。受け取れ」

 秀綱は、小袋を嘉蔵に差し出した。

「風向きを知ることができたのも、お主が漁師を連れてきてくれたからじゃ。我らがよい働きができたのも、お主のお陰だ」

「勿体ないお言葉でございます」

 嘉蔵は恭しく受け取った。


「我らは、これより出羽に戻るが、嘉蔵はどうするのだ」

 秀綱の問いに、嘉蔵は空を見て考えた。


「そうですね。オラは、少し会津を見て行こうと思います」

「そうか、では、景綱殿にお主がしばし滞在する旨を伝えておこう。ただ、下手な動きはするな。誤解されて面倒になってはいかん」

「大丈夫っですよ。悪所に足を向けるだけですから」 

 この話を聞いた兵が羨んでいた。


「あっははは。権蔵どん、いいんですかい。女房に告げ口しちまうぞ」

「ぶるるる、やめてくれ。この戦で生き延びたのに、女房に殺されちまうよ」 

 このやりとりを聞いて、一同爆笑した。


◇◇◇


 嘉蔵は、会津黒川城下の遊郭に足を運んだ。無論、遊ぶためではない。戦で没落した家の娘や妻が、頼る寄る辺がない場合、遊女あそびめに身を落とす例が多かった。

 白拍子や踊り子のように、芸事ができれば、人気も出る。そうした教養を持った女性は、昼は芸を、夜は身を売って生計を立てていた。


――だけど、遊女に身を落とすのは惜しい人もいる――

 いかに人気を博していても、複数の男に身をゆだねる女は、若くして病に倒れる例も珍しくない。

――もしそんな身の振り方を望まない女子がいたら、景円寺に連れていきたい――

 景円寺は、秀綱の領内にある寺だ。白石綱元の養父 八郎兵衛が、住職をしている。そこでは、寺に子供たちを集めて、書や計算、さらには武芸まで教えている。最近では、八郎兵衛は、それを生きがいにしている。


 嘉蔵は、もともと遊郭の店で生まれた子供だった。その生活の苦しさを知っていた。そこから抜けて、生きるために忍びになった。その方がマシだと思ったからだった。

――蟷螂の斧だということはわかっているがな――

 嘉蔵は、自身がその苦しさから抜けられた疚しさを感じていた。だからこそ、一人でもマシな生き方ができるように手助けしたかった。



「もし、身を売りたく、参ったのでございますが」

 嘉蔵が、顔見知りの遊郭の店の主と話をしていた時であった。一人の婦人が、店を訪れた。


「嘉蔵さん、すまないね。ちょっと話を聞いてきますよ」

 主は、店棚に向かった。事情や金の話などをするのだろう。二人がやりとりしている内容が、漏れ聞こえてきた。嘉蔵は、興味を抱いて、陰から様子を伺った。


「夫がこの度の戦で死んでしまいまして、身寄りがございません。こうでもしないと生きていけないので、恥を忍んで参った次第です」

 穏やかな声であった。ただ、こんな店で働くことの意味をまだつかみ切れていないので、覚悟がまだ定まっていない感じであった。


「失礼を承知で聞きますが、ご主人は、どこの誰でしたか」

赤田日向あかだひゅうがと申しました。小さな国人領主でしたが、伊達家に組み込まれて、領地も少なく、満足に生きていくこともできません」

 女は、淡々と話している。


――赤田日向、だって!――

 赤田日向は、蘆名家に内通した伊達家の武士だった。秀綱に内通を見破られて、討たれた武士であった。


「それなら、伊達様が面倒をみてくれるだろうに、なんで、こんなところに……。あんた、訳ありだね。旦那さんが伊達家にいられないような不手際をしたんだろう、きっと」

 女は黙ったままだった。


「そんな女は、ここにはおいとけないよ。これから伊達様の町になるのに、いわくのある、しかも申し訳ないけど、少しとうが立った女は面倒な予感しかしないからね。さあさ、帰った帰った」

 女は黙ったままだった。ただ、悲しさと悔しさが混じった顔をしていた。


「亭主、盗み聞きの無礼は詫びるが、話をきいちまってな。少々、そちらの女性に興味がわいたよ」

 嘉蔵は、ゆっくりと店棚に姿を出した。亭主は驚いたようだったが、思いついたように嘉蔵を女に紹介した。


「そうだねえ、お前さんは丁度良かったよ。こちらは、一風変わった女衒ぜげんの嘉蔵さんだよ。遊郭で邪魔者の子供を引き取って、寺で修業させたり、武士として身を立てれるようにして下さる奇特なお方だ。どうだい、子供じゃねえけど、この人、引き取っては」

 亭主の話を聞いて、女は縋るような眼を嘉蔵に向けた。


「まず、名前を聞かせてもらいましょうか」

 女は、ハッとしたように嘉蔵に向き直った。


「申し遅れました。赤田日向の妻 田鶴たづと申します」

「失礼だが、年はいくつだ」

「24にございます」

 嘉蔵は頷いた。


「オイラは、そこの亭主が話したような男だが、オイラが連れて行くのは最上領になる。お前さんにとっては、仇の地だとも言える。そこで面倒を起こされても困る。どうだい」

 最上、と聞いて、田鶴が刹那、険しい目になった。しかし、ややあって諦めの表情に変わった。

「もし叶うならば、連れていってもらえますか。伊達よりはマシですので」

「オイラが聞いているのは、旦那様は伊達家を裏切って、討たれたとか」

「あの方は、伊達を裏切りたくて裏切ったのではございません」

 田鶴は幾分か声を荒げた。嘉蔵は、店の亭主に目配せした。多くの人に聞かせられる話ではなさそうだ。亭主も心得て、嘉蔵と田鶴を店の最奥の部屋に案内してくれた。


「改めて聞かせてくれ。伊達を裏切りたくて裏切るのでないというのは、どういうことだ?」

 田鶴は、今度は落ち着きを取り戻した様子であった。そして、淡々と話し始めた。

次回は、赤田日向の事情を田鶴が語ります。

少し、長くなりそうなので、2回に分けることにしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ