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太史慈転生伝~最上義光を放っておけないので家臣になって手助けしちゃいました~  作者: 黒武者 因幡
第1章 最上家の武将 鮭延秀綱編

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決着 摺上原の戦い 討たれる者たち

摺上原の戦いは、政宗の勝利に終わります。

今回は、敗れた蘆名側の視点で、敗走を描いていきます。

 秀綱は、采を振った。目指すは、蘆名義広本陣。狙うは、蘆名義広の首級だった。


 蘆名勢は、強風の風上から、いるはずのなかった鮭延秀綱の軍勢の突撃を受け、混乱に陥った。


◇◇◇

 蘆名義広は、信じられなかった。先ほどまで、優勢に戦を進めていたのに、瞬時に旗本が混乱に陥ってしまったのだ。紺糸嚇こんいとおどしの甲冑に、前立ては百足を飾った当世兜とうせいかぶとを被った義広は、この戦に蘆名家の興亡をかけていた。


 蘆名家は、南奥羽に覇を唱えた名門である。先々代の蘆名盛隆は、新発田重家の乱で上杉家に介入し、織田信長に認められた。しかし、家中の争いで、盛隆は暗殺されてしまった。そして、その後を継いだ亀王丸も病で亡くなった。


 その蘆名家の後継を巡って、伊達政宗の弟の小次郎を迎えようとする一派と、佐竹義重さたけよししげの次男の義広を迎えようとする一派が争い、佐竹派の家臣たちが勝って、義広を迎えたのである。


 しかし、佐竹家から派遣された家臣たちが、蘆名家の中で発言権を持ち始め、伊達派の家臣だけでなく義広たちを推した家臣たちからも反感を買ってしまった。そのため、蘆名家の内情は、家臣団に深刻な対立を生じていた。それが、この摺上原の戦いで露呈してしまった。


「どうして、どうして……」 

 義広は馬上で呟いた。一度は蹴散らしたはずの伊達成実、片倉景綱らの軍勢が、再び集結し、左右から蘆名勢を攻め始めていた。


「敗れましたな、殿」

 義広の重臣 金上盛備かながみもりはるが、義広に退却を進言した。


「いや、まだだ。斯くなる上は、政宗の本陣に突っ込んで」

 義広は、馬を率いて、伊達政宗本陣に攻め込もうとした。それを、盛備は制した。


「猪武者の如き振る舞いはお止めなされ。佐竹家の者が、無残にも亡骸を晒す場所ではありませぬぞ」


「しかし、しかし、私は蘆名の当主として、この地を守るべきもの。奪われておめおめと生きられぬ」

 義広は、涙ぐんでいた。


「殿が、佐竹の家の者でなく、蘆名家の者となろうとしていたのは、十分に承知してございます。我らが、団結できず、今日の事態を招いたことは、深く後悔してございます。されど、まだ、巻き返せまする。今は、ただ、黒川城に退却のご下知を」

 盛備は、蘆名家の執政として、義広を後継に迎えるべく尽力した。反対派も抑えて、義広を当主として迎えた。家中での実績や能力に佐竹家から派遣された重臣たちも一目置かざるを得なかった。


「盛備、これからも私を支えてくれるか」

 義広も盛備には信頼を置いていた。


「かの越前朝倉家の名将 朝倉宗滴公あさくらそうてきこうも、名将となるには、手痛い敗戦を経験しなければならないと残してござった。今日の敗戦を機に、殿は名将となられるはずでございます」

 義広は頷いた。


「退けい、退けい。黒川城まで戻るぞ」

 義広は決意をした目をしていた。


――この方なら、蘆名家を立ち直らせるに相違ない――

 盛備は、義広の後に従った。その背を見つめていた。


 不意に軍勢の足が止まった。背後には伊達勢の猛追が迫る。ぐずぐずしている暇はない。


「日橋川の橋が、落とされています!」

 報告が義広の許に走ってきて、状況を伝えた。寝返って猪苗代盛国が、決戦の最中に橋を落としていたのだ。多数の将兵が、日橋川に落ちて、流されたらしい。溺死者多数との報告も上がった。


「これでは、黒川城に帰れん」

 義広は動揺した。


「黒川城を捨てるしかありますまい」

 盛備は、常陸への退却を提案した。反発した義広を盛備は、再びたしなめた。


「黒川城あっての蘆名家ではありませぬ。蘆名家あっての、殿あっての黒川城だったのです。臥薪嘗胆の例もございます。今日の労苦を、屈辱も、生きていてこそ晴らすことができ申す。今はただ、安心できる常陸までお退きあれ」

「盛備は、いかがいたす」

「ご安心を。敵を食い止めてから、殿に追いつきまするゆえ」

「きっとだぞ。お主なくして蘆名の再興はありえん」


 義広は、後を盛備の託して、黒川城から反対の方向である佐竹領を目指して、敗走した。

 盛備は、蘆名家の家紋 丸に三つ引紋が見えなくなるまで見送っていた。


「さて、さて、ここが最後の見せ場ぞ」

 盛備は、敗軍をまとめた。


「佐竹から来た連中は、どうした?」

「義広様に従って、敗走している模様」

 佐瀬種常させたねつねが、忌々しそうに吐き出した。


「まあまあ、仕方あるまい」

「しかし、蘆名家は佐竹家から義広様を迎えてるべきではなかったのでは」

 種常は、悔しそうに話した。


「儂自身は、義広様を迎えてよかったと思っている。佐竹家の、というと反発もする者もいるが、あの方は蘆名家の者としてふるまおうと努力してくれた。ひょっとして、儂らの方に遠慮があったのかも知れんな。もっと蘆名の者として、もっと強く言っておけば、きっと耳を傾けてくれたであろうな」


 背後から伊達勢が迫ってきた。追撃をする方は、士気も高い。猫も虎になると評されるくらいである。


「さて、我が首でもあげれば、敵も追撃をやめる理由にはなろうか」

 盛備は、高笑いした。


「義広様との約束を違えることになるが、仕方あるまい」

 盛備は、義広が逃げて行った方向を見つめた。


「では、我らが死出の旅路の先駆けを仕る」

 佐瀬種常は、馬腹を蹴って、迫る伊達成実の軍勢に斬りこんでいった。後には、種常の16歳の息子が従った。

 ややあって、伊達勢の鬨の声が上がった。種常親子が討たれたのだろう。

 盛備は、馬に乗った。従う手勢は、わずかに50だった。


「あの旗印は、片倉小十郎に相違なし。敵に不足はない。この世に思い残しのないよう存分に戦えい!」

 盛備は、先頭に立って、景綱の軍に吶喊した。


「我こそは、蘆名の執権 金上盛備かながみもりはるなり!我が首取って、手柄とせよ!ただ、簡単にはくれてはやらんがな!!」

 盛備の進んだ方向に血しぶきがあがった。景綱の軍は、その勢いに圧された。


◇◇◇


「蘆名の宰相 金上盛備殿、討ち取ったり!!」

 喚声が摺上原に響いた。敵勢と奮闘していた秀綱にも、その声が響いた。


「追撃やめい!戦意のない者は手出し無用。向かってくる者のみ、討ち果たせ」

 秀綱の命令で、秀綱の軍勢は追撃を止めた。秀綱を中心に、周囲を監視して、守る体制に入った。


 義広が敗走し、重臣筆頭の金上盛備が討たれたことで、蘆名勢には戦う意思が完全に失われた。

 あとは、落ち武者狩りが行われるが、秀綱たちには興味がなかった。


「鮭延秀綱殿の手勢とお見受けいたす」

 伊達家の竹に雀紋の旗を背負った騎馬武者が、誰何した。


「いかにも、我ら鮭延の手の者でござる」

 佐藤式部が、応答した。


 騎馬武者は下馬して、式部に伝えた。

「我らこれより黒川城を接収に向かいまする。秀綱殿も黒川城に向っていただきたいとの、主人 政宗の伝言でございます。では、これにて失礼いたす」

 そうして慌ただし騎馬武者は去っていった。味方に黒川城に向かうよう、伝えた回るのだろう。


「よし、黒川城に向かうぞ」

 秀綱は、号令した。


 こうして南奥羽の覇権は、伊達政宗のものとなったのである。

次回は、伊達政宗と鮭延秀綱の面会です。

ここで、政宗から、秀綱への個人的な報酬が約束されます。

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