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太史慈転生伝~最上義光を放っておけないので家臣になって手助けしちゃいました~  作者: 黒武者 因幡
第1章 最上家の武将 鮭延秀綱編

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奪う命に敬意を払え

蘆名家に内応する二人と、秀綱たちは親交を深めていきます。その一人の、赤田日向から聞かされた身の上話に、勘兵衛は同情します。しかし、蘆名家の猪苗代盛国の内応が確実になります。蘆名家への情報を遮断すべき伊達家と秀綱たちは、蘆名家への内通者 赤田・宮園の二人を討つべき時になりました。

 秀綱は、連日、赤田日向と宮園阿波の二人と会っていた。その席には、佐藤式部や、白石綱元、鳥海勘兵衛も入ることが多かった。打合せ後、度々酒を酌み交わす機会もあった。


「これで、それがしも蘆名家での待遇がよくなるであろう」

 赤田日向は、機嫌がよく秀綱に語った。


「赤田殿は、評定に出るまで才を買われたのに、何故伊達家を裏切ったのでござろうか」

 秀綱が疑問を投げかけた。酒で頬を赤くしている赤田日向は声を潜めて言った。

「実は、赤田家はもともと、伊達家と戦い服従した国人でござった。負けたがゆえに領地を多く奪われ申した。だが、そんなことはどうでもよい。私は妻のために、伊達家を裏切るのでござる」

「妻のため?」

 秀綱は疑問を投げかけた。赤田日向は、さもありなんという表情で頷いた。


「我が妻は、私が言うのもなんですが、器量がよい女子にござる。お互いに好いた者同士で夫婦になり申した。されど、家が没落した中で、妻を奪わんとする者たちが、妻の実家に圧をかけ、私たちに離縁をさせようとしてござる。私は、妻を守るために、その圧をはねのける力を得るため、出世をしなければならないのでござる。蘆名家では、私を高禄で召し抱えてくれると申しておりまする。それに賭けたのでございます」

 妻の顔を思い出しているのだろうか、赤田日向はしみじみとした顔をしていた。


「細君の実家に圧をかけるは、伊達家の者でございますか」

 秀綱は、赤田日向に問うた。赤田日向は、頷いた。


「左様でしたか」

 秀綱は、赤田日向の空いた盃に酒を注いでやった。


「ですから、ここで鮭延様という名将に知己を得たのも縁でござる。蘆名家と最上家の誼を築き、私たちは末永く交流をしていきとうございますな」 

 秀綱も頷いた。その後も、四方山話をして、赤田と宮園の二人は、寝入ってしまった。


 嘉蔵が。そこに現れた。秀綱の視線に頷きを返した。

「勘づかれないため、遅効性の睡眠薬を使いましたが、時間がかかってしまいました」

 嘉蔵が詫びた。

「仕方あるまい。だが、聞きたくないことを聞いてしまったな」

 秀綱が、眉間に皺を寄せた。嘉蔵は、黙って頭を下げた。



「主人 成実より知らせでござる」

 伊達成実家臣の萱場元時かやばもとときが、寺にやってきた。佐藤式部には、ここに通すように伝えてあった。元時は、書状を秀綱に手渡した。

「明日、会津に進軍をするわけだな」

 秀綱は、元時に尋ねた。元時は頷いた。


「既に我らの祐筆が、赤田の筆を真似ることができ申す。これで、準備は整い申した」

 元時の言葉に、秀綱は頷いた。


「では、二人は用済みだな。よし、勘兵衛、お主は赤田を討て」

 秀綱の命に、傍にいた勘兵衛は顔を青ざめさせていた。


「おや、成実様しげざねさまと一番とった若武者殿の顔が悪いようですが」 

 元時は揶揄するような口調であった。


「いじめなさるな。この者は、未だ戦の経験がございませぬ。しかし、期待の者ゆえ、超えてもらわねばなりませぬ」

 元時も頷いた。元時は知らせとともに、二人の処断の見分も命じられているのだろう。


「殿、私には……赤田殿を討てませぬ。愛し合った二人を割こうとする者たちに対抗しようとしただけ。命だけは助けてやれませぬか」

 勘兵衛は懇願した。だが、秀綱は冷徹に首を振った。


「勘兵衛、お主は優しい。それは、素晴らしいことだ。この赤田などは、さしずめこの乱世でなくば、平凡ながら、良い夫、良い父で暮らせたやも知れぬ」 

 秀綱は勘兵衛を諭すように言った。勘兵衛も頷いている。


「それを力によって引きはがそうとするのは、褒められた態度ではない。その伊達家の者は、碌な奴ではない。それは俺も認める」

「これは手厳しい」

 傍らにいる元時は、恥じ入っている。

「左様でござる。成実殿に伝えて、調べてもらってくだされ。その傲慢が、内通者を生んだのだとな」

「はっ」

 元時は畏まった。


「さて、勘兵衛。この赤田は、ある面かわいそうな者である。それは、俺も認める。だが、それは、この赤田の弱点を示したことになる。今後、赤田は妻を質に取られたら、何を仕出かすかわからぬ危険な者だと、自分で白状したようなものだ。信をおいて、付き合うことはできぬ」

 勘兵衛も理解しているようである。秀綱は、その表情を確認して、話を進めた。


「それに、この時代、赤田の如き話は、残念ながら掃いて捨てるほどある。その事情に構ってやれる余裕は残念ながら、最上にも伊達にもない。それに、我ら武士には相手を討ちたくなくても討たねばならぬ場合もある。それは、わかってくれるな」 

 勘兵衛は、辛そうにしている。元網は、勘兵衛の兄貴分のような存在である。元網も、勘兵衛を労わるように見つめている。


「だが、勘兵衛。お主は、今回学んだであろう。我らが、敵の、仇のと申して討とうとする相手にも、相応の事情があることを。それでも、討たねばならぬ己に、俺は言い聞かせていることがある。それはな……」

 勘兵衛は顔を上げて、すがるような目を秀綱に向けてきた。秀綱はゆっくりと伝えた。

「奪う命に敬意を払え、だ」

「奪う命に……敬意を払え……」

 勘兵衛は秀綱の言葉を咀嚼した。


「そうだ。俺たちが討つ相手にも、事情がある。それは、俺らが討たれる場合も同様だ。相手は、俺らの事情など一顧だにせんだろう。だから、相手を討つ覚悟を決めた者は、同時に相手に討たれる覚悟も決めねばならぬ。そこで、俺はお前に問う。覚悟を決められるか、とな」

 秀綱は、自身の腰にあった刀を勘兵衛の前に突き出した。勘兵衛は、ひととき逡巡していた。


「やります」

 勘兵衛は、秀綱の刀を受け取った。その刀を抜いて、赤田日向の傍らに立った。刀を振り上げた。口で何かを呟いている。


「念仏でもなんでもよい。縋れるものがあるのなら、縋れ。今、お前は立派な武士として自立しようとしている。赤子が立とうとする時、傍らの何かにつかまるのは、当然だ。勘兵衛、俺はお前が優れた武士として自立できることを信じている」

 勘兵衛は、振り向かなかった。今、振り向いたら自立が遅れる。できなくなるかも知れぬ。そのままでよいと秀綱は勘兵衛の背中に無言で語り掛けていた。


「えいやっ!」

 勘兵衛は振り上げた刀を一閃した。赤田日向の首は、胴を離れた。鮮血が室内に飛んだ。

 元網が、もう一人の宮園の首を討った。そして、茫然としている勘兵衛の肩に手をかけて、囁いた。


「奪った命に敬意を払え」

 勘兵衛は、刀を置いて、赤田日向の遺骸の傍らに額づいた。慟哭していた。それは、厳しい世界に身を置く覚悟をした勘兵衛が、か弱い自分に決別する儀式のように秀綱には思えた。


「見事な初陣ですな」

 元時も、感じ入ったようであった。

「我が殿も、勘兵衛殿を気に入ったようでございますゆえ、今日の出来事をお伝えいたしまする」

 秀綱は、よしなにと元時に言った。元時は、急ぎ成実の許に戻っていった。


「勘兵衛、これもまた見事な初陣であったと俺は思う。今日の日を忘れるな。その刀は、お主にやる。大事に致せ」

 秀綱は、元網に後を任せて、別間に移った。嘉蔵も後から従った。


「嘉蔵、今から忙しくなる。済まぬが、猪苗代湖周辺の者たちから、この時期の風や風雨など気候の特徴を聞いておいてくれ」

「承知しました」

 嘉蔵もまた、急ぎ秀綱の許を出発した。


 猪苗代盛国の寝返りが、伊達家と蘆名家の均衡をにわかに破ったのだ。

 秀綱は、大戦の予感を感じていた。


 

勘兵衛には、乱世を生きる覚悟が、戦う武士の覚悟が芽生えました。

次回、蘆名義広との一大決戦、摺上原の戦いの幕が開きます。

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