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太史慈転生伝~最上義光を放っておけないので家臣になって手助けしちゃいました~  作者: 黒武者 因幡
第1章 最上家の武将 鮭延秀綱編

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政宗と秀綱の遺恨

秀綱は政宗と対面します。

しかし、この席で、秀綱は政宗に辱められます。

不満が、秀綱たちに高まっていきます。

 秀綱は、一人で米沢城の伊達政宗を訪問した。

 

 政宗は、片倉小十郎景綱を脇において、秀綱と会見した。


「此度、伊達家への援軍を仰せつかった鮭延典膳秀綱にございます」

 秀綱は恭しく挨拶をした。


「家康殿から話は聞いておる。叔父上とは今後、仲良うしたいゆえ、貴殿らの援軍を受け入れたわけじゃが、活躍は期待しておらぬ、ゆるりと蘆名攻めの見物などして過ごされよ」

 政宗の言葉に、脇の景綱が顔を曇らせた。


「これは異なことを承る。それがし、主君義光の命で、伊達殿を助けに参った者。斯様な想いで、わざわざ米沢まで参ったわけではござらぬ。願わくば、先鋒の一陣に加えていただきたい」

 秀綱は、政宗を詰めた。しかし、政宗はどこか退屈そうであった。


「これは、我が伊達の戦。最上の兵を当てにしておらぬし、領土を最上家に譲るつもりも余地もない。褒美も恩賞もやれぬゆえ、戦うなと申しただけのことよ」

「此度の援軍は、友誼のために参ったもの。もとより、恩賞など欲してのものではござらぬ」

 政宗の態度に秀綱は少し喧嘩腰になった。景綱の顔が、愁いを帯びてきた。


「それはたいそう気前の良いことよ。されば、叔父上のお言葉に甘えると致そう。前線に入って、奮闘をされるがよい。軍役については、おって小十郎から指図させよう」

 期待などしていない、という政宗の態度が明らかであった。


「さ、それよりも典膳の官職を名乗っておるからには、料理にうるさいのであろうな」

 典膳という官位は、宮中では天皇の食事を司る内膳司うちかしわでのつかさの次官の職である。もちろん武家官位なので、実態は伴わない。だが、政宗はそれを揶揄しているのであろう。秀綱に対するからかいであった。


「さて、その内膳殿に、遠路の感謝を込めて馳走を用意いたした。まずは、召し上がられよ」

 パンパンと手を叩いて、政宗は近習を呼んだ。近習に耳打ちして、政宗は秀綱に膳を運ばせた。膳には、前菜と吸い物が用意された。ついで、政宗と景綱にも同じものが出された。


「我ら伊達家は、食事を大事に至す。冷えた料理を出すなど、相手へのもてなしにはならぬ。それゆえ、出来立てを用意いたした。順々にお出しする。さ、まずは吸い物など召し上がってくだされ」

 政宗は、秀綱に手を付けるよう勧めた。客人が、手を付けなければ食事は進まない。


「では、早速いただきまする」

 秀綱は、吸い物を口にした。


「グッ…………」

 秀綱は小さく呻いた。吸い物が煮えたぎったような熱さだったのだ。そんなものを出されるとは思っていなかった。だが、これは確かめなかった方の落ち度である。秀綱は、口内を火傷したが、文句は言えなかった。

 政宗と景綱は、冷ましながら吸い物を口にした。その後、焼き物が運ばれてきた。しかし、口内を火傷した秀綱には食べるのが苦痛である。


「政宗殿、折角ではございますが、それがし行軍の疲れ故、食欲があまりございませぬ。これにて、失礼いたします」

 秀綱は、怒り心頭に発していた。しかし、荒立ててはならぬと考え、穏便に政宗の前を去ろうとした。


「左様か。それはいかぬ。貴殿は貴重な戦力故、大事になっては私も困る。養生いたせ。のちに、小十郎を見舞いに遣わそう。下がられよ」

「ははっ」

 

 秀綱は、政宗との面会の場を退出した。その背後から政宗の爆笑が聞こえてきた。景綱が諫めているようであった。秀綱は、静かに、怒りを滲ませて米沢城の廊下を歩いていた。


「鮭延様、ご案内いたします」

 先ほど、膳を運んできた近習が歩み寄ってきた。秀綱は、無言で不機嫌に頷いた。


「主人の政宗の悪戯の度が過ぎたようで。誠に申し訳ございませぬ」

 近習は深々と詫びた。


「お主に申しても詮無き事。されど、折角の遠路を駆けてきた武者にあのような仕打ちはなかろう」

 秀綱は、鬱憤を近習にぶつけた。その語気は、徐々に荒くなった。近習は、詫びながら聞くだけであった。ひとしきり、ぶちまけたあと、秀綱は近習に詫びた。近習は、畏まっていた。


「誰があんな奴のために、戦うか。最上家との友誼をここまで軽んずるとは、許せぬ。目にものみせてくれるわ、若造が」

 秀綱は去り際に、近習に向けて捨て台詞を吐いた。


 最上の名将 鮭延秀綱と伊達政宗との間に遺恨が生じた、という噂が、翌日に米沢領内に広まっていた。秀綱からことの次第を聞いた、最上軍将兵も、政宗への不信感を露わにしていた。


 翌日、とりなしのため重臣の片倉景綱が、秀綱のいる寺を訪れた。その折に、景綱軍の寄騎として働いてもらいたいということも伝えた。

「委細承知した」

 秀綱は応じたが、その後、景綱は秀綱の家臣らからの詰問に対応せざるを得なかった。特に、若武者の鳥海勘兵衛、秀綱を慕う白石綱元は、言葉を荒げて景綱に政宗の批判をした。景綱は、詫びるだけであった。


 この様子は、寺の外にも聞こえるほどのものであった。


 米沢では、粛々と蘆名攻めの準備が進んでいる。秀綱たちのもとにも、必要な物資が届けれらた。しかし、対応は勘兵衛が行った。秀綱は、疲労のため休養すると称して、伊達家の使いとは一切顔を合せなかった。


 騒動の数日後であった。秀綱の宿舎になっている寺に、同門の真言宗智山派の僧が修行の旅の途中に一宿を求めて訪れた。寺は、戦準備中だからと断ろうとした。


「斯様な折に、泊まれる場所などなかろう。それでは、あまりに僧に非礼。無作法な武者と同宿でよければ、泊まられよ」

 秀綱のとりなしで、寺の一隅で休めるようにした。


「感謝申し上げます。拙僧は、龍慶りゅうけいと申します。野宿も覚悟しましたが、これで安心して休めまする」

 そういって、深々と礼をした。


「せめてもの御礼に、皆さまの戦勝を祈願いたしとうございます」


 龍慶は、少し休んでから本堂を借りて護摩を焚き始めた。

 我らのために拝んでくれるならと、秀綱は、佐藤式部と鳥海勘兵衛、白石綱元らを従えて、龍慶の後ろに座って、手を合わせた。


 護摩の炎は高く上がった。本堂の不動明王像も、暗い本堂の中、炎で赤黒く浮かんでいた。

 

次回、蘆名義広から秀綱に調略の手が伸びます。

秀綱は、政宗に怒り心頭ですが、応じるか否か。

また、伊達家中では、最上家は蘆名家に内応するのではという噂も出始めます。


伊達家と最上家の間に不穏な空気が広がる中、蘆名との決戦に伊達政宗は繰り出していきます。

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