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太史慈転生伝~最上義光を放っておけないので家臣になって手助けしちゃいました~  作者: 黒武者 因幡
第1章 最上家の武将 鮭延秀綱編

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太史慈の声が聞こえる

家康から、対伊達家の政策を融和に転換するように要請があります


その会談の最中、ついに秀綱は転生体の太史慈の声が聞こえるようになります。


そして、最上家は伊達家への援軍として、秀綱を派遣することを決定します。


秀綱の周囲の状況が大きく変わることになります。

 秀綱は、徳川家からの使者に相対していた。義光の許に来た使者は、服部半蔵はっとりはんぞう正成まさなりと名乗った。

「徳川家の忍びを束ねる服部家の頭領が来たのだ。お主も顔を出せ」

 義光からの声掛けで、秀綱も面会の場に立ち合うことになった。光安も同様だったようだ。秀綱の右隣の席についた。久しいな、と小声で話しかけてきた。

 正成は、最上家の重臣たちが並ぶ中、挨拶の口上を簡潔に述べ、本題に入った。


「我が主君 家康が申すには、伊達政宗と協力関係を結ぶべし、とのことでございます」


 義光は、右眉をピクリと動かした。

 最上家と伊達家は、縁戚ではあるが、友好的とは言えない。かつては、伊達政宗の領土拡大路線で圧迫された大崎家の支援のため、政宗と戦ったことすらある。そのため、義光は政宗に対して警戒感を抱いていた。


「複雑な胸中は知っておりますが、これは主君 家康たっての願いでございます」

 正成は続けた。

「天下の趨勢は、関白殿下の手によって統一されるがほぼ確実でござる。そして、天下には惣無事が敷かれ、戦の時代は終わりを迎えましょう」

「その惣無事とやらも、関白殿下のご機嫌次第のようだがな」

 義光はにこりともせずに言った。正成を迎えた座も、冷え切っている。


「庄内の件、我らも承知してござる。これは、まったくもって不本意な結果になり申した。家康も抗議いたしましたが、関白殿下は大宝寺に戻すべしとの裁定を覆せず、無念でございました」

 正成は申し訳なさそうに頭を垂れた。

「いやいや、家康殿のご尽力には、この義光、心より感謝申し上げておる。そこは、間違えないでいただきたい」

 義光は、鷹揚に正成に家康への謝意を伝えた。その分、秀吉への不信感を露わにしている。

「ただし、その庄内の地になにやら手を加えて、上杉に渡した者がおるようで。我ら、内心では快哉を叫んでおりました」

 正成は、秀綱に視線を向けた。秀綱は、素知らぬ風を装った。ややあって、正成は再び義光に言葉をかけた。


「これは内密に話すのでございますが、関白殿下は近く関東の北条家の討伐にかかる所存。その後は、奥羽にかかるは必定にございます」

 義光は頷いた。既に、最上家は家康を通じて、秀吉に臣従する旨を伝えている。また、その答礼に秀綱が秀吉に面会している。しかし、甥の伊達政宗は、まだ秀吉に外交を行っていない。

――北条の後は、伊達だというわけだな――


 秀綱は、納得した。いざとなったら、伊達政宗との決戦に最上は臨むだろう。だが、義光の妹・義姫への感情を考えたら、義光は伊達家とは戦いたくはないだろう。


「奥羽への惣無事は、いまだに完全ではございませぬ」

 正成は、切り出した。

「そのため、伊達家が絡む戦は、関白殿下の威光をもっても制しできないものもございましょう。それを、我らは不安に思っておりまする」


『ははは、狸よのう』

 秀綱の頭の中に、別の者の声が響いた。秀綱は驚いた表情を浮かべた。それを見た周囲の重臣や義光は怪訝な顔をしている。

「おう、秀綱も気付いたようだな。左様、惣無事はいまだに徹底されていない。だが、強力なお触れでもある。それを政宗殿は、未だに理解しておらず、いよいよ会津の蘆名義広との決戦を覚悟したようだ。お主も嘉蔵から聞いていよう」

 光安は、含みのある目配せをしてきた。

――とりあえず肯定しろ、ということだな――

 秀綱は理解した。


「左様、会津の蘆名攻めの噂は聞いており申した」

 秀綱の言葉を聞いて、正成は頷いた。


「では、話が早い。蘆名義広は、常陸の佐竹家から養子にはいった者。それゆえ、佐竹家の一門の大名と見做されましょう。佐竹家と蘆名家合わせて、領土はおそらく150万石にはなるかと。しかも、佐竹家は、関白殿下への臣従をすませ、信頼厚い家でござる。このままでは、奥羽の束ねは、上杉家と佐竹家が行うことになりましょうな」


 正成の言葉には含みがある。


『ええい、回りくどいのう。さっさと言ってしまえ、秀綱。とは、いかぬわな。含みを持たせたままで、会話せねばならんのは、いつの時代も、国も変わらぬらしい。わっははは』


 懐かしいけれど、初めて聞いた声であった。

――どうやら、俺も気がふれてしまったのやも知れぬな――

 落ち着かない秀綱に光安が、今は取り繕うように小声で伝えた。

 そして、光安は素知らぬ風で、義光に言上した。


「殿、そんな蘆名家に大事があったら大変ですな。伊達殿を制しないといけません」

 光安はニヤリと笑った。義光も、意図を理解したようだ。

「確かにのう。政宗と蘆名家の間を取り持つことが大事じゃな。惣無事を敷くためには、のう。されど、あの政宗を制御能うか」

「難しゅうございましょうな」


『がははは 三文芝居のようなやりとりじゃな、秀綱よ。お主も、儂の声がいよいよ聞こえておるのだろう。察しの通り、儂は太史慈だ。お主の体に入って、しばらく過ごしていたが、そろそろ儂の声を聞かせてもよかろうと思ってな。先日、強力な相手とも出会ったことだしな。おっと、儂との会話は、儂が手を貸したいと思った時だけ聞こえるようになっている。言葉は、頭で思い浮かべよ。それで、儂にはわかる』


 太史慈の転生だと理解していたが、魂までの体に共存していると秀綱は思っていなかった。しかも、このような席で唐突に知らされるとは。

――だが、実際に聞こえてしまうのだ 仕方がない。では、聞く。こんな席で、俺に話しかけるようになったのは、なぜなのだ――

 秀綱の念話は、太史慈に伝わったようだった。

『何、お主が政宗と友誼を結んだ方がよいと思うたからよ』

――なぜ――

『その方が面白いだろうからな。わっはははは』

――そんな理由でか――


 秀綱は、太史慈に抗議した。


『何、冗談よ。だが、考えてもみよ。秀吉は、いわゆる魏の曹操のようなものだ。それに対抗するには、気に食わなくても劉備と結んだ呉のように,味方を育てねばならぬ。状況は異なるがな、伊達が滅んだら次は最上だ。だが、二家が結んだら、簡単には手が出せんだろう』

――まあ、確かにそうだが――


「秀綱よ、いかがした。気分が優れぬか」

 念話で眉間に皺でもよっていたのだろう。義光が心配そうに聞いてきた。

「お主には、上杉との交渉など無理をさせてきたからな。下がって休んでもよいぞ」

「いえ、大事ございませぬ。それよりも、惣無事に従えなくても、今のうちは仕方がないのではございますまいか。奥羽へは徹底されておらなんだこと、上杉家は証明しておりますゆえ」

 秀綱の言葉に皆が頷いた。


「もし、何かあっても家康から関白殿下にとりなしましょう。既に、最上義光殿を通じて伊達政宗への制御を願っている旨、関白殿下に伝えておりまする。跳ねっかえりを制御するは難しかろうが、頼むとの言葉をいただいてござる」

 正成は、この奥羽の伊達への働きかけは、家康の管理下におかれていると示した。最上家に危険は少ないと言えるだろう。


「ならば、誰かを政宗の許に派遣して、()()()()()()()()なりますまい」

 光安の言葉で衆議は決まった。派遣されるのは、秀吉からも、上杉からも一目おかれている秀綱に決まった。秀綱でもダメでした、と秀吉に言い訳できるように、との人選であった。


『これで面白くなろう。秀綱、蘆名家を滅ぼしてしまおう』

 太史慈の声が頭で木霊した。


 上杉と蘆名・佐竹に圧迫されたままでは、最上家も苦衷に陥る可能性が高い。蘆名家を伊達家の名目で追い出すことができれば、最上家にとっても有利になる。


――それに、悔しいが、楽しみで仕方がない――

 大敵相手の戦は、しばらく経験していない。伊達家の戦術も、どのようなものか知れれば、今後の参考になるだろう。

 

 急に聞こえてきた太史慈の声

 今後築かれるであろう伊達家との縁

 今まで以上の大軍が戦う大戦の予感


 周囲の状況が大きく変わっていく予兆を、秀綱は感じていた。


伊達家への援軍に、頼みの爺 鳥海兵衛は、年齢を理由に引退を決意します。

代わって、鳥海家の家督を勘兵衛が継ぎますが、これがなかなかの猪武者でした。


次回は、伊達家への援軍に秀綱が、不安なまま向かうことになります。

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