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太史慈転生伝~最上義光を放っておけないので家臣になって手助けしちゃいました~  作者: 黒武者 因幡
第1章 最上家の武将 鮭延秀綱編

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直江兼続の来訪

いよいよ、秀綱と兼続の間の舌戦 戦が始まります。

底意のある会話なので、解説的に捕捉を加えていこうと思います。


今後、最終盤には、秀綱と兼続は、干戈を交えますので、その前哨戦と位置づけてもらえれば幸いです。

 秀綱は、医師を呼んでもらうよう千坂清胤に依頼した。ここまで尽力してくれた嘉蔵が、熱を出したのだ。

 明日の会見を前に、帰路の船の手配など依頼した。その報告を受けた際に、顔色が悪いのを秀綱が気づいた。


「申し訳ありません。このような大事な折に……」

「気にするな。俺がいろいろ頼みすぎた。無理をさせすぎたのだ。謝るのは、こちらのほうだ」

 ふふふ、と嘉蔵がかすかに笑った。どうした、と秀綱が理由を尋ねると、


「改まった場では、某とか仰る殿が、オイラの前では、俺、と地を出してくれるのが嬉しくて」

「おい、俺に衆道の気はないから、熱の所為せいでも顔を赤らめたまま、そんなことを言うな。それよりも早く治せ」

 嘉蔵は、涙ぐんでいる。少し突き放した言い方だったかな、と秀綱は少し心を痛めた。


「申し訳ありません。これから厳しい交渉をする上杉家に借りをつくらせてしまって」

「何を気にしている。病人を交渉の材に使うなど義の上杉がするはずがないではないか。俺は、それを信じている。それにな、お前が無事でないと俺も困るからな」

「こんな役立たずなのに……、申し訳ありません」

 嘉蔵は、涙を流した。

「役に立つから、とかではない。大事だから、だ。お前が元気を取り戻せないと、俺も心配で気になって仕方がない。だから、医師を呼ぶんだ。俺のためでもあるから、気に病むな」

 嘉蔵は、布団を頭まで被った。軽く嗚咽おえつをもらしている。


「秀綱殿、医師が参りましたぞ」

 清胤のが、二人を室内に案内した。医師は初老で、数多の経験を持っているようだった。

「景勝殿も診察される医師でございます」

 清胤は、医師を紹介した。では、秀綱は、あとは医師に任せて、部屋を出た。清胤と、おつきの者も一緒に部屋を出たので、秀綱は怪訝に感じた。


「秀綱殿、斯様な姿で申し訳ない。私は、上杉家執政 直江兼続でござる。明日の会談を前に、密かにお会いいたしたく、推参した次第にござる」

――やはり、来たか――


 清胤を通じて、上杉家が想定していた争点をひっくり返したのだ。その修正を図るべく、事前の会談を設定するだろうと秀綱は予想していた。おそらく、出てくるのは、直江兼続。その兼続が、慌てて千坂邸にやってくる姿を民衆に見せて、最上家の強硬な姿勢を印象付けたかったのだ。

 そして、強硬な姿勢であった最上家が、何も得ることなく引き下がらざるを得なかった姿を印象づける。それは、秀吉との間で上杉家が想定した妥協点よりも低いところでの妥結である。

 この明らかな差があれば、民衆たちからの噂が生じる余地が生まれる。そこに、嘉蔵らがこちらの意図する噂を広めることで、庄内領民ひいては天下の民の間に、豊臣秀吉や上杉家の密約の疑いや悪評を生むのが、秀綱の狙いであった。


――しかし、医師に扮して参上するとはな。機転を利かせてきたということは、こちらの意図は見えているっていうことだな――


 人は想定した範囲のことは、問題なく対処できる。しかし、想定外の事態に直面した際に、その人間の能力の高低がわかる。その想定外を起こして、直江兼続の能力を図ろうと秀綱は思っていた。


――逐一、俺が起こした状況と兼続の対処を光安に伝えて、光安の兼続理解につながるだろう――

 

 清胤が別室に、秀綱と兼続を案内した。秀綱は、清胤の背を見つめながら、背後の兼続に意識を向けていた。


 清胤が案内したのは、茶室であった。中に入ると、広さは3畳ほどの狭さであった。清胤は、躙り口を開けると、秀綱に中に入るよう勧めた。続いて、医師の姿の兼続も入ってきた。


「清胤殿は、外で待ってもらっています」

 兼続は、涼やかな声で語りかけてきた。窯には、既に湯が沸いている。兼続は、用意してあった茶器で茶を点て始めた。秀綱は、無言でその姿を見つめていた。

 兼続は、点てた茶を秀綱の前に差し出した。

「この格好だからと言って、薬などは入っておりません」

 兼続は、ほほ笑んだ。

「もとより、その疑いなど抱いておりません。某は、上杉家の「義」を信じてござるゆえ」

 秀綱は、作法に従って飲み干した。


「さて、秀綱殿から思わぬ申し出に、我ら驚いてございます。庄内の奪還や割譲を申し出てくると構えておりましたが、まさか降将たちの今後の引き立てが望みとは」

 兼続は笑みを絶やさないが、腹を探ろうと秀綱の言動に最新の注意を向けている。秀綱は、茶碗の口をつけた部分を拭いて、兼続に返した。


「さて、申し出た以上のことは、こちらも望んでおりませぬ。ただ、当方も庄内の治世には心を砕いておりましたゆえ、民は我らを支持してくれておりました。願わくば、そのまま民のために政治を、上杉家においても行っていただきたい、それだけでござる」


「それはもとより、そのつもりでござる。されど、そのためにわざわざ命の危険も顧みず、春日山まで参る、そのわけをお聞きしたいものでござる」

 変わらぬ底意のある笑みを、兼続は秀綱に向けている。


「なに、単に抗議もせずに庄内の奪還を許したら、小賢しく我らの領地を掠め取ろうとする者がおりますゆえ。我らは、かの上杉家にすら納得できないことは譲らぬという姿勢を示したいだけのこと」

「なるほど、片目の御仁でございますな。彼の者は、関白殿下に従う姿勢を見せておらぬゆえ納得でございます」

 兼続の顔は変わらない。


――なるほど、一筋縄ではいかねえ奴だな――


「では、我らの願いを聞き届けてくださいますか」

 秀綱は、斬りこんだ。兼続は、表情を変えない。


「我らの願いは、大宝寺家の統治の時代に戻すこと。そこに、高梨家の遺児を戻してもらうことを求めていきたいのですが、いかがか?」

「それは、お断り申し上げる。かの遺児は、今は恩義ある白石家の家督を継いでおりまする。我らは、白石の家を潰したくはない。これは、かの遺児本人の願いでござる」

「関白殿下のご命令とあっても、でございますか」


 兼続は、豊臣秀吉との強い関係を背景に圧迫をしてきた。今後、天下は秀吉のものになる。それは、確かだろう。その秀吉が命令したら、いかに拒んでも拒み切れない。もし拒んだら、謀反の疑いをかけられる。それは、白石綱元を従えている、秀綱に、さらには最上義光に迷惑がかかることになる。

「斯様な場合には、拒めないでしょうな。その際には、今日嘉蔵を見て下さっている医師を再びご手配いただきたい」

「何故でございましょうか」

「最上家に残りたい気持ちと、関白殿下の自身への思いやりに板挟みになり、病なってしまいかねませぬゆえ」


 兼続はふふふ、と軽く笑った。


――ふん、食えねえ奴だ――

 秀綱は、兼続の態度を評価した。

 兼続は、豊臣秀吉と上杉家の強固な関係を打ち出している。庄内侵攻は、秀吉の承認があるものだと暗に示している。それに、こちらは抗うつもりはない。


――だが、こいつのことだ。こちらの狙いにいずれ気づくだろう――


「そういえば、不調法をいたしましたな。茶の前に甘い菓子を用意しておりました。さ、後先になってしまいましたが、召し上がってくだされ」

 兼続は、そういって、饅頭を差し出した。

「ほう、饅頭でございますな」

「ご安心くだされ。埋伏の毒など仕込んでおりませぬ」

 兼続は、ニヤリと笑って言った。


――ふっ、庄内の領有がいかなる意味をもつか、こいつも気づいていやがる――


「斯様なことを微塵も疑っておりませぬ。もしそうだったら、周りで見ている雀たちが何を囀るやら知れたものではございませぬしな」

 秀綱は笑いながら、饅頭を平らげた。


――こいつとの化かしあいは、長くなりそうだ――

 

 秀綱は、茶をもう一杯、所望した。兼続は、快く応じた。




次回も、舌戦続いていきます!

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