上陸 春日山
いよいよ秀綱が、春日山に到着。
上杉家重臣 千坂清胤の屋敷に逗留します。
そして、景勝との正式交渉の下交渉に入ります。
秀綱は、庄内港に着いた。ここから、商船を間借りして、春日山に向かう予定であった。
商船の手配は、満茂の下にいる忍びたちがしてくれた。池田盛周の許に逃げた高梨党が協力した。高梨党は、かつて港に近い地を領していた。その縁で、庄内の商人たちも協力的であった。
そこで、秀綱は民衆たちの噂話を聞いた。最上義光が、高梨家の忘れ形見の息子を匿っているので、彼を通じて大宝寺の領有を否定するだろうというものだった。
――順調に広まっているようだな――
秀綱は、庄内から三日で、直江津についた。この港は、直江かに着いた。ここから、商船を間借りして、春日山に向かう予定であった。
商船の手配は、満茂の下にいる忍びたちがしてくれた。池田盛周の許に逃げた高梨党が協力した。高梨党は、かつて港に近い地を領していた。その縁で、庄内の商人たちも協力的であった。
そこで、秀綱は民衆たちの噂話を聞いた。最上義光が、高梨家の忘れ形見の息子を匿っているので、彼を通じて大宝寺の領有を否定するだろうというものだった。
――順調に広まっているようだな――
秀綱は、庄内から三日で、直江津についた。この港を領していた武士が地名を名乗って直江家が生まれた。それが、今の兼続に受け継がれているわけである。いわば、直江家の直轄の領地であった。
――この重要な港を任されていることからも、兼続が上杉にとって欠くべからざる存在であることがわかるな――
青苧の重要な出荷港であるため、活気があった。商人や船の出入りが、秀綱が知っているどの港とも違った。さすがに京と直接取引をしている港だと秀綱は感心した。
「秀綱様、お待ちしておりました」
港の活気を見ていた秀綱の背後から、知っている声が聞こえた。嘉蔵であった。
「おう、嘉蔵か。諸々、手筈を整えてくれた礼を申すぞ」
「勿体なきお言葉。早速に、上杉家重臣に、手紙を渡しております。秀綱様が到着次第、面会が適う段取りになっております」
嘉蔵は淀みなく伝えてくれた。あとは、その重臣宅に行けばよいだけのようだった。
「で、誰の屋敷に行けばいいのだ?」
「兼続殿、と言えばよかったかも知れませんが、万一を考えて、千坂対馬守清胤様にお話を持って行っております」
千坂清胤は、謙信以来の重臣であり、景勝も一目おく存在である。兼続も無視できない存在であり、清胤を通じて景勝に申し出れば、秀綱の来訪を有耶無耶にできない。まずもって、最良の人選であろう。
「さすがだな。よい方を取次にしてくれた」
「お褒めにあずかり、嬉しいです」
嘉蔵は、心底嬉しそうであった。
――この者が、俺に従ってくれてどれだけ助かるか――
秀綱は道案内をする嘉蔵の背中を見つめた。
◇◇◇
秀綱は、千坂清胤を通じて、景勝に来訪を告げた。春日山でも噂が広がっているのを確認していたので、すぐに声がかかると秀綱は踏んでいた。案の定、清胤は、秀綱を屋敷内に通して、出歩きを禁じた。名目は身の安全を確保するためだったが、領内の視察を避けたいことは明白だった。
反応は早速来た。景勝は、清胤を通じて、明後日に春日山城で面会する旨を伝えてきた。
――早速来たな、早く帰らせたいか、それとも焦らせるかどちらかかと踏んでいたが、早く退散させたいようだな――
秀綱は、人知れずニヤリと笑った。どうやら、噂を否定する動きを示したいらしい。最上の動向がそれだけ気になっているのだろう。
「庭でも見ながら一献いかがか」
その晩、千坂清胤が酒を誘ってきた。秀綱は応じた。面会に向けて探りをいれたいというところだろうと秀綱は思った。
邸内からは春日山城を仰ぎ見れた。なるほど、壮大な山城である。ここに籠られたら、なかなかに落とせないだろう。清胤は、酒を飲みながら城の自慢と謙信公の最も有名な戦 川中島の戦いの武勇伝を語ってくれた。昔気質の老将であった。実直な性格が伝わってきた。秀綱は、この老将に好感を抱いた。
「義光殿は、今回の庄内の件はお怒りであろうな」
しばしの歓談の後、清胤は本題に斬りこんできた。会談前の落としどころを探りにきたのであろう。この話を受けて、景勝や兼続らが対応を協議するものと思われた。
「はい、とても。伊達との諍いの隙に、惣無事令に反して庄内の地を掠め取ったと怒り狂ってございます」
さもありなんと納得顔で清胤は頷いた。
「だが、あの地はもともとは大宝寺家の領地であった。それを最上家が奪い取ったのだ。我が上杉家は、かつての武田信玄に追われた信濃の国衆のために戦ったように、元の大宝寺家に戻すが最良と思った。ゆえに、義戦で戦ったのだ。それは、関白殿下も認めて下さっておる」
清胤は、丁寧に噛んで含めるように秀綱に伝えた。
――要するに、秀吉も認めているから、引き下がれというわけだな――
秀綱は、盃を飲み干した。清胤は、それを見て、注いでくれた。秀綱は礼を言って、一口つけて、盃を置いた。
――さて、どうこちらが出るのか、お楽しみということだろうな――
「某は、かつて大宝寺義氏に小姓として仕えておりおました。その大宝寺の治世は、褒められたものではございませなんだ」
秀綱の言葉に、清胤も頷いた。
「存じておる。悪屋形と称されるほどの戦好き。それゆえ、重税など確かに褒められたものではなかった」
「それゆえ、民を解放するために義光は領したまででござる」
「我らもそれを危惧したがゆえに、本庄繁長の子、義勝を大宝寺家に送り込み、立て直しを図ったのだ。それを待たずに、強引に領してきたのは最上家であろう」
清胤は踏み込んできた。大宝寺家は、秀吉によって、上杉家の与力大名に認められていた。それを追い払ったので、取返したというわけであった。惣無事令の前の話だ。そもそも、大宝寺は、家臣から見放され、最上義光の統治を望む国人たちによって迎えられた格好だった。
「それは、惣無事前の話。それに、正当性を申せば、我らには高梨の遺児がおり申す」
秀綱の言葉に清胤は頷いた。
「確かに、存じておる。それゆえ、我らは高梨の遺児に遺領を継がせてもよいと考えておる」
――それが、上杉にできる最大限の譲歩だというわけだな――
無難な線だと秀綱は思った。これで、四方を丸く収めるつもりだろう。
最上は、綱元を通じて、庄内に影響力を持てる。一方で、上杉はかつての大宝寺の統治に誤りを認めて、その遺児を復権させる。これで、「義」にかなう処置だと喧伝するだろう。
――だが、その手には乗らぬ――
敵中に綱元を置いておくわけにはいかぬ。世間の関心が薄れたころに「病死」扱いされても困る。それに、秀綱は綱元を手放したくない。それほど、義父の八郎兵衛を慕う立派な若武者に成長していたのだ。
「その儀は、お断りいたしたく存じます」
秀綱は、即座に断った。清胤も、やはりな、という感じて応じた。
「では、どうあっても我らに抗議をするということかな」
清胤の圧が強まった。
――ここが、切り出し時だな――
秀綱は、見計らって、要望を伝えた。
「某も噂で聞き申した。我らが、上杉家に抗議の使者を送ったとか。それでしたら、安心くだされ。我ら、庄内を返せとか、高梨の遺児を押し立てて領地を割譲せよなど、申すつもりもござらぬ」
秀綱はここまで言って、盃をあおった。清胤は驚いた顔をしている。
――よし、効果的だったようだな――
「では、なぜ貴殿は危険を承知で、この春日山まで参ったのか」
清胤の目つきが、言葉が全神経をこちらの発言に向けて構えられている。想定外のこちらの言動に、混乱をさせられているのを感じた。
「我らの願いは、ただ一つ。朝日山の池田讃岐守盛周を従前通りに、遇してほしい。庄内の我らの保護を受けた国人やその領民を、従前通りに遇してほしいということでござる」
清胤の動きが完全に止まった。秀綱は、手酌で盃に酒を注いだ。ややあって、清胤が不調法を詫びた。
千坂邸で、最上家の意向を伝えた秀綱。
その意向は、兼続や景勝に伝えられます。
想定外の申し出に、いかに応じるのか。
次回、秀綱と兼続の舌戦が開始されます。




