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太史慈転生伝~最上義光を放っておけないので家臣になって手助けしちゃいました~  作者: 黒武者 因幡
第1章 最上家の武将 鮭延秀綱編

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上杉家への使者 鮭延秀綱

庄内を奪い取られた最上義光は、怒っていた。

豊臣秀吉の惣無事令で不必要な戦はないと踏んでいたのに、それを破られた怒りを収められずにいた。

そこに秀綱が、上杉家への使者に向かうと発言した。

ただ、決して抗議ではないという。その狙いとは?


 秀綱の言葉に、最上義光は驚いた。

「此度の庄内侵攻は、関白殿下の惣無事令に反する行為でござる。ゆえに、それがしが単身、春日山に参って、抗議して参る所存にござる」


「お前は何を申しておるのだ?!」

 義光は、思わぬ言葉に動揺していた。

「単身で上杉に本拠地に乗り込んで、抗議すると申しているのです」


「そんなこと、わかっておるわ!」

 義光は、秀綱に怒声を上げた。脇にいる氏家守棟うじいえもりむねも驚いた顔をしていた。


 氏家守棟は、最上義光の父・義守以来に重臣である。義光と父・義守の対立では、陰で義光の正当な家督継承を支持して、重臣たちをまとめ、義守を説得した。それだけでなく、伊達輝宗が、最上家への介入を退けたばかりか、一転して輝宗と義姫の婚儀をまとめさせた外交の才も披露している。

 普段はにこやかな笑顔を湛えた、こじんまりとして老人の風情である。最上家の崇敬を受ける山寺の僧侶と対等に教義を話す守棟を見て、山寺の僧侶と勘違いする者もいるくらいであった。だが、その笑顔の裏で、最上家にとって最良の策を、場合によっては非情な策も、考える頭脳をもつ軍師である。

 

――そして、光安の師匠格の重臣でもあるわけだ――


「お主にそんな危険なことをさせられるか。斬られてしまうかも知れぬではないか」

 義光は、頑強に秀綱の言葉に反対した。


「のう、爺からも何かいってやってくれ」

 義光は、傍らの守棟を振り返った。守棟は、にこやかな笑顔に戻って、考えている。


「いや、案外悪い手ではないかも知れませんな」

 守棟は顎に右手をあて、言った。


「その策、光安の考えであろう」

――この爺さんをごまかせそうにないからな――

 秀綱は頷いた。


「いや、なかなかどうして、光安も面白いことを考える。儂に似てきましたな。はっはっは」

「爺、敵地に単身乗り込むのだぞ。しかも、秀綱は敵の庄内侵攻を朝日山までで食い止めさせた。いわば、憎い相手だ。殺されかねん」

 義光はなおも難色を示した。


「お主や、光安にも考えがあろう。申してみよ。殿を説得できなければ、どっちみち採用はされんからな」

 守棟は、一層深い笑顔を秀綱に向けた。


――爺さん、挑発してきやがったな。面白い、受けて立ってやる――

「そもそも、上杉家は謙信公以来の武門と義を旗頭にする家。それを誇りとしておりまする」

「それも、今回の惣無事令に反する行いで嘘だとわかったがな」

 庄内を油断して盗られた義光の怒りは深かった。座を思いきり崩して、声を荒げた。


「されど、それ以前に上杉家は商売に長けた家でございます」

 守棟は、興味深そうに瞳を光らせた。義光も、不意を突かれたようで、座り直した。


「そもそも、上杉家は、衣服に用いる青苧あおその生産で儲けてござる。それゆえ、軍費も十分で、義などと称して他国に介入する余裕がござる。これが、他国よりも義戦と呼ばれる戦が多かった理由でござろう」

「ふむう、そこに気づいたか。左様、上杉家は義の国の面の下には、確かな利の国の顔がある」

 守棟は、秀綱に感心の目を向けた。


「されば、此度の庄内侵攻も、単に利だけでなく、義の面を強調するはず。そこで、大宝寺の許に養子と

なっていた本庄繁長の息子の存在を前面に打ち立てましょう。最上に追われた大宝寺の領土を取り返すという名目で。それを、関白殿下に認めさせておりましょう。それゆえ」


「庄内を諦めねばならぬ、というわけか」

 義光は、歯がゆそうに言った。手にしている扇子が折れるのではないかと思えるくらいにしなっている。


「ええ、今は」

「今は……?!」

 義光は、扇子のしなりを元に戻した。含みのある秀綱の言葉の先を待っている。


「恐れながら、わが手には、かつて大宝寺義氏に理不尽にも親を殺された白石綱元がおりまする」


「おう、お主の城の近くにいる白石八郎兵衛が、連れて逃げた子であったな、確か元は……」

「高梨丹波の子にございます。命の恩人で子のいない白石家を潰したくないと、白石綱元と名乗る若武者になりました」


「そうであったな。確か、八郎兵衛は寺で民に文字や武芸なども教えているとか。綱元もお主の許で励んでおると聞いた」

「はい。頼もしき若武者でございます。彼の者を保護していることは、既に庄内では広がってございます。高梨は、領内の善政で知られた国人領主でございました。民たちが、いくつもの話を広め、一部では神格化すらされております」

「此度の上杉と同じ構図じゃな」

 義光は、にやりと笑った。絵が見えてきたようだ。守棟も頷きながら聞いている。


「図らずも、ですが。その話ですが、白石八郎兵衛がかつて修行した立石寺を通じて、叡山に伝わってござる。これは、最近、都にも広がっている様子」


「そういえば最近、嘉蔵が都に発ったように満茂から聞いていた。家康殿に関白殿下への抗議を伝えるためじゃと思うていたが」

 守棟は、秀綱や光安の手際の良さに感心したようだった。


「何が生きるかわかりませぬが、最上家の美談が都に伝わるのは悪い話ではございますまい。その我らの動向に注意している上杉家に、最上家から使者が行ったとなれば、多少世間では注目されましょう。そこで、最上の使者を殺しては、彼ら上杉の掲げる「義」など、所詮「偽」であったと世間は評しましょう」

「なるほど、それは確かにお主は殺せぬな。そこで、網元を使って、庄内の割譲を申し出るつもりか」

 義光は、先を読んでやったと言わんばかりであった。しかし、秀綱と光安は、そんなことは考えていなかった。


「いえ、我らが申し出るは、池田盛周を冷遇しないようにという申し出を行うだけでございます」

「はっ?」

 秀綱の言葉に、義光は言葉を失った。

――なぜ?という言葉が、いくつも浮かんでいるな――

 秀綱は、守棟に視線を向けた。頷いている。肯定的だと、秀綱は考えた。


「庄内の地は、商人の力の強いところ。それが、上杉家が庄内を欲した所以ゆえんでもあります。されど、民衆の評判を得ないと、統治は難しい地でございます。そして、民衆というのは、とかくわがままなところがございます」


「検地じゃな」

 守棟は呟いた。秀綱は、二つのマスを取り出した。


「この升をご覧ください。大きい方は、最上家の升でございます。一回り小さいほうは、京の升でございます。今後、関白殿下に臣従した地は、この京の升で、年貢を計算されます」


「それは、大きな増税になるではないか」

 義光の顔に陰りがさした。だが、秀吉の天下になると避けられない事態であった。


「はい。それは避けられませぬが、最初に打ち出した者に民衆の怒りは向けられましょう。一方で、我らは上杉家に、我らの時代と変わらぬ統治をと願い出ればよいでしょう」

 義光も絵が見えたようだ。機嫌が上向いてきたようで、軽い笑みが浮かんでいる。


「埋伏のまいふくのどく、か。考えたのは、光安じゃな」

 守棟は、笑みの奥で目を輝かせた。


――採用だな――

 秀綱も確信した。


「殿、この計は先に噂を流さねばなりませぬ。満茂殿に命じて、忍びを動員して、庄内と春日山、それに京に広めねばなりませんな。最上家が秀綱を派遣して、庄内侵攻の抗議を行うようだ、と」

 守棟の助言を義光はすんなり承認した。ただ、既に光安が動いているだろう。その辺は、任せることにしていた。

――なにせ、民衆の噂など無責任なものだからな――


「わかった。がっははははは。庄内の民衆を埋伏の毒とするわけだな」

 義光は機嫌を完全に直したようだ。そして、民衆たちから絶大な人気を得ている池田盛周の命の保証を求めることは、庄内の民衆の心をさらに掴めると義光も守棟も考えただろう。


――だが、それよりも、俺は会ってみたい。上杉の軍師であるという直江兼続っていう奴に――


◇◇◇


 義光にこの話を持ち掛けるために、数日前、秀綱は光安と話していた。


「いいか、秀綱。この話の真の目的は、直江兼続という男の器や才を見図らうことだ。おそらく、今後の最上家にとって最大の敵になるのが、上杉家だろう。そこの執政とされる男を知らねば、有効な手を打てない。これは、お主にしか頼めないことだ」


 光安は、義光を支えるという想いで共通している同士だ。光安は、かつての龐統の転生体である。不運にして才を発揮する前に死んでしまったがために、赤壁のような不利な戦いを、自分の策で勝つという軍師としての想いを抱いている。その最大の仮想敵が、上杉だと睨んだのだろう。


――その光安を助けるのは、俺が助けたいと思う義光様を助けることに繋がる――


 秀綱は快諾した。


◇◇◇


 秀綱は、使者として単身、上杉景勝のいる春日山城に向けて出発した。








単身、上杉家への使者として向かった秀綱。

待ち受けるのは、謙信の後継者・上杉景勝と若き執政・直江兼続

それに加えて、武門上杉家を支える重臣たち

彼らとの攻防を数回に渡って、お送りします。

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