秀綱にもらった武器 盛周の思い出
庄内侵攻を受けて、池田盛周は上杉に降ります。
心ならずです。秀綱を助けるため、戦をここで終わらせるための盛周の決断でした
秀綱は、朝日山城に戻る盛周の背を見送った。
「援軍の役目は果たした。城主の池田盛周は上杉への降伏を選択した。ここに留まる理由はなくなった」
秀綱は、手勢を全て引き上げさせた。
◇◇◇
盛周は、撤退する秀綱の軍勢を見ていた。
――引き際が見事だな。あの軍勢は強い――
一方で、盛周は自分の手勢を顧みた。百姓上がりや、木こりや猟師上がりの兵が大半だった。決して洗練された精鋭という姿ではなかった。
――だが、俺はこれでいい――
盛周は、苦笑いした。秀綱の背を見ていたら、ふと昔のことを思い出した。
盛周は、かつて大宝寺義氏の小姓の一人として、仕えていた。だが、盛周は、義氏の戦に次ぐ戦の日々を苦々しく思っていた。
朝日山城は、庄内でも山間部にあたる。平野に比べて、農地は少ない。しかし、過分な年貢負担や兵役負担が課され、盛周は父とともに領民の愚痴や不満を聞いてきた。
その時、盛周の愚痴や不満を聞いてくれたのが、秀綱だった。領主として主君の大宝寺家と
領民の間に板挟みになってしまう苦労を、秀綱は聞いてくれた。
「ああ。百姓様になりてえ」
この愚痴を何度秀綱に言ったかわからない。会った最初から、不思議と懐かしい感じがする奴だった。
「なんでお前は、義氏に馬鹿にされているのに、その能力を披露しないんだ」
盛周は、秀綱が才能を隠すのを不思議に思った。
「才能をかける価値を感じないからだ」
秀綱は、こともなげに言い放った。
「しかし、勿体ねえな。槍の才能は、白石のとっつぁんが認めてきれているんだろ」
野駆けで密かに鍛錬に付き合う盛周が、嘆いた。
「義氏のために命をかけたくないからだ。軟弱と思われて方が都合がいい」
「だが、俺も適わないほどだから羨ましいよ」
盛周はため息をついて、その場に座り込んだ。秀綱も槍を地において盛周の脇に座った。
「盛周に最も向いている得物は、槍ではないと思う」
「じゃあ、なんだ」
「鎖分銅だな」
鎖分銅とは、鉄の鎖の両端に、鉄球を結び付けた武器である。重さを利用して振り回し、鉄球を敵にぶつけて、大打撃を与えるのである。
「俺は、山賊か何かか」
盛周は、不服そうであった。
「まあ、そんな顔をするな。鎖分銅は、呉の猛将 甘寧が得意とした得物でな。攻防一体の武器になるんだぞ」
秀綱は、鎖分銅を次の機会に渡してくれた。盛周は、秀綱からの言われた通りに回してみたが、なかなかに難しかった。しかし、面白かった。練達すれば、木も打ち倒せると聞いたので、朝日山に戻ってたびたび、農民の隠し田の開墾のために、木を打ち倒す練習をした。一年もしたら、難なく木を打ち倒し、引き抜くこともできるようになった。
「さて、これで立派な山賊様の出来上がりだ」
盛周の言葉を聞いて、秀綱は大笑した。
しかし、盛周はこの業を、大宝寺家で披露することはなかった。もし知られたら、先鋒を任されてしまう。そうなったら、百姓上がりの兵たちに、下らぬ戦で毎回犠牲を強いることになる。それを避けたかった。そうやって、大宝寺支配の間は、盛周も猫を被っていた。
――鎖分銅は、俺が心から仕えるべき主君に出会った時に披露するとしよう――
盛周は、自分の中で、そう決めた。
――最上家の支配は、無理に年貢も取らずに、いい治世だったと思う――
秀綱はいい主君に仕えたと心底から羨ましく思った。そして、遅まきながら俺も、と思っていた矢先だった、上杉が庄内に侵攻してきたのは。
――だからこそ、お前をこんなところで死なせるわけにはいかねえんだ――
盛周は、降伏する旨を上杉家の本庄繁長に伝えた。繁長からは、開城を命じられた。
盛周は大手門を開いた。続々と、上杉兵が朝日山城に入ってきた。
盛周の周囲には、異様な軍団が取り巻いていた。甲冑とは名ばかりのくすんだ胴丸に紐を括り付けた足軽や農兵、蓑を着て鉄砲を担いだ猟師、着飾った甲冑を着た兵などほとんどいなかった。
「おらたちのほとんどは、この辺の百姓だ。死なせたら、田畑耕せなくなるぞ」
「おれは猟師だ。クマが増えて大変なことになるぞ」
「だから、俺らの首領の盛周様を殺しちゃなんねえだ」
領民たちが口々に盛周をかばった。
「安堵いたせ。ここまでお主らに慕われた領主を殺しはせぬ。それに、先ほどの援軍は、最上軍きっての猛将 鮭延秀綱殿だ。彼が出てきたからには、これ以上は手を出せぬ」
上杉軍の総大将 本庄繁長が、そう言った。
――よし、思惑通りだ――
盛周は安堵し、繁長に感謝の意を伝えた。
――鎖分銅は、まだ披露できそうにないようだな――
鎖分銅は、城の武器庫の床下に隠している。その存在をふと思い出しながら、盛周は繁長に場内を案内した。
池田盛周と言う人物を紹介しないとと思い、書いています。
次回は、最上義光が、豊臣秀吉に上杉の行動を訴えます。




