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太史慈転生伝~最上義光を放っておけないので家臣になって手助けしちゃいました~  作者: 黒武者 因幡


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3/15

志村光安という男②

――そういえば、こんな奴がいたような気がする――

 秀綱は、過去に光安のような男に出会っていた。確実に会っている。それは確信があった。

 しかし、それが誰なのか。そこは記憶に靄がかかっているように思い出せなかった。


――俺もそんな年ではないのにな――

 脇にいる守衛が、最近は『あれ、それ』という言葉で、思い出せない何かを伝えようとしていることを思い浮かべた。

――俺も守衛を笑うことはできないようだ―― 

 秀綱は苦笑した。その間にも、光安の言葉は、流れる水のように続いていた。これは俺が止めないと止まらないだろう。


「場を読まれよご使者殿!」

 秀綱は笑みを抑えて、光安を一喝した。光安はハッとしてバツの悪そうな顔をした。

「どうもいけませんね。頭の回転と舌の回転が合致した際に、とめどもなく言葉が出てきてしまうものでして……」

「ご使者殿の申し出はよくわかった。されど、我ら小野寺の家から遇されているゆえ、最上家に降るつもりはござらぬ」

 厳として秀綱は言った。だが、光安は首を傾げた。納得できないという表情を浮かべている。そして、光安は右斜め下から見上げるように視線を秀綱に向けてきた。


――これも誰かの癖であったな。だが、思い出せぬ――

 眉間に皺寄せる秀綱に構わずに、光安が疑問をぶつける。


「どうして?小野寺は鮭延家を見捨てたよ。ぶっちゃけるけどさ、真室川侵攻に先立って、小野寺や大宝寺に忍びを放って評判を聞いたんだ。そうしたら、面白いね。鮭延秀綱という人物についての評価が二分したんだよ」

 急に言葉が砕けた。無礼ではある。しかし、秀綱は悪い気はしなかった。そう、かつての友人でこんな言葉遣いの奴がいたからだ。


――けど、思い出せん。俺もようよう惚けてきてしまったようだ――

 光安も再びが頭と舌の回転がかみ合ったようだ。秀綱に構わず続けた。


「武将級の連中は、秀綱殿は愚鈍だと貶した。けれど、足軽階級や民衆たちは、絶賛したんだよね。勇気のある若者だとか、学のない者にも計算や文字を教えてくれたとかね。大宝寺のところの、藤島兵右衛門って覚えてる?30歳くらいで一本気だけど、計算や文字がてんでダメだったでしょ。でもね、彼なんか秀綱殿に教えてもらった計算を磨いて、庄屋になれたって、感謝してたよ。最期まで」

――んん、最期まで?――


 うんざりして聞き流し始めていた光安の言葉で、最期という言葉がひっかかった。

「最期まで?聞き捨てならんな。何があったんだ」

「いいね、言葉が崩れてきたね。聞きたい?じゃ、話すね。大宝寺の年貢徴収が厳しくて、兵右衛門は年貢をごまかして申告したんだ。無論、民を少しでも助けようとしてね。それがバレた。で、これだよ」

 光安は手刀を首に当てた。斬首に処された暗示であった。


「なぜ、それを貴殿が知っている。なぜ、兵右衛門のことを知っているんだ」

 言葉が震えているのがわかる。俺も動揺を隠せないでいる。多くの者が知っておけば役に立つ。秀綱は、戦働きができない者が、計算ができれば戦場に立たないで済むかも知れないと思って、足軽や領民に密かに計算や文字を教えていた。


「俺のせいなのか……」

 秀綱は呟いた。言葉には後悔の念がにじみ出た。

「大宝寺が愚かなだけだって。兵右衛門は、大宝寺も見限ってて、最上家に情報も流してくれてたんだ。その顔見知りの忍びが最期に会って、兵右衛門からこの感謝の言葉を聞いたんだって」

 俺には光安の言葉の半分も届いていなかった。


「兵右衛門は、秀綱様が最上家に仕えてくれたらいいのに。年貢の徴収も厳しくしないし、民にはいい殿様だって聞いてるって話してたからね。でもね、この件があって、心ある武士たちが一人、また一人と大宝寺家を去っているんだよね。小野寺も同じ、戦しか能のない大名だからね。同じことが起こってる。だから、最上家に来なって。絶対に活躍できるからさ」

「だからと言って、最上義光に降るいわれはない」

 光安は、ため息をついた。ヤレヤレという感じで両の手を真上に向けた。首を傾げて俯いていたが、やがて顔を静かに上げた。表情には微笑みを浮かべている。


「強情だね。まあ、いいや。一度で説得できれば御の字だったけど、仕方ない。じゃ、戦い《やり》ますか。一度は戦わないと、収まらないだろうからね。明後日、我が軍は総攻撃をかけます。ご準備あれ」

 光安は一礼して、床几を立った。立った拍子に扇子が落ちた。秀綱はそれに気づいて、光安を呼び止めた。

「いいや。おいていきます。また、会った時に返してくだされ」

 光安は大勝しながら陣幕を出て、城を後にした。


「人を食ったような若造でしたな」

 式部が忌々しげに吐き捨てた。

「まあな。だが、そこまで不快感はなかった。不思議とな」 

 どこかで会っているかもというところは言葉を飲んだ。守衛から『殿も惚けた』と言われるのは不本意だったからだ。

「鳳凰か……」

 光安がおいていった扇子には、見事な鳳凰が描かれていた。秀綱は頭に、かすかな痛みを感じた。


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― 新着の感想 ―
全体的な行間の詰め幅が話の流れを良くしている気がしました。 歴史に詳しい感じも好感持てますね。
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