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太史慈転生伝~最上義光を放っておけないので家臣になって手助けしちゃいました~  作者: 黒武者 因幡
第1章 最上家の武将 鮭延秀綱編

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嘉蔵の素性

嘉蔵の半生を描いています。

秀綱の許に来るまでの経緯もここで描いております。

お楽しみください。


 秀綱は、嘉蔵からの密書を見ていた。小野寺孫作に注意すべしと書いてあった。

 小野寺孫作は、小野寺家の軍師 八柏道為の甥であった。だが、子が道為にとっては、子供同然に養育していた。

 槍をとっては、仙北無双。家族を大事にするだけでなく、領民にも優しいと言われている。遊郭の中でも、孫作に商売抜きで抱かれたいという妓が多いという。だが、黒沢甚兵衛などは孫作に警戒しているらしく、追い落とすために身辺を探っているという。これは、孫作贔屓の妓に聞いたものらしい。


――確かに小野寺家の内情まで探る腕は凄いが、そろそろ引き上げ時だな――

 秀綱は、嘉蔵に引き上げるように繋ぎの忍びに伝達をさせた。


◇◇◇


「この簪、お姉さんの美しさを引き立てます」

 嘉蔵は、飾り職人として遊郭に出入りしていた。横手の遊郭には、嘉蔵の細工をいつも買ってくれる馴染みがいた。その妓から様々な情報を仕入れることができた。

「嘉蔵さん、ちょいといいですか」

 楼主から嘉蔵は呼び止められた。

「そんじゃ、姉さんがた。しばらく眺めていてくださいまし」

 嘉蔵は、遊女たちのために装飾品を展示して、楼主の部屋についていった。


「いや、嘉蔵さんが来てくれて助かったよ。廓のことに詳しくて、いろいろ頼んでしまって悪かったね」

 楼主は、銀銭を5枚もくれた。嘉蔵は、礼を言って受け取った。


「いえ、オイラも元々は遊郭で生まれた父なし子なんですよ。そこの楼主様が、坊主と知り合いで、字や計算を学ばせてくれまして。それで、今のおやじさんのところで重宝されて、商売を任せてもらえるようになったんでさ。ですから、遊郭の人たちが何で困るかわかりますし、子供の面倒もお手の物なんでさ」

 楼主は、感心したように言った。


「だけどねえ、子供が生まれても育てるのはなかなか大変だろ、金がかかる。正直、どこかで売れないかと思っても、大して高くは売れないだろう。遊女たちも、母の情があるから、変なところに売れない。正直持て余しておるのです」


「それならあっしが買いましょうか。いえね、隣の最上領になるんですが、鮭延家の領内に景円寺っていう寺がありまして。そこの住職が、こういった困った子供を引き取ってるんですよ。なんでも計算を教えて、文字を教えてって、仕込んでるみたいで。そこに連れていくことができますよ。将来は、坊さんか商売人の家に行けるって話せば、喜んで手放してくれるんじゃねえですか。それにね……」

 嘉蔵は、少し間をおいて、話を続けた。

「あの子ら見てると、他人じゃないように思えるんですよ。だから、放っておけないし、あっしのように何らかの仕事ができるようになれば、いいなあって思うんですよ」

 嘉蔵の提案に、楼主も乗り気であった。食い扶持が減らせれば、それだけで得になる。後日、この遊郭から3人ほど、他の店からも合わせて7人ほどの子供を嘉蔵が引き取りにくることで話がついた。


「嘉蔵さん、せっかくだから、風呂でも入っていかないか?」

 楼主から誘われた。

「いいですが、無料じゃあ気が引けます。ついでに風呂掃除をしてもよいですか?そうしたら、子供たちにも別の仕事をさせられるでしょう」

「すまないねえ。じゃ、お願いしようかね」

「じゃ、その代わりあの細工を全部、お姉さん方のために買ってもらいましょうか」

「ははは、それは高すぎるが、いくつかは買わせてもらうよ。準備はしておくから、ゆっくり入って、掃除もお願いしようかね」

「じゃ、一刻ほど借りますよ」


 この廓では、温泉を引いている。それを売りにしている。だから、湯あみができるということは、贅沢なものであった。昼は遊郭も人が来る時間ではない。遊女たちも、今は休息の時間であった。嘉蔵は、掃除を行うので、今は誰も入らないでと伝えて、風呂に向かった。


 嘉蔵は、目尻が垂れ気味の、優しい顔であった。雰囲気も殺伐としていない。髪は、黒く染めているが、実は少し茶がかかっている。瞳の色は、鳶色であった。そして、胸はない。男のものも、ない。

 嘉蔵は、男として生きているのである。それを選んだのは、嘉蔵自身であった。


◇◇◇


 嘉蔵は、もとは華野かのという名であった。しかし、10にも満たぬ年に、侍たちによって汚された。その折に、子をなすことができなくなった。他の娘たちに月のものが来ても、華野には来なかった。他の娘たちの胸が膨らんでも、華野は膨れなかった。

 次第に華野は、遊郭では厄介者になった。将来、女になれない者は、遊女として店に置いておくことはできない。男ほどに力がないので、店の力仕事や借金の取り立てなどの牛太郎の仕事もできない。

 

 そんな折に、楯岡満茂の率いる最上家の忍びから店に声がかかった。表向きは奉公人をほしいという話であった。楼主は、喜んで華野を売った。


 だが、華野が女忍びとして活動することはなかった。遊郭上がりで期待されたのが、体を使って男から情報を引き出す手練手管であった。しかし、華野は、訓練として上忍と同衾するだけで、体が恐怖で硬直して動かなくなった。上忍は女忍びの価値はないと言い切った。そこで、華野は、長い髪を切り、男として活動したいと言った。

 そして、他の男忍びと同様に課される厳しい訓練を乗り越え、周囲に認めさせたのである。このことを知っているのは、満茂含めてごく数人であった。華野を改めて嘉蔵と名乗って活動している。



 かつて小野寺家に対しての内偵をしていた嘉蔵は、当時、小野寺家に仕えていた鮭延秀綱の周囲を調べていた。小野寺義道と上手くいっていないなど聞いていた。その過程で、秀綱が周囲の小者や領民たちに文字や計算を教えていることを知った。その者たちに、嘉蔵は秀綱に関して尋ねた。文字や計算ができれば、仕事の幅が広がると伝えていたことを知った。


 嘉蔵は、一度身分を隠して、秀綱に文字を教わったこともある。優しい声であった。そして、懐かしい声であった。あの人と、雰囲気が似ていた。かつて、役人になって迎えに来ると言ってくれたあの人に。

そして、迎えに来る前に、私が死んでしまって、約束を果たせてあげられなかった、あの人に。


 嘉蔵は、秀綱を味方にすべしと強く進言した。家中では、秀綱討つべしの声も強かった。それは、忍びと言う分限を超えたものだった。周囲から僭越であると咎められた。それでも、主張を変えなかった。忍びの仕事を解任するとまで脅された。それでも、嘉蔵は主張し続けた。そして、抗議のため遊郭に行って、その後一切の仕事を放棄した。


 最上義光は、満茂から強硬に秀綱を味方にすべきだという者がいて困ると相談を受けた。義光は面白く思った。そこまで思わせるならと、義光は、嘉蔵が籠る遊郭までやってきた。嘉蔵は、義光に自分の出自から何からを話した。一点、懐かしいあの人に似ているという点だけを除いて。


 義光は、嘉蔵の話を聞いて涙を流した。

「お主をそこまで惚れさせるくらいの者じゃ。我が最上の家にも役立つ者となろう」

 義光は、秀綱を決して討つことはないと嘉蔵に約束してくれた。


「そこまで慕っておるなら、お主を側女として迎えるよう秀綱に取り計らってやろうか」

 義光は言ってくれた。だが、嘉蔵は首を横に振った。


「武将に仕える女子は、子をなすが大事な役割。それがなせない私には、それは勤まりません。私は、忍びです。妻や側女として向き合うよりも、秀綱様の隣で同じ方向を向いて進んでいきたいと思っています」

 断ったが、嘉蔵の胸中は乱れた。


◇◇◇


「秀綱が、配下にできる忍びの派遣を願い出ている」

 満茂が、嘉蔵を呼び出した。有屋峠の戦い以後、小野寺家との戦いの最前線は、鮭延城になる。そこで、忍びの増強を申し出たのは自然であった。満茂の言葉に嘉蔵はすぐに応じた。


◇◇◇

 嘉蔵は、これまで多くの出来事があったような気がした。だが、今はこうして秀綱に仕えることができている。それは、複雑だが、嬉しいことであった。


 嘉蔵は想いにふけるうちに、長く湯に当たりすぎていると感じた。急ぎ、掃除をせねば、人が来てしまう。嘉蔵は急ぎ服をきた。不要かもしれないさらしも胸にまいた。


――あ、子供を引き取るという許可を秀綱様に貰っていなかった――

 嘉蔵は、手抜かりを思い出した。


――だけど、大丈夫。秀綱様は、決して断らない――

 嘉蔵は、確信を持っていた。

 嘉蔵は、急ぎ風呂掃除を終わらせた。少し雑かも知れないなと思ったが、目を瞑ってもらおう。

 嘉蔵は、楼主に再訪を約した挨拶を済ませ、鮭延城への帰路についた。

対小野寺の戦略は、しばらく暗闘になっていきます。

そこは、ちょいちょいとしか描きません。


そして、作中で書いていた嘉蔵もとい華野の成長に関してですが、思春期に無月経の場合、女性的な体にならないという症状が出る場合があります。


また、十歳程度で汚されるという表現で眉を顰める方も多いと思います。

ただ、近代戦ですが、戦記や生存者の証言で、下は幼児や赤ん坊 上は70歳80歳の女性でも被害にあったケースが報告されています。


戦国期の日本でも、残念ながら同様のケースもあったと推定して、描いています。

ただ、全ては戦争という者を単なる猛々しいものではなく、残念ながら蹂躙されてしまった人も出るものだと思って、書いています。


今後も、戦争には双方に様々な想いを持って臨んでいる人がいるという格好で描いていきます。


今後のスタンスについて、ご了承いただければ幸いです。



さて、時代は戦国も末期に差し掛かり、中央では豊臣秀吉が天下を手中に収め始めます。

今後は、対秀吉の外交も必要となってきます。


秀綱・光安コンビ、再び上方に行きます。

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