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太史慈転生伝~最上義光を放っておけないので家臣になって手助けしちゃいました~  作者: 黒武者 因幡
第1章 最上家の武将 鮭延秀綱編

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秀綱の夢 太史慈の恋

今回は、なかなか描いて来なかった太史慈の記憶を呼び覚ましています。

嘉蔵という、はみ出し者の忍びの出現がきっかけで、秀綱は、太史慈の記憶を夢で見ていきます。

 秀綱は、微睡んでいた。横手に潜伏した嘉蔵は、商人や旅芸人、神職や坊主に扮した忍びに小野寺家の内情を記した密書を送ってきた。

 そこから、今後調略できそうな者や、主家になおも忠誠を誓う者など知ることができる。

――全て寝物語で聞き出したのだとすると、女郎にここまで信頼を受けられる嘉蔵の才覚はたいしたものだ――

 秀綱は、驚嘆した。


 そうした密書に目を通しているうちに、秀綱は眠気を覚えた。密書を全て燃やしてから、軽く午睡に入った。


◇◇◇

 見覚えのある建物であった。3階建ての、少々派手な装飾が施されている。装飾で経年の劣化をごまかそうと言う、店主の苦肉の策なのだろう。

――そうか、ここは妓楼だったな――

 

 この建物は、記憶にあった。だが、この国の、この時代のものではない。後漢の末期、地方のさびれた町に、数件あるだけの妓楼であった。これは、太史慈の記憶にあったものだった。


 太史慈は、確かに覚えのある妓楼に上がった。人の気配はない。誰もいないのかと思った。


「あら、本当にやってきたのですね」

 奥から女が出てきた。都の妓が着ているものには及ばないだろう。しかし、仕立てのしっかりした服であった。少し目が垂れている。気立ては優しい女であった。

 髪色は少し茶がかっていた。瞳も黒ではない、鳶色であった。どこかの異民族の血が入っているのかも知れない。胸はない。女としての魅力は、決して高いとは言えなかった。だが、太史慈はこの妓といると、安心感を覚えた。


「青州の官吏として採用された。俺の故郷にも近い。だから、その、俺についてきてくれないか」

 太史慈は、妓に行った。妓は困った顔をした。




 太史慈と妓の出会いは、町に攻め込んだ賊を、仕官先を求める旅の途中で、町を訪れた太史慈が打ち破ったことであった。弓と槍を効果的に使い、妓楼の金と妓を奪おうとした賊を何人も討ち取った。

 その際に負った多少の傷を、この妓が手当てしてくれた。太史慈は、しばし、この妓の所に滞在した。

ひものような暮らしであった。


 妓は、妓楼の子供たちに、文字を教えていた。妓は、子供たちが文字を読めれば、将来の仕事も変わってくると言った。

「こんな戦ばかりの世の中で、文字や計算ができれば、妓楼で一生終わらないで済むかも知れないからね」と微笑んで言った。

 太史慈も、子供たちへの教育を買って出た。先生が増えて、妓楼の子供たちは楽しそうであった。男の子には、太史慈は弓や剣の使い方も教えてやった。こんな暮らしも良いかも知れないと太史慈は思い始めていた。

 

 妓楼に来てから半年経って、太史慈は妓から別れを告げられた。なぜと問うと、

「あなたは志を失ってしまってます。ここにいたら、あなたはダメになってしまう、だから、別れます」と話した。

 妓は、自身の身の上を話した。かつて滅ぼされた国の役人の子だったこと。流れてこの町に来て、食べていくためには体を売るしかなかったこと。この国の言葉も、文字も満足にできない自分には、妓楼でしか仕事がなかったこと。妓楼では、望まない子が生まれることが多いこと。そんな子は、妓楼でしか仕事がないこと。その仕事も、楼主に搾取されてしまうこと。だから、せめて自身を守れる知識を持ってほしいと自分が学んだ漢の文字を教えていること。


「あなたは、この国を変えられるくらいの武勇と才能を持っています。それなのに、ここで暮らしていこうなんて思ってしまうのは、悲しいです。もし、そうなってしまった原因が私なら、将来あなたが助ける人を私が殺してしまうことになってしまう。それは、私にはできません。もし、それでも、出ていかないと言うのなら」

 妓は、短刀を抜いて、首に当てた。


「私は、自害します」

 こんな芯の強い女だったのかと、太史慈は驚いた。目は、真剣であった。

――そうか、こいつは俺のために――

 太史慈は、頷いて短刀を納めるように言った。


「わかった。お前は、私の楽に流れる心を立て直してくれた。これからも、私の心が揺らいでしまうかも知れん。こんな弱い私に傍に、お前がいてくれれば、俺は自分を見失わないで済む。迎えに来るから、待っていてくれ」

 太史慈は、そういうと、旅支度を始めた。

「男の約束は、妓楼では蓬莱の国の宝っていうのよ。あるわけがないって」

 妓は、笑って言った。見送りはなかった。



二年後、太史慈は青州の官吏として、仕えることが決まった。太史慈は、すぐに彼の妓楼に向かった。妓がいる保証はなかった。身請けされているかも知れない。他の好いた男と暮らしているかも知れない。

 

 だが、太史慈は妓は待っていてくれるような気がした。逸る気持ちで、妓楼に向かった。そして、妓がいた。二年前と変わっていなかった。



 だが、妓は困った顔をしていた。太史慈は、他に好きな男でもできたのだろうかと思った。それならそれで、仕方がない。太史慈は妓の返答を待った。


「私、もうあなたについていけなくなってしまったんです」

 そう言うと、妓の姿が消えた。点いていた灯りも消えて、薄暗い妓楼だけが残った。だが、その建物は、あばら家であった。屋根が抜け落ちていた。焼けた跡もあった。


 太史慈は、慌てて外に出た。一人の老父が歩いていた。太史慈は、老父を捕まえて、妓楼で何があったのかを尋ねた。


「賊が、この村を襲ったのです。妓楼の方々も襲われてしまって、殺された人もいたと聞きました」

――そうであれば、先ほどの妓は一体?――


 呆然とした太史慈に向けて、老父は言った。

「そういえば、一人の妓が、最後まで妓楼に残ったそうです。ここを離れたら、あの人が迎えに来た時、困るだろうって言ってたようですよ。もし、旦那さんが、その待ち人であったなら、あの丘に上に、その妓の墓がございます。町人たちも、あの妓の方には、日中には、子供の世話などで助けてもらいましたから。せめてもの感謝をささげているんですよ」


 太史慈は、老父が教えてくれた墓に行った。質素であった。だが、町人たちが度々墓参しているのだろう。荒れてはいなかった。太史慈は、墓の前に号泣した。



◇◇◇

「殿、いかがなされましたか」

 心配する鳥海守衛の声で、秀綱は、目が覚めた。

――夢だったのか――

 秀綱は、指を目尻に持って行った。どうやら、泣いていたらしい。


「夢を見ていた」

「ほほう、剛勇を持って知られる殿が泣くとは、どのような怖い夢であったのでしょうな」

「女に振られた夢を見た」

 秀綱が言うと、守衛は呵々大笑した。


「幾千もの敵を相手にひるまぬ殿をそこまで打ち負かす女にお会いしたいものですな」

「弄るな、守衛」

 守衛は、最後まで聞かずに笑いながら立ち去っていった。


――遊郭云々の話をする嘉蔵のおかげで、記憶が呼び覚まされてしまったのかも知れんな――

 秀綱は、苦笑した。

――だが、あの妓に会えるなら、もう一度会ってみたい――


 秀綱は涙の痕を拭って、窓から天を仰ぎ見た。



 

 

次回は、嘉蔵について、掘り下げて書いていきます

どんな人物なのか

楽しみにしてもらえれば、嬉しいです。

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