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太史慈転生伝~最上義光を放っておけないので家臣になって手助けしちゃいました~  作者: 黒武者 因幡
第1章 最上家の武将 鮭延秀綱編

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遊郭に詳しい忍び 嘉蔵

新たな登場人物 忍びの嘉蔵が加わります。その嘉蔵から、小野寺家の内情が知らされます。

 秀綱は、楯岡満茂たておかみつしげの家臣・山根大善やまねだいぜんに面会していた。大善は、一人の忍びを連れてきていた。

「秀綱殿、この者を使っていただけまいか」

 大善は、忍びに挨拶をするよう促した。


「お初お目にかかります。嘉蔵かぞうと申します」

 忍びは丁寧に挨拶をした。背は低いが、若く顔立ちの整った声のやや高い男だと秀綱は思った。


「ところで、大善。この者を俺が使えとはどういうことだ。忍びは俺の所にも何人かいるのだが」

「はっ、それがこの嘉蔵、腕は良いものの、なかなかの問題児でありましてな」

 問題児と紹介されても、嘉蔵は平然としていた。そんなことは気にしていないようである。

――太々(ふてぶて)しい者やも知れんな――

 秀綱は、面白いと思った。


「で、どのような問題を起こしているのだ?」

「はっ、実はこの者、遊郭に度々出入りしており、そのために仕事をほっぽり出すこと一度や二度ではございません。そこで」

 秀綱は、大善のその先の言葉を奪った。

「遊郭などないこんな田舎の俺に押し付けよう、ということだな」

「いや、それは……」

 大善は困った様子を見せた。秀綱は高笑いした。


「何、本当のことだ。仕方あるまい。それに、ここは対小野寺の最前線、優秀な忍びは何人でもほしい。俺自身は、嘉蔵を歓迎する」

 秀綱の言葉に大善は安堵したようだ。


「だが、ここは遊郭もない場所だぞ、退屈になったとて、逃げてはいかぬぞ」

 秀綱は、嘉蔵に屹度きっと伝えた。


「大丈夫です。こんな田舎でも、遊女は来るでしょう。その女たちに会わせてくれるだけでいいです」

 嘉蔵は、抑揚のない声で話した。大善が、その無礼をたしなめた。


――面白いが、面倒くさい奴でもありそうだな――

 秀綱は苦笑した。


「大善様は、女が嫌いですか」

 嘉蔵は、大善にいきなり話を振った。

「何をいきなり!……」

 大善は、嘉蔵を叱った。


「大抵の男は、女が好きなものです。いかに口が堅くても、堅くなったあっちを宥めてやれば、口も柔らかくなるってもんです。その寝物語を集めてくるのが、オイラの得意技ですよ、秀綱様。そのために、オイラは遊郭に出入りするんです。決して、己の欲望の解消じゃあねえんです」

――なるほど、見目は美形であるから、女が惚れるのやも知れんな――

 秀綱は、その外見を褒めた。


「いえ、それだけで落とせるほど女は甘くないですよ」 

 嘉蔵は、右手の人差し指と中指をせわしなく動かした。


「こっちの業も上手くないと、女は口を割りません」

「調子に乗るな」

 秀綱は、嘉蔵の手をぴしゃりと叩いた。嘉蔵は不満そうに大善を睨んだ。


「大善様は、所詮しょせんお武家様です。それなりの家格の武家の娘を嫁に貰って、はいおしまいなのでしょう。しかし、市井しせいの女は違います。こんな乱世だ、話したくない事情の1つや2つは誰でもあるものです。その悲しみや苦しみを隠して、好きでもない男に抱かれて、あなたが一番と一夜限りの浮ついた言の葉を口にする。遊女は、そんな悲しい生き物なんですよ」

――面白いことを申すな―― 

 秀綱は、嘉蔵の言葉の先を聞きたいと思い、目線で促した。嘉蔵も察して先を続けた。


「秀綱様も興味を持たれたようなんで、続けます。虚の中に実を混ぜ、実の中にも虚を感じる。そんな空蝉うつせみのような時を遊女は生きているんです。そして、獲物を徐々に虜にしていく。まあ、女郎蜘蛛じょろうぐもとはよく言ったもので、獲物をからめとっていくんです。その手錬手管てれんてくだは、さしずめ戦です。しかし、そんな女の戦は、誰も顧みません。しかし、心におりのようにどす黒いものが残ってしまうんです。それを、私は聞いてやってるんですよ」

 嘉蔵は誇らしく語った。


「だからと言って、満茂様への報告が遅れたことは多々あろうが」

 大善が怒って割って入った。

「それは大した話じゃないからですよ。戻るよりも、居続けた方がよりよい話を聞きだせる、調べる手がかりを掴めそうだと思ったからです。満茂様は、それを理解して下さってるんですがね」

 大善は、口の減らない嘉蔵に怒り心頭に発していた。


「大善、わかった。そのまま、満茂殿のところにいたら、無用な諍いが生まれそうだな。だから、俺に厄介払いで、嘉蔵を押し付けようという魂胆なのだな」

 大善は、反論はしなかった。本当にそうなのだろう。秀綱は苦笑した。


「秀綱様、厄介払いなんて悲しいことを仰らないでくださいませ」

 嘉蔵は悲しそうな声を出した。


「まあ、今までの話を聞いていれば、そう言われても仕方あるまい。しかし、優秀な忍びというのは、確かなのだろう。俺は、その腕を実際に見てみたい。小野寺家のその後の内情を探れるか」

 秀綱の提案に、嘉蔵も乗り気であった。


「お任せを。横手は、大きい町です。遊郭も何軒かあります。いい情報を掴んできますよ。待っててください」

 そういうと、すぐに下がって、横手に向けて出発してしまったようだ。

 大善は、分別なく怒った無礼と秀綱に迷惑をかける旨を詫びて、帰っていった。


 それから、1月後、嘉蔵は小野寺家の内情を伝えてくれたのである。


◇◇◇

 小野寺義道は、苛立っていた。総大将を八柏道為にして、鮭延城奪還を狙った戦であった。しかし、有屋峠を占領しながら、秀綱たちに敗れた。本来は、道為を叱責して、隠居を迫ってもいいくらいの失態だと義道は思っていた。

 しかし、軍監の荒沢兵庫あらさわひょうごは、戦の敗因は、峠を守備する黒沢甚兵衛の怠慢にあると、満座の前で報告したのである。その甚兵衛を軍にねじ込んだのは、義道であった。義道は、遠回しに批判されているのだと受け取った。


 甚兵衛は、伏兵を感知できなかった道為に非があると主張したが、道為に心酔する武将たちが小野寺家では多い。それに、軍監の報告では、道為は鮭延城で最上軍と1000で渡り合ったことが伝えられて

いた。衆議では、甚兵衛が2000の兵を擁しながら、100の伏兵に敗れたことを問題視する声が強かった。


 道為は、自身の不徳の致すところであると一切、弁明しなかった。しかし、それが却って甚兵衛や義道には、不遜であると映った。


「そもそも、道為殿は、撤退時に追撃すらされなかったご様子。ひょっとして、道為殿は、敵に親しい者でもいたのですか」


 甚兵衛は、苦し紛れに道為に内応の疑惑ありと非難した。それで、衆議で袋叩きにあったようだ。

 結局、衆議は特に批難や責任は追及せずに、今後は鮭延城の奪還を目指して策を練っていくことで落ち着いた。

――道為が、最上と通じている? まさかな――

 義道は、最初はそう思った。だが、衆議から日をおいて、義道の心では、「まさか」が「もしや」にじっくりと昇華していった。


◇◇◇ 

 嘉蔵の報告を見て、小野寺家の状況が手に取るようであった。これは、全て小野寺家の人間が、遊郭で話した内容を紡いだものであった。そして、甚兵衛の家中では、道為への遺恨というか、逆恨みを抱く者が多いという報告もついていた。

――嘉蔵は思わぬ拾い物やも知れぬな――

 秀綱は、書状を見ながら思った。

「家中の者たちに、女遊びの折に言動に細心の注意を払うように徹底せねばなりませんな」


 脇で、鳥海守衛とりうみもりえが独り言ちた。


――たしかに、嘉蔵のような忍びがいたら、我が家中の内情まで知られてしまいかねんな――

 

――よし、今度、嘉蔵に対策を相談するか――

 秀綱は、そう強く誓った。


次回は、嘉蔵の生い立ちや内面を掘り下げて紹介していきます。どのようなキャラなのか、少しずつ、披露していく予定です。


今後も、あと2名ばかり、家中の問題児を秀綱のもとにつけます。


太史慈に部下にも鶏鳴狗盗で多様な人材がいたことも思い出していきます。

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激しい戦乱の世を描いた雰囲気を大事にされていますね。
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