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太史慈転生伝~最上義光を放っておけないので家臣になって手助けしちゃいました~  作者: 黒武者 因幡
第1章 最上家の武将 鮭延秀綱編

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決着 有屋峠の合戦

有屋峠の合戦は、最上軍の伏兵で勝利を掴みます

 秀綱は、兵100を率いて、静かに山中を進んだ。道とはいえ、ほとんど獣道である。綱元の先導で、恰好が揃いきっていない兵がその後をついていった。

 さすがに、100人分の甲冑や武器をそろえることはできなかった。平服で刀を差す兵や、作務衣の兵、木こりの格好で斧を手にした者もいた。

――これ、山賊の一団のようだな――

 秀綱は背後に従う者を振り返って、苦笑した。道中、脇にいた兵にその話をしたところ


「なに、あそこにいけば武器があるんでしょう」

 とこともなげにいった。視線の先には、陣幕を張った小野寺軍の陣が見えてきた。朝日もあがったきた。兵士の動きも見えるころだ。秀綱は、兵を伏せさせ、忍びを2名、斥候に向かわせた。



「たるんでいます」

 斥候の忍びの報告は簡潔だった。まだ、大半の兵士が寝ているというのである。戦は、道為に任せきりで、善戦の道為への兵の補充程度の働きしかしていないようであった。

 秀綱は、嬉しさよりも情けなさに襲われた。仮にも戦場であるはずなのに、指揮する将の覚悟がこの程度であったのかと思った。

――なんだか、八柏の爺様のことが哀れに思えてきたな――

 

 だが、好機であることは疑いようもない。秀綱は、忍びを5名送った。

忍びは、見張りの兵二人の背後に回り、容易く喉笛を掻き切った。二人は、声も上げられず、鮮血を吹き出して、その場に倒れた。

 

「よいか、攻め込んだ際には、謀反だと叫べ 敵将の黒沢甚兵衛は決して殺すな。ただ、敵に混乱を生じさせるだけでよい」

 秀綱は、100名の兵に命じた。

「敵将を討たないのですか?」

 綱元が、疑問の声を上げた。

「討たん。生かして小野寺に帰す。無能な上は生かしておけば、後で役にたつからな」


「綱元殿。間違って、無能な将を討ったら、後任に優秀な将が抜擢されてしまう恐れもあります。将は無能なままがいいのですよ」

 古参の兵が、若い綱元に解説した。綱元も納得したようである。


「しかし、秀綱様は若くしてそんなことを理解されているとは驚きですな。既に老将の風格だ漂ってますな」

「老けていると申すか」

「安心できるって意味ですよう」

 古参兵士が、木こりの格好で秀綱をからかった。周囲に笑いが起こる。笑いは、緊張を適度にほぐす。伏兵一団にいい雰囲気が漂ってきた。


「では、参るぞ」

 秀綱は、右手を高く上げ、前に倒した。突撃の合図である。伏兵100人、吶喊して小野寺陣に迫った。

「謀反じゃあ!謀反人が出たぞう!!」

「乱捕りじゃあ。民衆が我が陣を襲ってきておるぞう」

「火縄の臭いじゃ、鉄砲に気を付けろ!!」

 ドン!と銃撃音が一発響いた。鉄砲を見つけた伏兵の誰かが、威勢よくぶっ放したらしい。


◇◇◇

「何事じゃああ!」

 甲冑を解いて寝間着に着替えていた黒沢甚兵衛は、動揺していた。その動揺に、謀反や乱捕りなど秀綱の伏兵が叫ぶ声が拍車をかけた。


外岡殿とのおかどの、御謀反のようでございます」

 憶測と事実が混じった報告は、軍の混乱をさらに増していく。


「ええい、謀反人を討ちとれい!」

 甚兵衛の指示で、ついに同士討ちまでが始まった。


 急ぎ甲冑を着用しようとする甚兵衛であったが、周囲に人はなく、脛当てと這盾までしか着用できないまま混乱の渦に飲み込まれていた。


◇◇◇


「火を放てえ!!」

 秀綱の号令で、陣幕に一斉に火が放たれた。白煙黒煙が混じって、空に高くたなびいた。これで、峠の混乱が、城下の八柏道為にも伝わるはずであった。

 秀綱が、ふと脇を見ると、木こり姿であった兵が、敵の槍を奪って、奮戦していた。

――まんま、山賊のそれだな――

 秀綱は苦笑した。

「山賊の一団も加わっているぞ、金目の物を隠せ」

 秀綱が、戯れに叫んだ。

「がーっはっはっは お主ら金目の物をおいていけえ。さすれば命までは奪いはせんぞ!」

 先ほどの古参の兵が、斧を敵兵に投げた。その斧が、逃げる敵兵の背中にドカッっという大きな音を立てて、刺さった。


「おお、斧は意外と使えるな。俺の得物にしよう」

「三国志でも魏の徐晃などは、戦斧の遣い手でもあったからな。お主に似合いだな」

「なんと殿は、彼の時代から生きておいでだったのですか」

「そうじゃ、年よりの言うことは聞けよ」

「畏まってそうろう


 こんな冗談も言い合えるくらい、敵兵は圧倒的な混乱に陥っていた。異変に気付いた道為が、引き上げてきても、もはや立て直しは利かないだろう。


「退くぞ!」

 秀綱たちは、素早く山林に退いていった。伏兵であると気づいた者もいただろうが、もはや対処する余裕はなかった。

 黒沢甚兵衛の退却の命を受けて、有屋峠の黒沢甚兵衛は撤退を開始したのである。


◇◇◇

「道為様、あれを」 

 道為は、愕然とした。背後の有屋峠の陣に火の手が上がっていた。


「伏兵か」

 道為は、即座に状況を理解した。援軍を向かわせようと思ったが、大手門の最上康義が、こちらを冷徹に見据えていた。隙を見せたら、即座に門を開き、追撃戦を開始するであろう。

――いつの間に伏兵を。万事休す、か――


 道為は、大手門の康義と秀綱を睨みつけた。秀綱と思しき男が、兜を脱いだ。

 道為は、再び愕然とした。秀綱ではない男だったからだ。


「お主は何者だ!」

 道為の問いに、光安は涼し気に応えた。

「最上軍の若手の天才軍師 志村伊豆守しむらいずのかみ光安あきやすと申します。以後、お見知りおきを」

 脇の義康が「自分で天才っていっちゃうんだ」という表情を浮かべていた。


――あの若造に掌の上で転がされておったか――


 道為は、高笑いした。完敗であった。見事なまでの負けであった。笑うしかなかった。


「八柏殿。我らは背後の陣を叩いた。既に黒沢甚兵衛は、ほうほうの態で湯沢城に逃げ帰ったであろう。ここで我らに降ればよし、降らねば」

 光安は、ここで言葉を切った。


「討ち取るということか」

 道為は、身構えた。大手門の中には、敵兵で充満しているだろう。撤退戦は戦では、もっとも難しい。多大な犠牲が出る。道為は、覚悟した。


「いえ、盛大にお見送りをさせていただきまする」


――何だと?――

 道為は、拍子抜けした。


「正直、私は八柏殿の才覚を買っております。今後、いろいろと教えていただきたく、今日は討ち取る気分ではございません」 

 光安は、そういってにこやかに手を振った。


――全く、食えぬ小僧だ――

 道為は、呵々大笑した。


「左様ならば、言葉に甘えて退かせていただくとしよう。だが、次回はこうは参らぬぞ」

「楽しみにしておりまする。迅雷の軍師の戦の手並み、この光安、しかと味わいたいと思うておりまする」


 道為は軍を退いていった。鮭延城からは、追撃はないようだった。道為は、途中、峠でも襲撃を警戒したが、敵味方ともに既に姿はなかった。


――この年で、ここまで完全に負けようとは思わなんだ。だが、次は負けぬぞ、光安、秀綱――

 道為は、負け戦とも思えぬ晴れやかな表情で引き揚げていった。

 だが、その姿を、黒沢甚兵衛の手の物が見ていたのである。

この戦が、後に小野寺家に激震をもたらす惨事に結びつきます。

しかし、それはだいぶ後の話です。


今後、秀綱は最上家の問題児を何人か任されることになります。

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