鳳凰の策
秀綱の苦境に援軍がやってきます。
その援軍は、まさかの人物でした。
秀綱は、苦々しく有屋峠を見上げていた。一度は抑えた峠を、八柏道為の巧みな用兵によって、奪還されてしまったのである。
その後、道為は峠の陣を後からきた黒沢甚兵衛に任せて、連日城下に姿を現した。焼き討ちをして、城の周りを焼け野原にしていった。
「おのれ、爺め。民の暮らしまで奪うか。出撃する。あの白髪首を刎ねてやる」
怒る秀綱を、光安が留めた。負傷した与左衛門も、道為の巧みな用兵を警戒して、秀綱を押しとどめた。
「くそ、狙いは俺の首らしいじゃねえか。一騎打ちで決めてやる。ここで焼け出されたら、この冬の民の暮らしが成り立たねえ」
秀綱は、いきり立って大手門の砦に上った。
3度目に城下に押し寄せた道為の軍勢が、鮭延城の正面にいた。先頭には、馬上に頭巾姿、甲冑を着て、赤い陣羽織を羽織った老将がいた。紛れもない道為であった。
「おい、糞爺!民に手を出すは止めろ。俺と一騎打ちで決めようじゃねえか」
秀綱の剣幕を、道為は笑って受け流した。
「かっかっか 一騎打ちなど三国志の時代でもなし。そんなものを受けるつもりもないぞ、秀綱」
――うるせえ!こっちはその三国志の時代の者なんじゃあ!!――
秀綱の喉から出かかって止まった。
「それに、お主と儂が一騎打ちしたら、百回やって百回ともお主に勝ちに決まっておろう」
道為は、呵々大笑した。秀綱は、憤怒の思いで道為を睨み返す。
「明日にはお主たちに援軍が参ろうほどに、じっくり話す機会は今日が最後であろう。秀綱、どうじゃ。降伏するつもりはないか。儂とお主が手を組めば、小野寺は最盛期を迎えられる」
道為は、優しい声音で秀綱に語り掛ける。
「断る。俺は、最上の殿の器量を認めた。小野寺義道の悪童よりも数十段も上だ。義道を支える爺様の気が知れん」
秀綱の言葉を道為は笑って受けた。
「確かにそうじゃろう。政治も兵法も、外交も格段に最上義光が上だ」
――あ、認めちゃうんだ!?――
秀綱は、あっさりと主君の狭量を認めた道為に驚いた。
「だがな、儂は小野寺を見捨てられんのだよ。輝道様と儂とで山河を駆け巡り、出羽の地を豊かにしたいと思った日々をな。義道様は、本当は優しい心根をもっておられる。きっと、名君となれる。儂が名君にする。我が甥っ子たちも、才能がある。帰ってこい。お主の父が仕えた小野寺家へ」
道為の言葉には、かつて秀綱を教え諭した時の優しさが込められていた。
だが、秀綱は応じない。
「笑止なり、道為の爺様。その覚醒とやらは、いつ起きる?明日か、一年後か、十年後か?来るかわからぬ時を待つほど、俺も民もお人よしではないぞ。今、この時、この瞬間に出羽に平和をもたらす力を持つは最上義光様以外におらぬ。義道がまともになって、義光様に仕える決断をしたら、その時は、口利きくらいはしてやるぞ」
「がっはっは、そうかやっぱりダメか。では、戦うか。者ども、あの糞生意気な小童を討ちとれい!首を持ってきた者は、この城の城主として認めるぞ!!」
道為の号令に、道為の兵は士気高い鬨を上げた。
「鉄砲隊、撃てい!」
道為の指示で、鉄砲が火を噴いた。ひゅん、と秀綱の脇を弾が霞めた。
「こちらも反撃ぞ!鉄砲隊、放て!」
今度は鮭延城側から轟音が響いた。城壁手前に迫った敵兵が、5人ほど倒れた。迫る道為軍、守る秀綱軍、双方互角の鬨が、城門前でせめぎ合った。
「がーっはっはっは!! そこまで褒められると嬉しいではないか!!」
両軍の鬨を凌ぐ大きさの高笑いが戦場に響き渡った。その直後、騎馬武者の一団が、道為軍を横から突いた。
「出羽に平和をもたらす男、最上義光見参じゃ!」
騎馬武者に続いて、金棒を振り回しながら、最上義光が現れた。既に、三人ほどを殴り倒している。
「くっ、もう着いたか。いかん、退け、退けい!!」
道為は、不利を悟って即座に軍を退かせた。義光は、深追いせずに軍を止め、鮭延城に向かってきた。
「開門、開門」
秀綱の命で大手門がすぐさま開かれた。呵々大笑しながら義光が、静かに楯岡満茂が入城した。ややあって、緋縅の甲冑に飛竜の前立て兜を被った若武者が入城した。
「秀綱、儂をそのように思っていてくれたのか。嬉しいぞ。がっはははは」
秀綱は援軍を要請したが、まさか義光が来るとは思っていなかった。
「殿、なぜここまで」
馬上から鷹揚と降りた義光は、秀綱の肩をぐっと掴んで言った。
「庄内の東禅寺が、援軍を求めたのでな。庄内に繰り出したところだったのだ。そうしたら、今度は鮭延城が危ないと言う。そこで、まずは、こちらの救援に来たと言うわけじゃ」
義光は、そういうと城内に入ってきた若武者を手招いた。若武者はやってきて、馬より降りた。
「秀綱よ、これは儂の嫡男・義康じゃ。儂はすぐに庄内に戻らねばならんが、こいつを残していく故、存分に使ってやってくれ」
「秀綱殿、初めてだったな。義康だ。名目上は総大将だが、この付近のことはよく知らん。駒として遠慮なく使ってくれ」
「まさか、左様なことをできるわけ」
秀綱が恐れ入って畏まると
「じゃあ、遠慮なくお願いしていいですか、義康様」
脇から光安がやってきた。
「なんだ、光安か。何か考え付いたのか」
義康も、気安く光安に応じた。秀綱は咎めるように光安に視線を送った。気づいた義康は笑って秀綱に声をかけた。
「光安の無茶ぶりは、家中では誰もが覚悟しておる。それよりも、良い結果をもたらすことが多いゆえな。お主も信長殿の件などで知っていよう」
「確かに」
秀綱もストンと腑に落ちた。
「あれ、私が面倒くさい人みたいな言い方ですな」
「みたいじゃなくて、そうなんだよ」
「なんだ、良い策を思いついたのに。ひどい言い草だな、秀綱」
光安が今度は恨めしそうに秀綱を睨んだ。
「よい、総大将の私が許す。策を申せ。儂はどこに突っ込んでいけばいいのだ」
――あ、やはりこの方、義光様の子なのだな――
秀綱は、納得した。だが、光安はそうではないと否定した。
「義康様の名前で使者を送ってほしいのです。焼け出された領民が、戦闘後の乱捕りを行うのを許してほしい。その間、我らは邪魔をしないので、小野寺軍も邪魔をしないでほしいと」
「それはいいが……。それだけでいいのか?」
義康も、秀綱も、光安の申し出に困惑した。
「はい、それだけでいいのです。八柏道為も本来は、民を大事にする将のはず。城下の焼き討ちには内心、心を痛めておりましょう。これは、応じるはずです」
光安は、自信ありげに話した。
そして、光安は楯岡満茂に尋ねた。
「満茂様の配下に、忍びは、今何人おりますか」
「10人おる」
無口な満茂に変わって、山根大善が応えた。
「上々です!これで、小野寺軍に勝てます。以後、八柏道為の挑発には乗らないようにしてください」
戦は、今後膠着状態が続くだろう。光安の策を試してみようと衆議は決した。
鳳雛こと龐統の転生者・志村伊豆守光安が、何かの策を思いつきました。
その策とは……次回のお楽しみに
ところで、伊豆守って知恵者は好んで名乗ります
なぜならば、知恵出るを文字っているからです。
天草島原の乱でも、江戸幕府の松平伊豆守が、知恵伊豆と言われてましたから
はい、横道それました
次回もお楽しみに




